隔月連載
  にっぽん飫肥杉仮面ばなし 第4話
文/ 河野健一
   
 
 
  2015年になりましたね。飫肥杉仮面です。 今年も、よろしくお願い申し上げすぎます。 新年一発目なので、おめでたく「鶴」の話でも書こうかと思ったのですが、ここは月刊「杉」ですので、仮面を着けて勇気を出して、普段より少し大胆になって、「杉」の話を書いてみようと思います。
   
  「杉に恩返し」
   
  むかしむかし、貧しいけれど心の優しい、おじいさんとおばあさんがいました。とても寒い大雪の日、おじいさんは町へ杉から作った薪(たきぎ)を売りに出かけました。温まるため、水筒には煮えたきぎ(薪)った熱いお茶を入れて。すると途中の田んぼの中で、1羽の鶴がワナにかかって、ワナワナともがき苦しんでいたのです。「おお、おお、かわいそうに」おじいさんは、鶴を逃がしてあげました。
   
  その夜、ツルツルおじいさんがカサカサおばあさんに鶴を助けた話をしていると、表の戸を叩く音が。「トントン、トントン」「ごめんください。開けてください」若い女の人の声です。おばあさんが戸を開けると、頭から雪をたくさんかぶった鶴が立っていました。かぶっていたのは雪だけではなく、顔面に飫肥杉製の仮面をかぶっています。
   
  その鶴仮面は「こんばんは。私は迷子になってしまいました。オーマイゴッド…。どうか一晩だけ泊めてください」と涙ながらに話します。おばあさんは、3つビックリ驚きました。
@鶴が喋っていること。
A鶴が飫肥杉仮面を着けていること。
B鶴が「飫肥杉仮面を着けると、人間の女性に変身できる」と信じ抜いているらしいこと。
   
  おばあさんは、幼い頃に母から聞いた昔話「鶴の恩返し」を思い出しました。そこで、この娘(鶴)のキモチを傷つけてはいけない!と考え、「まあ、まあ、寒かったでしょう。さあ、早く中へお入り」と、娘(仮面)を家に入れてあげました。
   
 
家に上がった娘(鶴仮面)は、突然「見ないでください!見ないでください!」と言い出しました。2人が目を逸らしてあげると、仮面を外して裏返し、また着けました。どうやら、飫肥杉仮面が裏返しだったようです。
そう。飫肥杉仮面は、飫肥杉の面が外側なのです。そうすると内側が透明な樹脂シートになるのでツルツルして、汗でビチョビチョしたりするものだから、杉面を内側にする人が多いです。でも、それだと飫肥杉のPRになりません。

鶴は泣きそうな声で独り言。
優しい2人は聞こえないふり。
「だって、ツルツルして冷たいから…」
きっとダジャレです。
「この変身ツール、ツルツルしてるから…」
間違いないです。
 
  とても優しい2人はこの晩から、意識してツルが付く言葉を使わないようにしました。「魚をツル」「ツルし柿」「ツル田真由」「お願いつかまツル」「ジャンボつる田のコブラツイスト」「ツールドフランス」などなど。
   
  その後、詳しい説明は省略して(笑)、娘がまた「見ないでください!」と言い出し、隣の部屋で木工を始めました。そして、とても素敵な腰掛けを作ってくれました。シンプルだけど、とても座り心地の良い腰掛けをたくさん。
   
  おじいさんは、娘の言うとおりに、その腰掛けを町へ売りに行くことにしました。「何と言う商品名にしようか?」「そうだ!イス+ツル=『いいスツール』でいこう!」まさにスツールという言葉が誕生した瞬間です。
   
  翌朝、出かけようとするおじいさんに、娘は「売れたお金で、できるだけ大きな飫肥杉を買ってきてください。弁甲材を」と言いました。いいスツールはビックリするほどの値段で売れ、おじいさんは命がけで弁甲材を引っ張って帰ってきました。これを何度か繰り返す日々。おじいさんは村一番の力持ちに。
   
 

ある日、娘が糞をしに、いや、おトイレに行っている隙に、おばあさんは隣の部屋(作業場)を見てしまいました。とても古くなっていた飫肥杉製のテーブルが、大きな新品に生まれ変わっていました。どうやら初回のスツールは、古いテーブルを再利用して製作し、最初の弁甲材でこの立派なテーブルを新しく作ってくれていたようです。

その後、おじいさん、おばあさん、自称「娘」(飫肥杉仮面ツル)の3人は、スツールを売ったお金で幸せに明るく楽しく暮らしましたとさ。

話が急に飛びますが、宮崎県の日南市。
飫肥藩という名だった江戸時代に、藩の財政を救うため、杉の植林が積極的に進められ、飫肥林業が始まりました。その後、昭和の時代頃まで、飫肥杉は日南の経済と活力の源でした。そうです。日南には、飫肥杉に助けられ続けていた時代があったのです。

近年、その飫肥杉が困っています。価格、後継者、花粉症、太りスギ、苗不足、伐採後の未植栽、放置、などなど。今こそ、日南が飫肥杉に恩返しをする時です。最近「地方創生」という言葉をよく耳にしますが、日南の再生は、飫肥杉の再生抜きでは語れないと思います。

歴史的にも、量的にも、とても豊富な飫肥杉。この飫肥杉を生かして、産業や雇用、起業、商品、まちづくり、人づくり、子育て支援、日南らしい景観、商店街の復活、賑わいづくり、豊かな暮らしを。
そして、日南に、飫肥杉で自信と誇り、郷土愛を。ボク、飫肥杉仮面がそう願った2006年から、早いもので10年目となりました。飫肥杉ダラケのまちづくり(略して「オビダラ」)が、さらに加速していくことを願って。

   
 
  平成27年1月8日 毎日新聞掲載
   
 
  平成27年1月1日 毎日新聞掲載
   
   
   
   
  ●<かわの・けんいち> 日南市役所 広報担当 / 日南市 飫肥杉課OB / スギダラ飫肥支部 広報宣伝部長・会員番号441
   
 
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