連載

 
吉野杉をハラオシしよう!〜“駆け出し”専務の修行日記〜第7回
文/写真 石橋 輝一
鍛え系杉連載。さぁ、吉野中央3代目と一緒に勉強だ!
 
   
こんにちは。連載7回目です。
奈良県吉野より今月も元気いっぱいでお贈りします!。

先月末7月30日にスギダラ関西支部にてバーベキュー大会が行われましたので、まずはその模様をご報告したいと思います。
当日は晴天。絶好のバーベキュー日和となりました。兵庫県、大阪府、滋賀県、奈良県……と関西一円より多くの会員の方に集まって頂きました。総勢15名です。

  写真01:迫力の製材シーンに驚きの声が!

バーベキューは午後3時からの開始で、その前に工場見学&山林見学を行いました。
学習机メーカーでデザインをされている新規会員のカトウさんとそのご友人、そしてベテラン会員さんである奈良のホレスギさんにご参加を頂きました。実際に杉の原木を送材車付帯ノコ盤で製材をする様子をご覧いただきました。

その後、吉野林業の発祥地である川上村に移動し、200年生の吉野杉の林立する山林をご案内しました。吉野杉の高さは約30メートル。200年間を生き続けた生命力。小川のせせらぎも聞こえ、ちょっと神秘的な感じもする場所です。

予定時間を少しオーバーし、急いで戻ることに。しかし運が悪い事に、途中の狭い道路でトラックと交差する時に脱輪しちゃいまして、車内はちょっとした緊張感に包まれました。ですが、四駆の車だったので、なんとか這い登る事ができ、帰路を急ぎました。(ご心配をおかけしてすいませんでした。)

午後3時30分頃にバーベキュー会場の弊社倉庫に戻ってきました。
すでに皆様お集まりで、炭の具合の良い感じ。
前日からキンキンに冷やしたビールやジュースを片手に、早速カンパイ!

バーベキューは肉あり、野菜あり、魚あり…と盛り沢山。
弊社のウエブ担当の杉吉と実兄で弊社の桧製材担当の杉吉兄の杉吉ブラザーズはアウトドアの達人で、いろんな秘密兵器、必殺技でみんなを喜ばせてくれました。

吉野の名物も…と鮎の塩焼きを考えたのですが、吉野川の天然の鮎となるとなかなか希少。そこで吉野町で養殖している鮎を購入し、炭火焼にしました。この鮎、琵琶湖の稚魚を吉野川の水で育てたもので、半天然みたいな感じの鮎。これがウマかった!

出来杉さんのテレビ 出演の裏話や、狩杉さんご夫妻の家具製作のお話、サワダラさんのかわいい娘さん……と杉話は尽きず、エンドレス状態に。

日も暮れ、夜の帳が落ちると、スギダラ花火大会スタート!
当日は運よく地元の花火大会があり、強引にスギダラ花火大会に引き込みました。
この花火なんですが、間近で鑑賞ができました。これが、ほんとに超間近。都会の花火大会であれば、遠くに上がる花火を横から見る……という感じだと思うのですが、こちら吉野はイイですよ。ほぼ真下から見上げる感じ。迫力の3D花火です。皆さん、大興奮でした。

花火大会の後、これまた偶然開催されていた「吉野山灯り展」をみんな揃って鑑賞。
この山灯り展というのは吉野産の素材を使った照明器具の展示会で、旧街道の路地に作品が展示されます。一般の方が多数参加されており、吉野杉や和紙などを巧みに配置して、力作揃い。旧街道の町並みが山灯りに照らされて、なんとも幻想的です。
狩杉さんは触発されたようで、来年の山灯り展に作品の出品をお考えのご様子。
頑張ってくださいね〜。僕達も最大限ご協力させて頂きます!!

その後も、なんやかんやと話が弾み、結局解散したのが午後11時すぎ。8時間も焼き続けるのがスギダラパワーですね!
スギダラ関西支部、もっともっと楽しい事をやって行こうと再結束しました。

 
  写真02:とても暑い日だったのですが、木陰はひんやりと涼しい風が吹き抜けます。

 
  写真03:バーベキュー会場は弊社倉庫。杉の梁材を並べてテーブルに、杉の切り株をイスにしました。森の大宴会!みたいな感じです。

 
  写真04:うまく撮れてないですが、実物はもっと迫力あります。すぐ近くまで落ちてくる感じがします。来年はスギダラ色の花火を1発上げたいですね〜

 
  写真05:吉野山灯り展の様子です。古い町並みが優しい光に照らされ、幻想的です。





   

チヨダラさんから伺っている関西支部の会員さんの数は40名近くいらっしゃる模様。まだ見ぬ方も数多くいらっしゃいますので、これからスギスギのご参加をお願いします!
みんなで楽しみましょう!

さて、本題に移りたいと思います。
今月のテーマは「木取り」。ついに製材所の本丸に突撃!です。

木取りとは、1本の原木を製材する時にどのようにノコギリを入れて、どんな製品を取るか…という事です。木取りをする時の指針の一つが、一般的によく使われている言葉で「歩留まりを良くする」というものです。

歩留まりが良いという事は、1本の原木から如何に無駄なく製品を取れるかという事です。この“無駄なく”という意味には、1本の原木から製品にならない部分を出さないようにするという「材積」の観点から見られる事が多いですが、もう一つ大事な点があります。それは「品質」という意味での歩留まりを良くするという事で、1本の原木の性能を最大限に引き出すような木取りをする事です。

木は1本1本個性があり、全く同じものはありませんので、木取りの方法も一概には言えない所があるのですが、一般的によくあるパターンをご紹介しようと思います。

それでは木取りの模様を見て行きたいと思います。
実際に「送材車付帯ノコ盤」で原木を製材する様子をバーチャル体験をして行きましょう。

番台に載っている原木を送材車に移動させ、送材車の上で原木を回しながら、帯ノコを入れる箇所を探っていきます。
柱を取るか、桁・梁を取るか、カウンター盤を取るか……などなど色々ありますが、最初に考えなければならない事は、「木表」と「木裏」の見極めるという事です。(写真06。)

木表と木裏とは一体どういう事なのでしょうか?
木や山に立っている状態の時を想像してみて下さい。木の山側の部分を木表(きおもて)、木の谷側の部分を木裏(きうら)と私達は呼びます。
山の中での木は垂直に伸びているように見えますが、根元の方では角度を調整するために曲がっています。この谷側の根元の部分に負担がかかり、冬目が大きくなる「アテ」という現象が起こります(詳しくは月刊杉10号をご参照下さい)。木は何十年、何百年の間、その姿勢を維持しているわけですから、自然に曲ろうという力が木裏側に発生するわけです。製材をする時には、この応力に気を付けなければなりません。 (写真07)

木裏の側から帯ノコを入れないのが基本となります。
木裏から取っていくと、木に染み付いた応力により木表側に曲るのです。挽かれた部分が元に戻るかのように曲り、製材がやりにくいだけでなく、帯ノコを挟んでしまう危険性がある為です。最悪の場合には、帯ノコ盤に大きな圧力がかかり、損壊や故障の原因となってしまいます。(写真08)

木表を上にして、木横から帯ノコを入れていくのが通常の製材方法です。
木表を上にすると木の曲りが少ないので、中心を取りやすいというのが理由です。どのような製品でも中心が取れていないと見た目にも悪いですし、木自体のバランスが悪くなり、反りや曲がりの原因になるなど、品質面にも問題が出ます。 (写真09)

では帯ノコ盤に通して行きましょう。
まず木表を上にし、木横を挽いて落とし、次に反対側の木横を挽きます。この状態はいわゆる「太鼓」の状態です。残ったのが木表と木裏です。次に落とすのは、木裏です。ここで木表から落としてしまうと、木裏の応力で木が曲ってしまう可能性がある為です。最後に木表を落とし、角材が取れました。このような挽き方を「太鼓挽き」と言います。 (写真10〜14)

 
  写真06:杉の原木を番台から送材車に移します。

 
  写真07:斜面に立っている杉です。山側が木表、谷側が木裏です。

 
  写真08:アテの部分です。まっすぐに挽き落とした直後に、こんなに曲ってしまいました。

 
  写真09:これはちょっと極端な例ですが、木表を上にします。



 
写真10:木表を上にして、木横から取っていきます。

  写真11:ひっくり返して、逆側の木横を取ります。
 
写真12:木裏を落とします。

  写真13:最後に木表を落とします

挽き落とされた部分は「背板(せいた)」や「三日月(みかづき)」と呼ばれます。
切り落とされた部分の大きさにより区別され、小さい(薄い)ものを背板、大きい(厚い)ものを三日月と言います。
この部分からはフローリングやパネリング、集成材用の化粧貼り用の単板、鴨居や敷居などを取ります。このような建材が取れない場合は、割り箸の材料となります。
建材や割り箸の材料にもならないような端材はチップとして紙の原料となり、また帯ノコ盤で挽く時に出る木屑は練炭などの燃料に加工され、捨てる部分が全くありません。
ちなみに、この木屑のことを私達は何故か“ひっこ”と読んでいます。木を挽(ひ)いた時に出る粉(こ)、だから“ひっこ”なのだと思います。製材をすると、全身“ひっこ”だらけになります。夏の暑い日なんかは、汗と“ひっこ”が絡みあって、なんともスゴイ事になります。(写真15〜16)

木取りについて、もう少し細かく見て行きたいと思います。

 
  写真14:赤味のきれいな杉の梁が取れました。

 
写真15:これが背板、三日月です。
  写真16:これがチップ。紙の原料になります。


まずは「芯去り」と「芯持ち」です。
芯去りと芯持ちの「芯」とは木の中心のことです。年輪の中心が芯です。この芯を入れて製材するか、芯を外して製材するかで全く違った製品となります。(写真17)

大きな特徴は、芯が残っている「芯持ち材」の方が強く、芯が外れている「芯去り材」の方が暴れにくいという事です。
芯は骨みたいなもので、骨が残っている分強く、芯持ち材は柱などの構造材によく使われます。芯が残っていると、乾燥が進むにつれて干割れが入る可能性が高いので、「背割り」を入れて使う事が多いです。背割りとは、柱の一面に断面の約半分ほどの割りを入れる事で、干割れを防ぐだけでなく、乾燥が進みやすいという利点もあります。(写真20)

 
  写真17:原木の芯を含んだ材を「芯持ち材」、外した材を「芯去り材」と言います。




 
写真18:中央が乾燥中の「芯持ち」の梁です。
芯の方から干割れが入ってきました。
  写真19:乾燥中の「芯去り」の柱です。芯が取れているのが分かります。

芯去り材は芯を外して取る為、角材などの大きな材を取る場合には必然的に大きな原木が必要になります。そのため芯去り材は高級材として扱われます。
暴れにくいというのが特徴ですが、もう一つ重要な要素があります。それは木目の美しさです。木目が詰まり、真っ直ぐに伸びる「柾目」と呼ばれるものが出るのです。

板目は年輪に対して水平方向にノコギリを入れると出てくる模様です。対して、柾目は年輪に対して垂直方向にノコギリを入れると出てきます。1本の同じ木から異なるデザインの木材が取れるというのが何とも不思議な感じがします。
板目は木材の模様の一般的なイメージではないでしょうか。僕は最初の頃、板目と柾目の区別が分からなかったので、おそらく一般の方も分からないのでないかと思います。木目模様の違いで製品の種類や価値が分類されているなんて、日本人は木に対して大きな愛着を持っていたんだなぁ……なんて思ったりもします。
(写真21〜23)

  
  写真20:これが「背割り」です。基本的には柱に背割りを入れます。梁などの横架材の場合には横を支える力が落ちる為に、背割りはあまり入れません。そのため、横架材の表面には大なり小なり干割れが入ります。





 
写真21:柾目
  写真22:板目

芯去りの角材などは和室の化粧柱として珍重されてきました。特に最高級であるのが「四方柾目」の柱。全ての面が柾目という柱です。四面すべてを柾目にする為には、とても大きな原木が必要となり、まさに最高級といった製品です。 (写真24)

この柾目ですが、見た目の美しさだけでなく、木目が詰まっている為に暴れにくいので、建具の材料として多く用いられます。
(写真25、26)

芯持ち、芯去りの話から少し離れてしまいました。
ところで、「芯」があるとどうして曲ったり、干割れが出たりと経年変化をしやすいのでしょうか。

木材の芯部分には枝の跡が多く見られます。下の写真では芯の部分をスライスして製材したものですが、真ん中の芯から枝が飛び出ているのが分かります。枝の部分と木本体とでは、乾燥の進み具合に差があるため、曲り・反り・割れなどの経年変化が起きやすいというわけです。 (写真27)

板やカウンター材などの場合は芯が入ると、割れやすく曲りやすい為、できるだけ芯を外して製材をします。
木の難しい所で、芯があっても経年変化を起こしにくいものもあります。芯が出るという事はすなわち赤味材になるので、耐久性が強いです。経年変化が起こりにくい材であれば、製品として使いたい所で、そのあたりの判断は“長年の勘”が重要になってきます。

芯持ち材や芯去り材について考えてきましたが、どちらが優れていて、どちらが高級なのか……という事よりも、互いの特徴を生かした適材適所な配分が大事だと思います。
同じ原木から取られた材料でも、取る位置によって違いが出るという事自体、木材の奥深さを痛感せずにはいれません。

木取りのお話を続けようと思います。
忘れてならないのが、「赤味」と「白太」です。

原木の断面を見ると、中心の赤い部分とそれを囲む白い部分があるのが分かります。赤い部分を「赤味(あかみ)」、白い部分を「白太(しらた)」と呼びます。
赤味だけで取った材を「赤味材」、赤味と白太の混じった材を「源平材」、白太だけの材を「白材」と分けられています。

赤味とは中心部分の赤い部分で、脂精分が多く含まれるため耐久性に優れます。この赤味は元々白太だった部分で、成長を終えた部分と考えられています。
白太とは廻りの白い部分で、成長を続けている部分で、水の通り道です。白太にはアオやハチクイ、虫穴が入りやすいため(詳しくは月刊杉10号の回をご参照下さい)、製品にならない場合もあります。

一般的なのは、源平材です。赤白材とも言われます。最も木取りをしやすい材で、どのようなサイズの原木からも取る事が可能です。
赤味材は赤味だけで取りますので、赤味の張った大きな原木が必要になり、高価な材となってしまいますが、脂精分を多く含むため、耐久性に優れ、見た目にも美しいです。
白材は見える部分が全て白太という材です。一昔前は杉の白材が大変なブームでした。白太部分だけで材を取るわけですので、白太の張った材が必要となり、赤味材以上に貴重な材となります。いわゆる銘木という貴重品的な価値があり、デザインの一つとして珍重されました。 (写真28)

今回は「木取り」をテーマに見てきましたが、そろそろ締めくくりたいと思います。
最初にも書きましたが、歩留まりを良くするという考え方のもと、原木を最大限に有効利用する事を目指して、製材が行われています。
材積の観点から、原木から製品を無駄なく取りきる。
品質の観点から、柱・梁などの製品が最高の性能を持つように取る。 この2つの考え方の両立を目指しているわけです。

芯の有無、木目の種類、赤身と白太……。製材は本当に奥深いなぁというのが実感です。今回は製材の面白さをお伝えしようと考えながら書いてきましたが、なかなか難しかったです。僕自身もまだまだ気付いていない点や理解できていない部分がたくさんありますので、次回以降も少しずつでも見ていければ…と思っております。なにせ、まだ修行中の身ですので。

 
  写真23:この柱の上面と下面が「柾目」です。断面を見ると、木目に対して垂直方向にノコギリが入っているのが分かります。

 
  写真24:四方柾目の柱の断面です。この木目の具合からも、大きな原木から取られたものだと分かります。

 
  写真25、26:柾目の材料で作った引き戸です。目が込んでいて非常に美しいです。

 
  写真26

 
  写真27:これが芯の部分です。枝が左右に伸びているのが分かります。



写真28:左から赤味材、源平材、白材です。

さて、次回は木取りから一旦離れて、帯ノコの“目立て”の現場を見てみたいと思います。

お楽しみに!

つづく


●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。
杉暦半年。 杉マスターを目指し修行中。
吉野中央木材ホームページ
http://www.homarewood.co.jp
ブログ「吉野木材修行日記」http://blogs.yahoo.co.jp/teruhomarewood もよろしく! ほぼ毎日更新中です。

 
   
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