特集日光
集めたスギの葉は、3ヶ月から半年近く乾燥させ、細かく刻み、さらに天日干しを繰り返して水車で丸二日かけてゆっくりとつく。雨の多い今年のような夏は、乾燥にも時間がかかってしまう。 「いい匂いですねえ。それにすばらしい風景」 「そか?」 浅田さん、嬉しそうにニマーっと笑う。 「水車ばっかりじゃなくて米も作ってるから忙しいの。誰かあそこで蕎麦屋をやったらどうかなーって考えてんだ。どう思う?」 「素晴らしい!」「この風景に水車見ながら蕎麦食べて、そこに杉線香も置いたら名物になります!東京の人なんか、喜びますよ。」皆口々にそう言った。客の女性陣は、文系学部の4年生と東京在住の若く美しい大学講師である。口上も華やかで勢いがある。暑さも手伝って、皆、涼しげな蕎麦に思いをはせ、がぜん話は盛り上がる。蕎麦屋プロジェクトに共感する東京の金持ちを次は必ず連れてくると約束して(皆さんお願いしますよ)、水車小屋を後にする。皆、軽い感動の後の心地よい疲労を感じている。
西日本の山里をドライブしていると必ず目にするスギの大面積皆伐地。しかし、こちらの事情は西日本とは大きく違う。そもそも、皆伐が少ない。皆伐しているところがあっても、目を凝らしてみると(少なくとも)道路沿いの斜面はすべて真面目に再造林されている。これらの土地柄の差は、つきつめていけばその地域の林業構造と密接に結びついている。話は長くなるのでやめておくが、地域の林業構造とは、所有構造(どこの誰がどれだけスギ林を持っているのか)、雇用の場、スギの成長の差、さらにそれから作られる製材品の違い、ターゲットとする市場の違い・・同じスギ林業地と言っても、とても同じ視点でまとめて語ることはできない。スギ問題の分かりにくさが、巻き込むべき人々をさらに遠ざけてしまう。でも単純 にすると病理が隠されてしまう。だからといって、深刻な顔でいては何も解決できないのだ。