連載

 
『東京の杉を考える』/第5話
文/  萩原 修
あの9坪ハウスの住人がスギダラ東京支部長に。東京から発する杉ものがたり。半年の連載スタートです。
 
 
 

東京の杉は出世できるのか?

 

サラリーマンを辞めて、2年が経った。大学を卒業してすぐに大日本印刷というところで約10年ぐらい働いて、その後、転職してリビングデザインセンターOZONEでも約10年。合計約20年間サラリーマン生活をしていたことになる。ぼくの場合、20年働いてもちっとも出世できなかったけど、杉の世界はどうなんだろうか。杉は、成長が早いというから20年ぐらいで、出世する杉もあるのだろうか?

「スギダラトーキョー」の活動。ひとりでもんもんとしていてもしょうがないので、誰かとじっくり話をすることにした。まず話相手に選んだのは、あきるの市在住のデザイナーSさん。Sさんは、地方の伝統産業の産地プロデューサーでもあり、語りだしたら止まらない熱い人だ。木にも思い入れがあり、地元のあきるの市でもいろいろと活動している。この人となら東京の杉の可能性について、あれこれ話ができるのではと考えた。

ある土曜日の昼下がり、ぼくが店番をする「つくし文具店」に、Sさんはあらわれた。手にもっているのは、杉の端材。「これが東京の杉で、こっちが地方の杉」とぼくの目の前に置いた。Sさんの説明では、関東ローム層の赤土のある土壌では、いい杉を育てるのはむずかしいと言う。一般的に、表面の仕上げ材には向かない東京の杉を何に利用するのか、が課題らしい。東京の杉は、目に見えない下地材としてしか活きる道はないのだろうか。

Sさんは、「あんまり東京の杉にこだわらないで、地方の良質な杉の消費地としての東京に目を向けた方がいいかもね」とまで言う。うーん、もっともな気もするけど、なんだかさびしい。せっかく東京にも杉があるのだから、なんとかもっと活用する方法がないのだろうか。あばたもエクボという言葉もあるし、ちょっと見方を変えれば、東京の杉だって、

活躍できる場が発見できるだろう。

そんな悩める日々を送る中、東京の杉の活躍のひとつのきっかけになりそうな話がある。それが今年はじめておこなう『神田技芸祭』というイベント。http://www.kanda-gigei.net/ 9月1日〜10日間、神田駅周辺で、地域とクリエーターがいっしょになって催す文化祭のようなもの。ぼくもこのイベントのプロデューサーのひとりとして参加している。その中の「神田大商談会」で、東京の杉の活用を提案できないかと考えている。

例えば、高尾駅や八王子駅周辺に住むサラリーマンが通勤の時に、中央線で杉を神田まで運んだらおもしろい。神田の街に杉のベンチや屋台がある風景を想像するだけでわくわくする。東京の杉だけにこだわらないで、全国から杉を集めるのも悪くない。昔は、材木屋さんや家具屋さんがたくさんあったという神田。あらたな杉の流通が生み出せそうな予感がする。出世不動通りもある神田。そこから東京の杉の出世の道が開けるかもしれない。

スミレアオイハウス住人  萩原 修

   
 

 

   
<はぎわら・しゅう> デザインディレクター
1961年東京生まれ。9坪ハウス/スミレアオイハウス住人。つくし文具店店主。
中央線デザイン倶楽部。カンケイデザイン研究所。リビングデザインセンターOZONE を経て 2004年独立。生活のデザインに関連した書籍、展覧会、商品、店舗などの 企画、プロデュースを手がける。日本全国スギダラケ倶楽部 東京支部長。  


   
  Copyright(C) 2005 Gekkan sugi All Rights Reserved