連載

 
吉野杉をハラオシしよう!〜“駆け出し”専務の修行日記〜第12回
文/写真 石橋 輝一
鍛え系杉連載。さぁ、吉野中央3代目と一緒に勉強だ!
 
 

先月号では関西特集のため、連載をお休みしておりましたが、今月から連載再開です。
奈良県吉野より今月も元気いっぱいでお贈りします!

全12回の予定でスタートした連載ですが、sugio様からの
「…石橋さんの連載、一応12回の予定でしたが、多分まだ最終章まで行ってないですよね。無理にまとめず最終章までお願いします。」
というお言葉をいただきまして、めでたく?延長が決定いたしました!
修行日記ですので、修行が続く限り連載も続けるぞ!と気合を入れ直しております。こりゃライフワークになりそうです。今後ともヨロスギお願いいたします。

これまでの連載の中で、山からの出材→原木市場での仕入れ→木材の等級→原木の選別→皮むき→製材と木取り→帯ノコの目立て→木材の乾燥…と製材所の仕事を見てきたわけですが、今回は「木材の加工」について見て行きたいと思います。

昔の製材所は、全ての製品は「あら木」という形で生産・出荷していました。
あら木とは、「仕上がり寸法」より5mmほど大きめにした「製材寸法」の木材製品の事です。最終の仕上げは、大工さんがカンナをかけて行うという事を意味しています。例えば、3m120mm×120mmの柱であれば、125mm×125mmのあら木で出荷したわけです。

現在でも、あら木の状態で出荷する事が多いのですが、製品によっては仕上がり寸法にて出荷する割合が多いものがあります。
特一等の柱や桁・梁、土台などの構造材は、仕上げて出荷する場合が大半です。仕上げて出荷、という事は、製材所でカンナがけを行って出荷するという事です。

「特一等」という等級は前回(月刊杉10号)もお話しましたが、「特等(丸みのない角材)」の「一等材(節はもちろん、死節やハチクイなどの欠点も入る、一番リーズナブルな等級)」の事です。主に大壁用(構造材が壁の中に隠れてしまう)に用いられます。(真壁用(構造材が見える)の場合は「化粧一等(化粧用特一等)」と呼ばれ、特一等の中でも比較的に死節やハチクイが少ない等級のものが使われます。)

製材所でカンナがけを行う時に使われる機械を「モルダー」と呼び、カンナがけを行う事を「プレナー」と言います。
当社のモルダーはドイツのバイニッヒ社製のもので、1972年製造の年代物。さすがドイツ製で大きな故障もなく、現役バリバリです。当社には10年ほど前に入りました。それまでは台湾の工場で働いていたようで、中古品として日本に入ってきました。



   
  ドイツ・バイニッヒ社製のモルダーです。  
   
    モルダーのプレートです。なんともパワフルでレトロな感じがします。   モルダーの入り口です。ここから木材を入れます。
 

当社のモルダーは7軸式で、7個の刃を取り付ける事が可能です。
柱などの角材の場合、プレナーする面は4面ですので4面に刃を当てる形になります。この時に使用する刃は、通称「平刃(ひらば)」と呼びます。平たい面を加工するから、平刃というわけです。写真にてご説明いたします。

   
  上下についている円柱状のものが平刃です。   平刃は取り外しが可能です。
   
  形状は円柱です。円柱の側面に見える白っぽいものは桧のヤニ(脂精分)が付着したものです。   円柱の側面すべてが刃というわけではなく、ひとつの円柱に棒状の刃が4本ついており、これが高速回転する事で木材の表面を削り取ります。
     
 



  この棒状の刃は、取り外しが可能で、切れ味が悪くなると交換します。
 

柱などの角材をプレナーする事を「四面プレナー」と呼びます。5mm大きめに製材した角材をモルダーに通します。こちらも写真で見ていきましょう。

   
  あら木の柱をモルダーに入れます。   平刃が木材の表面を削り取って行きます。
   
  内部はこんな感じになっています。写真右から左に向かって進むのですが、平刃が木材を削り取っている様子が分かります。   送りローラーです。これがゆっくりと回転し、木材を進めます。
   
  プレナーした後は、表面に傷がつかないように、ゴム製ローラーでモルダーから押し出します。   寸法の調整は手作業で行います。ネジを回しながらデジタル数値を調整します。最新のモルダー機はコンピューター制御されており、自動で寸法が調整できますが、うちのは年代物ですので、手でやります。
 

さて、プレナーの前後で木材の表面はどれくらい違うのでしょうか?
ちょっと分かりにくい写真なのですが、プレナー前は木材の表面はギザギザが残り、なめらかな感じはありません。製材機の帯ノコでは、0.1mm単位の精度を出す事は難しく、どうしても挽きムラが生じてしまいます。
プレナー後は表面に光沢が生まれ、手触りもなめらかで気持ちいいです。モルダーでは0.1mm単位の精度で仕上げる事ができます。
吉野の杉や桧は脂精分が豊富なこともあり、プレナーをかけると木の表面がすごく艶っぽく仕上がります。手で触ると分かるのですが、吸い付くような感触がします。

   
  プレナー前の杉の角材の表面です。ざらざらしたノコギリ跡が分かります。   プレナーをした後です。きめの細かいスベスベ肌みたいな感じです。
 

プレナーをかけた木材を「四面プレナー材」と呼ばれる事もあり、木材プラスアルファの付加価値みたいな感じです。建築費用の低コスト化、工期の短縮化、大工さんの手間の省力化という事で、このようなプレナー加工材が増えてきました。
僕たち製材所としても、どんなことにでも対応させて頂く事で、木材の消費増加を目指したいと考えています。ですが同時に、大工さんが木材を1本ずつ見ながらカンナがけをして家作りをしていた時代が過ぎ去ってしまった事への寂しさみたいな感覚も覚えます。なんだか複雑です。

次回は、このモルダーを利用した加工材の代表格であるフローリングの製造風景をリポートしてみたいと思います!

つづく

 

 

 
 
  ●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。杉歴やっと1年。杉マスターを目指し奮闘中!
吉野中央木材ホームページ http://www.homarewood.co.jp
ブログ「吉野木材修行日記」http://blogs.yahoo.co.jp/teruhomarewoodもよろしく!ほぼ毎日更新中です。
   
   
   
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