連載

 
あきた杉歳時記/第16回
文/写真 菅原香織
すぎっち@秋田支部長から、旬の秋田の杉直(さんちょく)だよりをお届けします ・・・・
 
  さわやかな夏空がひろがる7月6日、月刊杉21号のあきた杉歳時記でも紹介した秋田中央木材市場の工藤社長から、6メートルの傘杉縁台の材料の製材が終わって、天日で乾かしているところだと連絡をいただき、さっそく傘杉縁台の図面を持って市場に向かいました。
   
  傘杉縁台
  去年の8月、能代市のイベントで誕生した、傘杉縁台。パラソルがついている。
   
 

秋田運河のほとりの工業団地にある秋田中央木材市場は、昭和33年創業、秋田県初の木材市場として設立、日本三大美林の天然秋田杉・青森ひば等、無垢の柱、造作材、建具材などを扱う木材市場です。広大な敷地の中には、天然秋田杉をはじめとする高級建材が整然と並び、倉庫の近くに行くと、杉の香りに包まれ、スギダラとしてはたまらない(!?)癒しの空間です。一般の人には売っていないそうですが、毎月開かれている市日には見学などもできるとのこと。ちょっとした森林浴?にもなるし、リフレッシュにいいかもしれません。

さてまずは6メートルの秋田杉を見せてもらいたいというと「これを秋田杉とは言いたくないから…ただの杉ってことで」と案内してくれる工藤社長。どうして秋田杉と言えない(言いたくない)のかな〜?と思っていると、「これなんですよ」と見せてくれました。なるほど、倉庫に並んでいる物と違って、節のある心持ち材で、色も黒っぽいところや、虫食いの部分もあります。秋田で育ったからといっても、生育環境や手入れの仕方によって違いがあるのは当然だと思いますが、ブランド材を扱っている立場からすると、市場に出せない杉=秋田杉でない。ということなのでしょう。

ただユーザー側にしてみれば、関心は他に向いているのではないでしょうか。今日住宅は「建てる」のでなく住宅メーカーから「購入」するほうが主流なので、近くの山にたくさんある杉で家を建てようという意識は低いし、ライフスタイルもかわり、本格的な和室のある木造住宅のニーズは減る一方。それこそ外材や合板を使ってあっという間に建ててしまう擬洋風の建て売り住宅のほうが手軽だし、木が表しになった部屋を知らない世代も増えてきているのが現実です。

売る方が必死に守っている「秋田杉」というブランド価値が、ユーザーによっては全く何の価値もないという悲しいすれ違いが、ますます秋田杉からユーザーを遠ざけている一因かもしれません。しかし秋田杉の価値が低くなったわけではないし実際に見てもらえれば、その良さを感じることもできると思います。ただその時の「見せ方(プレゼン)」が問題なんですけどね。

   
  秋田中央木材市場の工藤社長   秋田杉の倉庫
  秋田中央木材市場の工藤茂丸社長   後ろに見える倉庫には、たくさんの秋田杉
  6メートルの杉   下浜で製材したもの
  傘杉縁台に使う杉。6メートルやっぱり迫力の長さ!   下浜の製材所で製材してもらったそうです。
  間伐した杉   秋田杉の代表的な姿
  左が間伐した杉、右が秋田杉の代表的な姿。同じ杉とは思えない!美しいです。三面無節とかそりゃやっぱりぜんぜん違いますよ。いってみれば大間のマグロの大トロ!みたいなもんです。なかなか「お嫁に行けない」と嘆く社。高嶺の花いや、高値の杉!?
   
  そんなことを考えながら一通り倉庫の中を見せてもらったあと、こっちにはもっとすごいのがあるというので見せてもらうと、大黒柱になりそうな太い天然杉がずらりと並んでいるじゃありませんか!八寸から一尺はあるような太い杉の柱材がならんで、巨大な立杉連塀のような眺めは壮観でした。 天然秋田杉は平成23年で生産されなくなるので、そういう意味でも貴重です。でも、使われなければもっともったいない。
   
  建具用材   役モノ
  これは建具用材   こっちは役モノ
  天然杉   30センチ角
  全国から来た天然杉が並ぶ   30センチ角もある!
  裏側   長さ4メートル
  上の写真の裏側   長さ4メートル
  輸入材   輸入材
  倉庫の奥には北欧などからの輸入材が見られる。国産材だけではやっていけない現実も。
   
 

どうしたらもっと杉が使われるようになるのか。杉がもっと身近になるのか。いくら希少ないいモノだとか、地球環境のために意義があるんだとかいろいろと言われても、使う側の生活文化にフィットしていなければ無用の長物な訳です。そこで重要になってくるのが、「デザイン」なんだと思います。

ユーザーにとって必然性のあるデザインとはどんなものなのか?スギダラの活動を通して、この地域にとって大切なデザインが見えてくるのではないか?そんな期待を抱きつつ市場をあとにしました。

なお傘杉縁台は8月1日午後1時から秋田中央木材市場で開催される納涼市でお披露目する予定です。関心のある皆様、ぜひお越しください。

秋田中央木材市場 http://www14.plala.or.jp/mokuzaiichiba/

  秋田中央木材市場
   
   
   
 
 
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 勤務 http://www.amcac.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
   
   
   
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