もちろん家や樹木など、まちなみをかたちづくるものの多くは個人や法人が所有するものですから、他人があれこれ口を挟めるものではありません。残念だなと思うのは、古い町家や蔵、堰や樹木など、その土地ならではのモノや建物、暮らしの風景などに価値があるという「認識がない」ということなのです。
価値を認めないということは存在そのものも認めないということになりかねません。例えば能代市二ツ井町にある旧合川営林署の保養施設だった「天神荘」。これまでも何度か紹介してきましたが、木都能代、東洋一の二ツ井の天神貯木場といわれた戦後の天杉全盛期を語る歴史的な近代化遺産として、一度文化財として登録をされたのに、財政難を理由に維持修理もすることなく、放置されてきました。
おかげで建物の傷みも激しく、見るも無惨な状態です。しかし、現在に至っても住民からもどこからも、保存してほしいという声や運動はないということを理由に(実際には保存してほしいという声や活用を望む声はあるのですが、署名や請願書提出など市に対してアクションがなかった、ということみたいです)能代市では、倒壊する前に解体しようと、文化財登録解除の申請をすすめているところだそうです。
たしかに営林署の保養所ということで、まちの人にとって身近で「愛着」がある建物ではないかも知れません。しかし二ツ井は米代川の洪水によって、古い町家のほとんどが浸水し、昔ながらの風情を残す建物は数軒しかなく、「二ツ井らしさ」を物語る建物は極わずかですから、なおさら貴重な歴史遺産であるはずなのに。解体したいから登録を解除するということはあまり例がないそうです。なにより、能代市の文化度の低さを証明するようで、本当に残念なことです。
そこで文化財としてその地に保存が難しくても、なんとか建物だけでも残す方法はないだろうか?と色々空想(妄想?)してみました。たとえば、空洞化で空き地が目立つ二ツ井の駅前商店街のなかに移築しコミュニティセンターとして活用します。そして、顔がなくなってしまった二ツ井のまちなみ景観を形成する核とするのです。
旧街道沿いの本町商店街やそれに続く駅前商店街には、かつて杉の産地らしい建物が軒を連ねていました。その風景をこれから50年ぐらいかけて取り戻すために、天神荘をそのシンボルにする。いいアイデアだと思いませんか? |