連載 杉道具特集と連動

 
吉野杉をハラオシしよう!〜“駆け出し”専務の修行日記〜第19回
文/写真 石橋 輝一
鍛え系杉連載。さぁ、吉野中央3代目と一緒に勉強だ!
 
 

こんにちは。連載19回目です。今月も奈良県吉野から元気いっぱいでお贈りします!

こちら吉野の方は、朝晩が肌寒くなってきました。
秋から冬にかけての寒い時期に、木を伐る事を「寒切り」と呼び、伐採の適した時期になります。伐採量が飛躍的に増え、原木の出材量が格段に増えます。

暑い時期に木を伐ると、木が傷みやすく、白太部分の色合いがぼやけた感じになったり、虫が入りやすい事もあり、原木の出材量は極端に落ち込みます。
今年の夏は、特に出材量が少なかったです。例年であれば、夏であっても、ある程度の出材はあるのですが、原木価格の低迷の影響もあり、原木市が中止に追い込まれる事も少なくはありませんでした。

ですが、この「切り旬」の良い時期に入り、原木市場にはたくさんの杉と桧が戻り、賑やかさを少しは取り戻した感じです。
   
  今年は2年に一度行われる「林材まつり」と銘打った原木市が催されました。木材業界の素材部門のお祭りで、すごく大きな巨木や年輪の詰まった良材が多く出材されます。このような良材を「選木(せんぼく)」と呼び、このような良材の集まる市を「選木市」と呼んだりします。
   
  原木市場
  原木市場にたくさんの杉と桧が集まりました
   
  優れた原木は表彰されます   通常の原木市は午前中で終わる事が多いですが、林材まつりは原木の量が多い為、お昼ごはんを挟む場合が多いです。青空の下、丸太に腰をかけて、みんなでお弁当を頂きます。
   
 

それでは、吉野の「選木」をご紹介しましょう!
樹齢280年の杉の超巨木です。

  写真ではその迫力がなかなか伝わりにくいのですが、断面の直径が1mを超える材もあります。このくらい大きな材は、いくら切り旬の良い時期であっても、滅多にお目にかかれません。数年に1回、もしくは10年に1回といった感じです。
 

大きさのイメージが伝わりやすいように、身長189センチの僕が横に立ってみました。

   
   
  ズラリと並んだ杉の巨木   原木の末口の直径が1m20cm!長さが4mの杉です
 
  これは末口の直径が1m20cmの材の株側です。株の直径は僕の身長とほぼ同じ位ありました!
   
 

うーん、スゴイですね…。
こんな巨大な杉を山から出すだけでも大変そうです…。この杉は吉野町の奥に位置する川上村の山のものです。川上村は吉野林業の発祥の地でもあり、古くから植林が行われ、このような大径木も存在しているわけです。

気になるお値段ですが…、およそ車1台分!
それでも一昔前から比べると、半値以下になったそうです。

こんなに大きな材はどのような用途に使われるのでしょうか?
大きさを活かして、超幅広な一枚板(テーブル盤)や天井板。周辺部分の年輪が非常に細かく、綺麗な柾目が取れやすいので、建具材などにも使われるようです。

ここまで大きな木は、何百年もの歴史を刻んできたわけで、その中で台風や大雪などの色々な自然災害を経験しています。ですので、製材をして中を割ってみないと、外見だけでは判断ができない場合が多く、1本あたりの単価も桁違いなので、まさにハイリスク・ハイリターンといった感があります。
   
   
  これは桧の大径木を製材した時の写真です。中を割ってみると、「入り皮」が出てきました。入り皮とは、表皮を木内部に取り込んでしまった状態で、外部の傷がついた時などにそれを治す為に、長い時間をかけて取り込んでしまったと考えられます。大きな材は長い時間を生きてきていますので、絶対無傷という事は奇跡に近いです。   株側には大きな穴が…。その穴を補うように周辺部分が頑張っています。僕の頭が丸ごと入ってしまうほどの穴でした。
   
  株側の断面を見ると、大きな穴が出来ています。これは、芯部分の年輪は粗いので、比重が軽く、組織が弱りやすい為、朽ちてしまった状態です。大径木によく見られる現象です。
   
 

このような大径木を目の当たりにすると、本当に圧倒され、感動します。とにかくスゴイとしか見つかりません。吉野の山の底力を見た!という想いです。
何十年、何百年という時間をかけて育まれた杉と桧を、これから100年先の未来に引き渡せるように、頑張らなアカンな!と、選木に触れながら、実感する初秋の一日でした。

つづく

   
   
   
   
   
   
   
 
 
  ●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。杉歴まもなく2年。杉マスターを目指し奮闘中!
吉野中央木材ホームページ http://www.homarewood.co.jp
ブログ「吉野木材修行日記」http://blogs.yahoo.co.jp/teruhomarewoodもよろしく!ほぼ毎日更新中です。
   
   
   
同じく目立て場にある作業椅子です。こちらはかなり年季が入っています。
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