連載

 

スギダラな人々探訪/第30回 スギダラ@ウィーン

文/ 千代田健一

杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。

 
 

今年はスギダラ活動が今までに無いくらい活発で、夏から秋にかけてはイベントも目白押し。これまでに繋がってきた人を通しての縁がいろんなところで具体的な結びつきを見せている。報告する事、紹介したい仲間、たくさんあり過ぎてどこから手をつけていいかもわからないくらいだ。

よくよく考えてみると4月に行ったオーストリア ウィーンでのスギダラ空間ヨーロッパデビューの話も、何の報告もしていないことに気づいた。スピーディな情報発信を心掛けていたつもりが、バックオーダーが溜まり過ぎて、せっかくのいい話も流してしまいそうになっていたことに柄にも無く少し反省している。

そもそもスギダラ空間ヨーロッパデビューって?
去る2008年4月10日、11日にオーストリアのウィーン市内でドイツミュンヘンに本拠地を置くRTT社のユーザーカンファレンスが開催された。RTT社は自動車業界を中心に超大手のユーザーを持つコンピュータグラフィックスのソフトウェアを開発している会社である。そのソフトの最大の特徴は写真と見まがう程のリアルな画像をリアルな状態のままリアルタイムに動かして見せることができるということだ。それが社名REALTIME TECHNOLOGY社の由来でもある。
CGの制作に携わっている人ならばわかるだろうが、CGの画像は、リアリティを追求して細かく描画しようとすればする程、描画に時間がかかる。1枚の静止画像をレンダリングして見るために数分、数十分かかるのが一般的な感覚だろう。それがこのRTT社の開発したDELTAGENというソフトだとリアルに描画した状態でズームしたり回転させたり、色やテクスチャーを換えたりすることができるのである。
まあ、細かいことはさて置き、このRTT社との結びつきにも実は杉がついて回る。事の経緯については若杉氏の過去の記事を参照されたい。→若杉さんのジェレミーの記事

今回のRTT社のユーザーカンファレンスへの内田洋行ブースの出展もそこに出てくるスギダラなカナダ人、ジェレミーがかねてより仕掛けていたことで、去年からの悲願が今年は達成されたのである。

ジェレミーは自分たちのソフトウェアのビジネスが空間創り、または空間を含めたサービスになると相互に魅力を引き出し合い、さらに新しい展開が可能になると考えたのではないかと思う。いや、それだけでなく自分たちのやっていることと内田洋行で今やっていることに同じような思想が横たわっている、そんな匂いを感じ取り、同じような志を持つ仲間として広く紹介したい、誰かに伝えたい、という一心だったかも知れない。知り合ってからというもの、RTT社内や自分たちのユーザー企業に内田洋行のことをPRしまくっていた。本当にありがたい仲間である。今回のユーザーカンファレンスの件も最初に知り合った時から彼が言っていたことなのだ。しかしながら、国内でもまだまだ充分にプロモーションできていないサービスをいきなりヨーロッパに持ち込むのはかなり困難なことだったし、その時は二の足を踏んだ。今年は内田洋行社内でもRTT社のDELTAGENを使ったビジネスモデル構築に本格的に乗り出そうと言うことになり、ようやく会社対会社でのやり取りがスタートしたのである。このタイミングで毎年行っている同社のユーザーカンファレンスで内田洋行もパートナー協賛することになり、ありがたいことにRTT DELTAGENの活用を含む内田洋行での空間と情報サービスの融合を目指した取り組みをプレゼンテーションする機会を得たのである。

まあ、それにしても出展が決まってからのカンファレンス当日まで一月ちょっとしか無い中で大変だった。
何を持ち込んだかと言えば、組み立て式のユニット構造物である製品「スマートインフィル」にいくつかの情報サービスを組み込んだプレゼンテーションブースで、そのブースを設置する箇所がカンファレンスの参加者が休憩に使うラウンジとなっていた。
つまり、このユーザーカンファレンスに来た人々に内田洋行がやっている空間ビジネスをPRしろという事だ。ここでプランニング上留意したのは、「アレもできます。コレもできます。」という商品自慢にならないようにするということだ。ハイテクの情報サービスが空間の設えと渾然一体となった時に醸し出す雰囲気に、心地よさ、楽しさ、新しさといった感情を抱いてもらえるようなものにしなければならないと考えた。

そこでそういった雰囲気創りに活躍するのがやはり杉という素材なのだが、ヨーロッパに日本の杉と同じような木材は無い。状況が許せば、日本から持ち込むことも考え、段取りはしたが、ムクの木材は検疫を通過するためそれ相応の時間がかかることから、今回は地場で調達できる針葉樹を探した。結果的に見つかったのは現地の名前で「ファー」という、北米のスプルースに似た樹種であった。見た目もスプルースそのもの。杉の独特の赤みなどは無く、極めて真っ白な白木だ。ヨーロッパで工事なんかしたことが無い我々にとって、この素材を調達するのも大変だった。幸い、2月に若杉さんが行ったドイツジュッセルドルフで3年に一度開催されているEURO SHOPという店舗関係の展示会で知り合ったWELKOMEという施工会社があって、その会社が日本の会社の展示会出展をサポートしていたので、頼むことにした。時間も無かったので、材料を吟味する暇も無く、手配は進めなくてはならない。日本の杉関係者が聞いたら耳を疑うくらいの金額で頼まざるを得なかった。(涙)

結果的には今までやってきたスギダラ空間に遜色の無いクオリティを作れたと思う。
金額は少し高くついたが、WELKOMEの対応は素晴らしかった。現地で組み立てに来てくれたオーストリア人の職人の能力もずば抜けており、極めてスムーズにブースの施工ができた。
さらに素晴らしいのはRTT社の現地のスタッフの動きだ。日本からの荷物がコンテナで到着するや若手の社員がさも当然のように搬入を手伝ってくれた。陣頭指揮を取るのはもちろん、ジェレミーだ。僕ら内田洋行のメンバーがスムーズに仕事ができるよう決め細やかにサポートしてくれた。次から次に手伝いに来るので指示を出すほうが追いつかないくらいだった。
これはドイツ人が働き者だということもあるのだろうが、RTT社の気質、というか、社長のクリストフが作ってきた風土なんだと思う。ジェレミーだけでなく、クリストフの目指している世界観とか志をよく理解し行動に移せる人材が集まっているとても魅力的な会社なのである。内田洋行の若杉チームと同じ匂いがする。もっと言うと、スギダラにも通ずる想いがある。そんな人々なのだ。

こんな素敵な人々に支えられ、スギダラ空間ヨーロッパデビューは達成した。内田洋行ブースを一番売り込んでくれたのはやはりジェレミーだった。RTTの社員や参加したRTTのユーザーの皆さんにブース付きっ切りで説明してくれていた。ボクのことも「内田洋行のトップデザイナー」だとかと言って紹介してくれるし・・・(汗)
見にきてくれた人の反応も極めてよく、色んな引き合いとかアドバイスももらった。いつもはソフトウェアやハードウェアの技術の話が主体なのに、その情報技術に空間という概念が加わって新鮮に見えたようだ。その後、その会場で知り合って、内田洋行の空間創りに関心を持ってくれたドイツの某超有名スポーツカーメーカーのデザイン部長がウチの会社を訪問してくれて、新しいオフィス創りのヒントを持ち帰っていった。何か今後繋がって行きそうだ。

カンファレンスは大盛況だったが、その後の打ち上げもすごかった。ウチの社長が一緒で新規のパートナー&スポンサーってこともあるんだろうが、カンファレンスが終わった後の懇親会でもウチのメンバーはVIP待遇だった。いや、ホントものすごい歓待ぶりでした。(滝汗)
こうやって、仕返しの仕返し劇はさらに大げさなことになってゆくのであった。
この流れで残っているこちらからの仕返しは、カンファレンスで展示したスギダラ空間ブースをRTT社に設置することである。既に材料は持ち込んでいるが、その組み立てに行けていない。
そろそろミュンヘンに出張しようかな・・・(ち)

   
 
  スギダラ、ウィーン進出の仕掛け人、ジェレミー(中央)。内田洋行にやってきた、この時から始まっていた。若杉さん、千代田さんと杉屋台で盛り上がる。
   
  資材搬入、RTT社員総出で手伝う   初めて組むユニットでも妙に手際の良い現地の職人さん。ウチダメンバーもよく働いた。
 
  これがファーという現地の材料
 
  内田洋行ラウンジ完成形!ちろん、杉太もいます。杉じゃないからファ太(ファット)かな?
 
  施工を担当してくれたWELKOME社のウエルシュさんとウチダ施工隊。
   
  ブースの説明はRTTの社員がやってくれている   ラウンジは大盛況
 
  社長の講演もうまく行きました。今までになかった話なので新鮮だったみたいです。
 
  盛大におもてなしを受けました。ジェレミーが感謝の言葉を述べてくれましたが、こっちが感謝です。
 
  かくしてスギダラ空間ヨーロッパデビューは大成功のうちに終えることができました。
   
   
   
   
   
 
●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
   
 


 
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