連載

 

スギダラな人々探訪/第31回 スギダラのスピードキング!

文/ 千代田健一

杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。

 
 
   
  スピードキングと聞いて、ディープパープルの名曲を思い起こした方は僕よりも世代が上の方ですね。
今回のスギダラな人々探訪は、日光・栃木支部、スギダラのイカれた暴走野郎、いやイカしたスギダラ野郎、片見(へんみ)雅俊さんのことを書いてみたいと思います。片見さんには、以前月刊杉26号の杉道具特集で記事を書いていただいています。
http://www.m-sugi.com/26/m-sugi_26_tool3.htm
その時はご自身でやってらっしゃる杉製品のことをさらっと紹介していただいたのですが、この人そんなにさらっとした人ではないんです。とにかくその行動力とスピード、西の『海野』と東の『片見』ってな感じです。そう言えば、多くのスギダラ会員の方は片見さんがどれだけすごいかお解りいただけると思います。
   
 
  この人です! 片見さん(中央)
   
 

その暴走伝をお話する前に今、片見さんと取り組んでいるプロジェクトについて少し解説しときたいと思います。
昨年の秋ごろ、内田洋行の顧客である某大手自動車会社の研究所から伐採林の有効活用について相談を受けました。その担当者の方は、内田洋行で杉の活用をやっていることをご存知で内田洋行というよりは、スギダラ倶楽部に声をかけてくれたようです。
お話を聞きに行くと、栃木県さくら市に新しい研究所を建設する計画があるとのことで、その敷地を造成するのにかなりの伐採が必要。伐採した木を燃料やパルプにするのでは芸が無いので、地域に還元できないか?ということでした。社員の子供や近隣の小学校の子供たちを集めて木工教室みたいなことができないか?という漠然としたアイデアはお持ちでしたが、実際に伐採した木を使うとなると様々な問題をクリアしてゆかねばならず、まずは地場でどういった体制が組めるかスギダラのネットワークを活かして調査しました。

まず連絡を取ったのは宇都宮大学森林科学課の准教授、山本さん(栃木支部長)と日光の大嶋さんでした。お二人には以前、月刊杉の原稿も書いていただいています。
http://www.m-sugi.com/13/m-sugi_13_nikko.htm
http://www.m-sugi.com/13/m-sugi_13_nikko_imaichi.htm
すると、大嶋さんから研究所の建設地のある地域を管轄する「たかはら森林組合」に弟さんがいらっしゃるということを伺い、早速コンタクト。伐採する杉や檜の林を現地調査する折に同行していただくことになって、それから次々とスギダラなネットワークが繋がって行きました。そのたかはら森林組合の小川さんに地場の有力な製材工場を紹介され、お昼を食べている時にそこの社長さんが立ち寄ってくれるのですが、この辺の展開はスギダラっぽいですね。お話していて、その社長さんの名刺の「東泉」の字を見て、どっかで見たことあるなーと思っていたら、以前、群馬スギダラツアーをした時に訪問した「県産材センター」を案内してくれたのが東泉さんだったことを思い出し、聞いてみると息子さんだそうで、自分の名前覚えの良さに酔ってしまいそうになりました。
その東泉さん、群馬にも手を伸ばし北関東エリアで手広くグループ会社を営んでいらっしゃる「トーセン」の社長さんで、伐採してから製材して使える状態にするまでのことについて色々と相談に乗ってくれました。工場もいくつか見学させていただき、議論した中で、実際に敷地に植わっている木を伐採して木工教室等で使うには時間的な辻褄を合わせるのが大変なので、伐採した木はトーセンで買取り、木工教室には既に製材されたものを地域の木材ということで循環活用をするのはどうかというアイデアも出てきました。
そのあたりから、今度は実際にどういう活用方法があるのか、今までのスギダラでの活動も含め、若杉・千代田で先方にプレゼンしたり、今年に入ってからは子供向けのイベントを2回くらいやろうということになり、その木工キットの具体的なアイデア出したりして、現在その実施日を詰めている段階です。

その間にコンタクトを取ったのが今回の話題の人、八汐木工の片見雅俊さんです。製材された材料をキット化する加工をやってくれるところを探さねばと思った時、とりあえず思いついたのが以前記事を書いてくれた片見さんで、相談したところあっさり話に乗っかってくれました。そこからの展開がすごかった!
子供向けの木工キットは自動車会社にちなんで車とかバイクが作れるものにしようと言うアイデアが出ると、翌日には「ちょっと図面描いてみました」って感じでメールが届いたり、こっちで子供向けの遊具キットや保護者向けの家具キットをデザインして図面やCGを送ると2日3日で「試作作ってみました」って画像付きのメールがやって来るんです。まず、最初に作ってくれたのが子供向けのレーシングカーの試作で、一通りの完成モデルが既に出来上がっていました。僕の方で用意したのは、4輪のレースカー2種とバイク1種、それに山林にちなんで3輪車のレースカー2種、合計5パターンの雛形設計図だったのですが、それが作り勝手も工夫・考慮された形で手が加えられ、試作として出来上がっているんです。

   
   
  いつの間にか出来ている試作キット。何か図面と違うところがある・・・
 
  かなりの台数作れるパーツ群が既に用意されている
   
  これにはかなり笑えました。一体、いつそんな時間を取ってるんだろう?・・・って、その後その試作を見に伺った時に聞いたら、片見さん自ら殆どそれだけやってたみたいです。お子さんたちに、欲しいとせがまれても、「これはまだダメ!」って、家族サービスそっちのけで没頭する始末。でも、この気持ちは子供な僕なんかよーくわかります。
用も無いのに自分のおもちゃ、ぼくだったらクラッシクカメラとか車とか、いじって磨いたり、枕元に置いて眺めながら寝たり・・・大人のなりをした全くの子供です!
片見さんもそんな、いっちゃってる子供な大人なんだと思います。
宮崎の海野さんのようにいい杉の木を見つけると思わず買ってしまいそうになる病気?・・・持ってるかどうかはわかりませんが・・・(笑)
   
 
  子供のようにはしゃいで組み立てする大人二人
   
  まあ、そんな人なんで、次に若ちゃんデザインの大人用ベンチキットの簡単な寸法図とCGイメージを片見さんに送った時、実施設計担当の中尾君に僕が進言したのは、「中尾君、油断してたら勝手に試作出来上がってしまうから、早めに連絡取って作り方の相談とかした方がいいよ。多分、休み明けにはこんな感じになりますけど・・・って画像付きメールが来たりするから・・・」
「えー、そうなの? わかった。」とその場で連絡を取らなかったようで、翌週月曜の朝、「千代田君の言う通り、出来上がってるよー!」
ぼくの予告通り、試作したベンチの作業工程まできっちり撮影された画像が届いているのでした。実際の試作品を送ってもらいましたが、かなりいい出来栄えです! これ、結構売れるかも・・・
   
 
  中尾君が作成したCG。これを片見さんに送ると・・・
   
   
 
  こんな感じでメールがやって来るのです。ホント2、3日の出来事
   
 

まあ、とにかくひと時もじっとしていないって言うか、その後も参加者に配る組み立て解説図を自ら作成してくれたり、森林組合や建設側のゼネコンさんに自らコンタクト取って、材料の入手方法を調整してくれたり、木工教室の会場レイアウトの心配してくれたりで、僕の出番が無いくらいなんです。
いやー、これは海野さんをも超える暑苦しさとスピード感です。
今、スギダラは東側でも宮崎と違った盛り上がりを見せつつあります。
実はまだその自動車会社主催の木工ワークショップの日程は決まっていないのですが、今回用意しようとしている木工キットは八汐木工さんで製品化を目論んでいます。9月に予定されている栃木県内の木材関係のイベントでそのフォーミュラーカーキットをスギダラ栃木支部として出品、販売したいとの打診がありました。
自作できる杉のキット製品、今後の展開が楽しみです。

片見さんのように今までにやったことのない分野、領域の製品化に挑むような仲間がこれからも増えるとスギダラはさらに加速するんではないか? と、片見さんと知り合ってそう感じました。

それと実はこのプロジェクト、もう一人暑苦しいスギダラな人が関わっています。しかも関西から・・・
次号ではスギダラ関西支部の裏番長、水木千代美さんの活動をご紹介したいと思います。
ちなみにスギ関の表の番長って誰なんだろう?(ち)

   
 
 
次号で紹介する、スギダラ関西支部の裏番長、水木千代美さん。この人もかなりいっちゃってます
   
   
   
   
 
●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
   
 


 
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