新連載

 
続・つれづれ杉話 (隔月刊) 第1回 「もどきは好かん」
文/写真 長町美和子
杉について、モノづくりについて、デザインについて、日常の中で感じたモロモロを語るエッセイ。 
 
  今月の一枚

※話の内容に関係なく適当な写真をアップするという身勝手なコーナーです。

くぅぅぅ! たまらん。夏はやっぱしオリオンビールさぁ。この時、パラソルの下でジワジワと日焼けしているのに気づかなかった私。今から思えば、あれは全身ヤケドだったよ……。(2005年竹富島のビーチにて)

オリオンビール
 
 
 
 
    もどきは好かん
 

3周年を迎え、装いも新たに新連載を始めよう! とは思ったものの、テーマを決めてしまうと自ら首を絞めることになるのは目に見えているので、これまで通り相も変わらず、思いつくままにダラダラと書いていくことにした。特に「杉」についての話に限らないので申し訳ないが、モノをつくるということが、たぶん軸になっていくんだろう。つまりは、ふだんの仕事の延長上で感じた身辺雑記である。

   
 
   
 

先週、飛騨高山の木工工房で、面白い木材を見た。少々長ったらしい名前だが「パープルウォールナット色樹脂含浸エンジニアウッド」というもの。勘違いしてはいけない。ウォールナットを集成してあるのではなく、パイン材の集成材に真空窯でウォールナット色の天然樹脂を含浸させてあるのだ(他にも色のバリエーションがある)。見た目も感触もまさにウォールナットとかカリンとか、重厚なきめ細やかな固そうな感じ。ウリは、ラワン合板のように森林を伐採してつくるわけではなく、ニュージーランドで集成材用に苗木を植えてつくる、エコロジカルな材であるということらしい。

マツは成長も早くて30年で「収穫」できるという。樹脂を含浸させて固めるので、建築で梁などに使えるだけの強度がある。その上、職人に聞くと、マツ自体は柔らかい素材なので加工もしやすいのだそうだ。どういう経路をたどっているのか、説明する人によって話が違うので定かではないが、全部ニュージーランドで仕上げるのではなく、100角くらいに集成された材が輸出され、(日本で?)必要な大きさにさらに集成された後、(アメリカで?)樹脂の含浸が行われる、という話。エコロジカルと言いつつ、輸送燃料はかなりかかっていそうだ。

これがまたお高い! 話を聞いた職人は声をひそめて(取材に立ち会っているクライアントに聞こえないように)「工賃よりも材料代の方がずっと高いから、失敗が許されないんですよ」とささやいた。その価格がもちろん商品にも反映される。アタシは買わない、という額である(買えない、とも言う)。

集めて固めれば強くもなるし、自由度も増すし、大量に活用できるんだろうけど、目の前のニュージーランド育ちのマツは、素姓をごまかしている後ろめたさがあるようで、なんだか幸せそうには見えなかった。「すみません、実はマツなんです」。いやいや、キミが悪いわけじゃないよ。

デカイ空間をつくるために、柱とか壁で空間の連続性を妨げたくないから大径集成材を梁に使う、というなら話はわかる。それも、身近にある素材を活用したいから、その素材ならではの美しさを生かしたいから、というなら納得もする。ニュージーだ、アメリカだ、と渡り歩いて燃料費が上乗せされた(CO2もばらまいた)、ウォールナットもどきのマツの集成材を、何もわざわざ椅子に使うことはないじゃないか! ……とここまで書いて、どうしよう、もしクライアントにこの記事を読まれてしまったら、という不安が頭をよぎる。新しい連載はペンネームを変えようか。

   
   
   
 
 
  <ながまち・みわこ>ライター
1965年横浜生まれ。ムサ美の造形学部でインテリアデザインを専攻。
雑誌編集者を経て97年にライターとして独立。
建築、デザイン、 暮らしの垣根を越えて執筆活動を展開中。
特に日本の風土や暮らしが育んだモノやかたちに興味あり

   
   
 
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