連載

 

スギダラな一生/第15笑 「高校生と、働くということ」

文/ 若杉浩一

高校生達、そして南雲理枝さん、山口先生に感謝して。そして近藤、田中へ。

 
 

月刊杉も3周年を迎えた。もう締め切りか、と頭を抱える毎回だった。『スギダラ家奮闘記』から『スギダラな一生』にタイトルを変更し、なんだか身の回りの出来事と人について書くことが多くなり、そして、そのうち、書くことで出来事や仲間に対しての感謝の気持ちを表せる機会となった。「ああ〜〜次は何を書けば良いんだ。」と思いきや、「まあ、色々な出来事が、よくもあるもんだなあ。」と人ごとのように思う日々だった。今回はそんな日々の中で起こった、普通なかなかあり得ない高校生との出会いをご紹介したい。

コトの発端は南雲理枝さんである。話はそれるが、理枝さんは最近まで「スギダラ倶楽部ってあやしい〜〜」って思っていたそうだ。それはそうだ、休みの度に地方に出かける。しかも結構頻繁、その上、なんだか楽しそうである。どう見てもあやしい。この現象は僕も、千代ちゃんも同じである。普通じゃないからだ。そんな理枝さんが少し理解を示してくれたのは、南雲さんの記事にもあるように、新潟の「ノウリンジャー」との競演を見てからだ。
「スギダラって結構、まともじゃん!!見直しちゃった。」ありがとうございます。
そう、まともなのだ。まともじゃないのは、スギダラ3兄弟そのものなのだ。

実は理枝さんのお姉さんは、高校の先生「山口文(あや)先生」である。その先生が毎年、企業の人達による「働くということ」の講演会を開いているとのこと。そして今回、出来るだけ面白く、本音の話をしてほしいとの相談を受けたのだった。「面白く」と「本音」ならいいが「真面目に知的に」と言われると歯がたたない。幸いそうではなかったことと、理枝さんの頼みだ、実力は別にして、二つ返事で引き受けた。

引き受けたのはいいものの、いつものように、のんきに構えていた。「まあ、何とかなるだろう」と。しかし、さすが理枝さんのお姉さん、ぬかりがない。事前にお会いして、色々と確認させて下さいとのこと。
この出会いがなければ、僕は恐らくトンチンカンな話をしていたかもしれない。文先生に感謝しなければならない。お会いして大体どんな話なのか、ということと、機器の接続そして講演する体育館を見せてもらった。そして文先生から聞いた事は「この学校の生徒は高校を卒業すると、大抵就職をしてしまいます。働くことが何なのか?自分が何に向かって社会と接するのかもわからず、高卒と言うだけで安く働かされることがあるんです。仕事の説明や成功体験ではなく、働くことの意味が少しでも伝われば嬉しいです」そのことを聞いて、身が引き締まった。そうなんだ、高校生とて、この出会いに真剣なのである。こっちだって真剣に接せなければならない。僕はこのとき色々な事を先生と話す中で、タイトルを決めることができた。それが「絶って〜やめね〜〜」である。僕の今のリアルな心境である。

   
  ポスター
  高校生への講演のためにつくったポスター
   
 

僕らが何をしているか、何を会社でしてきたか。実はカッコいいどころか、落ちこぼれで、体制と戦い、もがき苦しみ、認められずきた。多くの仲間がいなくなった。同期の7人のデザイナーで残っているのは僕一人だけだ。
大した事はないが、ここまで来たのは、多くの仲間に支えられてきたからだ。そのことを本当に思い知った。だからそのことを素直に伝えたいと思った。

高校生200人、今まで体験した事がない人数だ。僕は助人に当然千代ちゃんと、そして入社2年目の近藤、田中を連れて講演に挑んだ。実はこの3人を選んだのには訳がある。この7月をもって離ればなれになる3人なのだ。僕たちのチームは千代ちゃんが来るまでは僅かデザインと設計7人のメンバーだった。全社の中で後にも先にもこの7人が最後の技術陣だった。ほんとに貴重な仲間だった。

千代ちゃんとのコンビで活動に火が付き、面白がって頼まれもしない仕事に明け暮れた。そしてメンバーも増えていった。10年ぶりに新人が入った。そんな矢先にチーム解散。大幅人員削減である。まあ僕や千代ちゃんはいい、何処ででも生きて行ける。しかし、入社して1年、デザインを志し、このチームでがんばり、これからだと言うときに・・・。僕だって説明ができない。

全く理不尽である、しかし会社、いや社会って、そもそも理不尽、まっとうではない。人のエゴや感情そして組織の欲が存在する、それが現実なのだ。だからこそ真っ直ぐに生きなければならないのだ。愚直にデザインで勝負しなければならない。
その気持ちを高校生に話すことで、この3人(千代ちゃんは充分解っているので)いや新人2人に伝えたい気持ちがあった。

とても、天気がよくて暑い日だった。その日がやってきた。200人の高校生は実に元気だった。期待と元気でキラキラしていた。当然やんちゃな野郎共だっている。文先生の紹介とともに講演が始まった。最初は我々の自己紹介とともに今までの仕事の話をしていった。しかし200人の高校生の関心を引くのは簡単ではない。前半戦は話しながら随分ヒヤヒヤした、ことのほか千代ちゃんもビビっている。(1対1、特に女性は得意なのですが。)しかし後半戦、特にスギダラの話や冨高小学校の話、そして、学童とのワークショップのことになるとほとんどの学生達の目が輝いて来た。自分たちの体験に近いからだろう。そして、そんなことに、よくも、会社で働きながら、休日を使いながら、そしてしだいに会社が巻き込まれていく、仲間が増えていく様を見ながら、次第に学生達の顔が元気になってきた。
「どうだ、みんな、面白いだろう。真っ当なことは感動するんだよ、大人も子供も関係ない。僕らはそれを忘れちゃいけないんだ。やらない理由を誰かのせいにしちゃダメなんだ。そう思った自分がやればいい。しかし世の中そう簡単ではない。こんな仲間が7月をもって敢え無く解散!!」

学生達から「え〜〜っ」「なんでだよ!!」と声が聞こえた。

「そう、社会は理不尽なんだよ。理屈ではないんだ。それが現実であり社会そのものなんだ。説明不可能!!だから諦める?愚痴を言う?そりゃ言いたいし、いつも、心は荒くれ、ぐれています。実際ぐれています。しかしだよ、だからこそ、だからこそだよ」
「ずえって〜〜やめないんだよ」「会社やめね〜んだよ」
「だから、色々な仲間が増え、同じコトを思う仲間が支えてくれたんだよ。少しぐらい元に戻っても、前進している実感があるんだ。僕には。」
「みんな!!これからの自分の未来や、素敵なこれからを思い、やり続けるんだ。やっている間は絶対、負けは無い。だからみんな、諦めんなよ。地道にやってりゃ、ぜってーいい仲間ができる。これが、どんな仕事をしても、お金には換えられない喜びなんだ」「世の中捨てたもんじゃないって」

「さあ、みんな一緒に!!やるぞ〜〜」「お〜〜!!」
「ぜってー 諦めないぞ〜〜」「お〜〜!!」

この雄叫びで、講演会は終了した。最後に前列で聞いていた男子学生が叫んだ
「おい、皆!!声出せー!!」いかにも、やんちゃ軍団が出て来てくれた。
そして皆でもう一度。叫んだ!!
「ぜってー諦めないぞ〜〜」「お〜〜!!」

なんだか、感動してしまった。学生達も同じ顔をしていた。
「みんな、やるじゃんか。ほんとに捨てたもんじゃない、来てよかった」
そう思った。また新しい出会いが出来てしまった。

講演が終わり、控え室で帰る準備をしていたら、学生が数人訪れて来てくれた。
恥ずかしそうにしながら、いくつかの質問をくれた。どれもいい質問だった。
思わず力が入ってしまった。みんな本当に有り難う。
そして、前列に出て来てくれた男子ども、「君たち、いい男どもじゃないか。そう、立ち上がること、それが必要だ。その気持ちと純粋さを持ち続ければ絶対何かを成し遂げられる。間違いない。」有り難う、また会おう。

そして、我がチームの、チームから離れることになった2人。近藤、田中へ。たいしたことは教えられなかったけど、いや、むしろ君たちから教わったことが多かった。デザインはデザインのためにあるのではない、これから数年の経験が君たちのデザインにとって、きっと意味があるに違いない。どんなコトにも意味がある。だから身を委ね自分自身をさらけ出し愚直にぶつかれ。そして、いつもデザインを考える。それが君たちの力になるに違いない。悩み苦しみ、落ちこぼれて充分。それで、同僚だ!!またデザインやるぞ?!!

今回の機会のお陰で、新しい繋がりがまた出来た。理枝さん、そして山口先生。協力して頂いた先生方本当に有り難うございました。

「さあ、みんな。もう一度。」「ぜってーやめねー!!」 「お〜〜!!」

学生達、そして理枝さん、山口先生に感謝して。そして近藤、田中へ。

   
 
  打ち合わせはいつも直前。高校の控え室にて。
 
  若・千代コンビでの講演。200人の高校生を前に、最初は緊張する。
 
  「ぜってー 諦めないぞ〜〜」「お〜〜!!」最後には大盛り上がり。奥に見えるのが、山口文先生。
 
  前列で聞いていた男子学生も乱入。「おい、皆!!声出せー!!」「ぜってー 諦めないぞ〜〜」「お〜〜!!」
 
  コンビ愛。
   
 
   
  近藤くん
  7月でデザインのチームを離れる近藤くん。送迎会にて、芋焼酎「明るい農村」に「明るい近藤」のラベルを作ってプレゼント。明るく、繊細かつ豪快。どんな人とでも2秒後には「がははは!」と盛り上がる才能の持ち主。またデザインチームに戻ってくるのを待っています。
   
  田中くん
  田中くん。送迎会でも「がんばるぞ〜〜!おお〜!」。独特の雰囲気を持ち、まわりはみんな、何だかほっておけなくなります。デザイン、電車やオーディオなど様々なモノに関心をもったと同時に純粋に探求する。またデザインチームに戻ってくるのを待っています。
   
   
   
   
 
●<わかすぎ・こういち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない
活動を行う。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長

   
 


 
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