連載
  杉で仕掛ける/第14回・実践編 「日向市駅周辺の杉ダラ的鑑賞法4」 
文/写真  海野洋光
   
 

さあ、いよいよ、杉のストリートファニチャーを紹介です。
やっぱり、海杉は、ストリートファニチャー(長いので以下、STFに略)東口の入り口前にW1500の杉のベンチがある。日向市駅内で人気ナンバーワンのベンチだ。とにかくこのベンチの周りには、人が集まる。
なぜ?
それは、このベンチには、唯一、吸殻入れが近くにあるのだ。駅舎内は、当然禁煙。タクシーを待つ乗客のために設置している吸殻入れだが、スモーカーには、ここが最後の憩いの場なのだろう。しかし、とにかく汚い。タバコを吸う人のマナーがこのレンガの床に映し出されている。今後の課題になるだろうか?

このタイプのベンチは、W1500タイプとW1800タイプがある。W1800タイプのベンチは、東側はバス停と西側には歩道沿いの位置にある。このベンチに悲しい事件が起こった。何者かが、ベンチを傷つけたのだ。それも唯のキズではない。のこぎりで切っているのだ。このキズを見つけたとき、怒りよりも脱力感が先に来てしまった。「情けない」爪で落書きもある。
http://blog.goo.ne.jp/umisugi/d/20080113
公共の施設であるベンチは、どんな人でも優しく迎え入れるように考えている。高さや座り心地、素材の持つテクスチャ。手垢で多少汚れても、それもまた味なのだ。ベンチの座の間にゴミが詰め込まれている。ひとつひとつ、取り除くとお菓子やタバコの箱など、自分のポケットにしまっておけば、すみそうな小さなゴミだ。ちょっと悲しいかなあ。

こんな小さな事件を通して感じたことは、どんなにりっぱなモノや素晴らしいデザインでも使う人が、心無い使い方をしていては、意味のない無駄なものになってしまう。外国ではデザイナーのことを「問題を解決する人」と呼んでいるそうだ。海杉は、これからは、地元の人間や使用する人もまちをデザインしていかなければならないと考える。小さな問題でも、どのようにすれば解決するのか真剣に考えることによってデザインする力を身につけ、即、実行しなければならない。モノができただけでは、まちづくりとはいえない。

日向市の駅のSTFでとにかく目立つものが、「杉あかり」と呼ばれる街灯だ。街灯には、杉が使われている。全体が八角錐をした杉材を取り付けている。
http://blog.goo.ne.jp/umisugi/e/2ca8c105361fba462a2ae497439ebe47
この「杉あかり」の開発には、いくつかのエピソードがある。私の所属する日向木の芽会が、この日向市駅のプロジェクトに参加するきっかけとなった最初の仕事が、この杉あかりだ。
杉は、何処までもまっすぐな材と言う意味でスギと名づけられてと聞いたことがあります。その特性でいけば、八角形の材をつくることなんて簡単なように思えます。しかし、2600mmの長さの物を八角形にして、錐にするのは容易なことではありません。大抵の大工さんが、この街灯を見て、「どのように作るのか」と聞いてきます。同じものをほしいと言う方が、何人かいました。海杉は、「作り方を教えますから、お知り合いの大工さんに作らせてみては、いかがでしょうか」と言います。ビデオや写真で解説までつけて話をするのですが、まだ、他の方が作ったと言う話を聞きません。
なぜなのでしょうか?
まず、原木の選定が重要です。なるべく、節のないものを選ぶのは当たり前ですが、アテの少ない曲がらない材を選ばなければなりません。
http://www.wood-shop.co.jp/kinotisiki/wood/bad_2.htm
この杉あかりに使用する材は、1辺が25cm角の4面無節を使用します。それでも、節が出てきます。無節材を作るには、若い杉の時に節となる枝を切り落とします。
http://www.nw-mori.or.jp/vgs2003/3jikanme/shin_edauchi.htm
枝打ちをしても節は、内側には残っているのです。角錐に柱を削る行為は、この枝打ちして節が見えない本来ならば、無節の材にも出してしまう恐れがあります。この材で節が出てしまったら仕方がないと半分諦めてしまいますが、殆どが、節はありません。

価格の話をすれば、こんな材が安く手に入る地域は、数少ないのではないでしょう。の杉あかりが、日向で誕生したことは、日向・耳川流域が日本でも有数の杉の産地であるという証でもあります。

奈良の法隆寺の柱は、立ち木の状態と殆ど同じだそうです。つまり、北を向いた材は北に、南の材は南に取り付けてあるそうです。なんとか、そのようにしたいと思っていたのですが、どうしても、金物が先に設置してあって、その方向まで変えられないので、ここは泣く泣く、金物に合わせています。
この杉あかりは、八角錐を半分に割っています。2つでひとつの形をしていますが、同じ材を使用しています。木材には癖があります。同じように曲がろうとします。必ず、同じ材を使用してその材が抱き合わさるように作っています。この材に関しては、天地も同じにしています。大工さんに口やかましく話していることに天地だけは、間違えないようにと言うことです。立ち木と同じ状態で設置しなければなりません。これは、屋外に木製を設置するための鉄則です。

こだわってしまえば、キリがないのが、木材です。このこだわりは、説明をしなければ、誰にも分からないこだわりですが、あと10年経つときちんとした実証が出来ると信じています。

天地の話とは違いますが、油津でもデッキ材の木表、木裏のことは、設計者である小野寺さんに話したことがあります。日本の大工さんは、木表にデッキ材を張りたがります。その方が、きれいに仕上がるからです。デッキの本にも木表を推奨している本もあります。しかし、あえて、木裏にする意味があるのです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8%E8%A3%8F
反りの問題は、ありますが、割れの問題の方が、屋外では、問題は、大きいのです。張り方だけで、耐久性が違ってくるのです。

そして、ボラードですね。
木の芽会のメンバーは、当初「ボラードって何??」でした。今では、車止めのことと知っていますが、あまり縁のない言葉でした。このボラードにもさまざまなことをしています。まず、木材の厚さが一定なのです。これは、当たり前のようでなかなか分かってもらえないのですが、木材はどこか、基準を作らないと製作しにくい部材です。はじめのボラードの鋳型は、木製の部分を当てると厚さを変えないと納まらないものでした。曲面を作り出すのに手作業は仕方がないのですが、湾曲した定規を当て、ひとつひとつ作るには、厚さだけは、同じにしてもらわないと大変さが倍になってしまいます。このことは、かなり熱く語ってしまいましたが、手作りなのに大量生産ができるのは、この厚さに秘密があります。
ボラードの頭の部分をよく見てください。日向市のマークの入ったものと入っていないもの(塩見橋詰め公園)があります。このボラードの頭部が、宮崎県と日向市が上手く連携した証なのです。鋳型の型は、宮崎県の発注でその型を使って日向市も製作しています。この鋳型の分の費用を負担しなくて済むのです。ボラードでコラボレートです。日向市はとにかくいっぱい作っていただきました。将来、最終的には100基近いボラードができると思います。

日向市駅周辺のSTFで仕掛けています。海杉は、きっと10年後、日本のエクステリアウッドの世界が変わると考えています。今まで使えなかった木材がSTFで使えると日本中のデザイナーが知ったら、これは、もうすごいことです。
これだけの壮大な実験は、何処の誰もやっていませんし、まだまだ、お話できない実験がたくさんあります。

海杉は、実際に見に来て触れて欲しいと考えています。今年の杉コレクションは、きっとすごいことになると思いますよ。

   
   
   
   
  ●<うみの・ひろみつ> 日向木の芽会 / HN :日向木の魔界 海杉
「杉コレクション2008」 実行委員長 http://www.miyazakikensanzai.com/mokuseikai/sugi_collection/
   
 
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