第二特集
 

杉コレ一次審査報告[上巻]

文/ 千代田健一
  これまでの杉コレ・4回目の意義〜一次審査の舞台裏  
 
  去る9月17日(水)東京都中央区の内田洋行新川ビルにて、宮崎県木材青壮年会連合会の主催する杉のデザイン全国コンペ「杉コレクション2008」の1次審査会が行われた。今年で4回目の杉コレである。
  今年の開催地は、第1回杉コレクションが開催された日向市だ。通常、1次審査は開催地で行うのであるが、今回は内田洋行が杉コレのオフィシャルスポンサーに名乗りを上げたこともあって、東京の内田洋行で行うことになった。
   
 
  内田洋行の会場は杉コレ仕様
   
   第4回目のテーマは、思わず欲しくなる杉の大道具たち「杉でつくる幸せ空間」と題し、どこにでも仮設で素敵な杉空間を演出してくれる、そんな大道具を募集した。
   
  過去をおさらいすると、第1回の日向大会のテーマは当時建設中だったJR日向市駅のプラットフォームに設置することを目標とした「杉のステーションファニチャー」。第2回宮崎大会は「一坪の杉空間」とし、限定された大きさの中で杉の可能性、表現を競った。第3回都城大会では、「こりゃ、スギェー 掘り起こせ杉のポテンシャル」とし、100立米もの杉材を使って、とにかく何でも作ってしまおう!という太っ腹なコンペとなった。回を重ねるごとに応募点数も増え、杉コレの認知度も世の中に対する影響力も年々高まって来たところだ。
   
  今回の杉コレクションの実行委員長、スギダラ宮崎支部長の海野さんが杉コレを通して目指していたことのひとつは杉コレを全国で開催できるデザインイベントにすることだった。もちろん、杉材の生産量17年連続日本一を誇る宮崎県にとって、産業を維持し発展させてゆく上でも重要なPRイベントなのであるが、定常的に予算を取って行くのもそう簡単なことではない。そこで海野さんは、この流れを全国に波及させて仲間になってくれる自治体や企業を探そうとする。海野さん曰く、「スギコレの冠に企業名が付いてもいいと思います。」例えば、内田洋行杉コレクションでもいいと・・・
   
  杉コレに一番近い、木材業界以外の企業である内田洋行がどのように関わって行けるか、スギダラ本部の若杉さんが知恵を絞る。若杉さんの頭にあったのは、内田洋行1社では、杉コレを運営する必要予算を捻出できないだろう、ということで、この活動に賛同してくれる他の企業を探すことを提案するが、そう簡単に賛同者を見つけ、協賛金を絞り出すのは難しい。しかしながら、今回は杉コレが全国に出てゆく最初の一歩として、内田洋行がオフィシャルスポンサーとして、協賛することに成功する。内田洋行からの協賛金と県の予算、木青会の予算で実施できることになった。
   
  実は、内田洋行がオフィシャルスポンサーとして関わることになったのは、今までのスギダラの活動や杉を使った製品化、インテリアに可能性を見出し、会社の未来に取って有効な活動であると経営陣が認めたからだけではない。日頃から相互にPRし合っていた宮崎県との関係性を内田洋行の経営陣もある部分認めてくれたことにもよる。オフィシャルスポンサーとして名乗りを上げる最後の決め手になったのは、東国原宮崎県知事の内田洋行訪問だったかも知れない。知事訪問のおかげで、内田洋行は杉との新しい付き合い方を模索している企業として広く知られるきっかけができた。そんなことを仕掛けたのが宮崎県東京事務所の方々や海野さんである。この機を逃さず、若杉氏は内田洋行向井会長(その当時は社長)からオフィシャルスポンサーとして参加することの承諾を得るのである。
   
  そんなこともあり、1次審査は東京の内田洋行で行うことになった訳だ。せっかく人が集まりやすい東京でやるのだから、応募作品の公開をしたり、記者発表をやったり、杉コレクションのことを広く知ってもらうためのイベントを用意することとなった。
   
  そのイベントの目玉として、杉コレの第1回目から審査委員長を引き受けていただいている、建築家の内藤廣さんにセミナーをやっていただくことを思いつく。元々、1次審査は日向に行ってもらうことになっていたので、東京でやれば時間的余裕もできるだろうと安易に考え、南雲さんに交渉に当たってもらうが、あっけなく?引き受けていただいた。それと杉コレの1次審査の結果と杉コレクションの活動に関するプレス発表を行うことを計画し、同時に現在内田洋行が日本木材青壮年団体連合会との協力関係の元、杉のファニチャー製品を発売することを発表する場にもした。
   
  前談はそのくらいにして、当日の模様をレポートしたい。
   
  まず、今回の杉コレ1次審査を審査していただく審査員の皆さんは・・・
  審査委員長の内藤廣さん、前回の都城大会でも審査員をやっていただいた宮崎県木材利用技術センター所長の有馬孝礼さん、杉デザインの専門家、我らが南雲勝志さん、主催者を代表して宮崎県木材青壮年会連合会会長の竹之内昭裕さんに加え、オフィシャルスポンサー内田洋行の代表取締役会長、向井眞一さんに審査をお願いした。
   
  今回は事前エントリー数は110件ほどあったが、実際の最終作品の提出は49件に留まった。初回から応募数を着実に伸ばして来たのであるが、今回は昨年の半数以下の応募になってしまった。広報宣伝活動は例年以上にやって来たので、テーマがとっつきにくかったか、世間の関心が薄れたのかわからないが、やや不本意な応募点数に関係者一同不安が走った。しかしながら、最終的に集まってきた作品群の出来栄えは年々上がってきているように思えたし、迫力のある模型も多数あった。1次審査を空間デザインを専門とする内田洋行でやるということで、作品群の展示設営にも力を入れた。審査の後に一般公開できるよう、ちょっとした展覧会の風情で設営をする。
   
  まず、最初に審査員の方々に一通り作品を見ていただき、それぞれに票を入れていただく。票の高いものから、模型を中央に集めてきて、議論を交わす。いつも通りのやり方だ。それぞれ票を入れた審査員が出品者に成り代わってプレゼンテーションするのであるが、審査の主導権を握るのは杉デザインの専門家、南雲さんだ。内藤さんや有馬先生の票を却下する場面もあったりで、なかなか面白い光景である。
  今回、初参加の内田洋行の向井会長は、自分の推している作品はほとんど却下された、と苦笑いするが、審査自体をとても楽しんでくれている。この場に引っ張り出して良かったと、千代田は内心そう思い、ほっとする。
   
   
  まずは、審査員の皆さんがそれぞれに作品を見て回る   候補作品を中央に持ち寄り、議論を交わす審査員の皆さん。向井会長の意見がなかなか通らない。(苦笑)
   
  今回の作品の傾向は、組み合わせて様々な形状を作れるパズル、ブロック的なものや衝立状のものが多く、似た傾向のものでどちらを取るか、という議論が繰り返された。
   
  当初、審査には午前中と昼食を挟んで午後1時間ほど予定していたのであるが、実はこの1次審査、例によって直前にハプニングがあり、審査を午前中で終わらせないといけなくなっていた。
  その例は話すと長くなるので割愛するが、審査委員長の内藤さんが審査の日を間違えてスケジューリングされていたとの事で、当日の午後からどうしてもはずせない会議が重なったのである。1次審査は何とか午前中に終えてしまうことができるかも知れないが、プレスや一般参加者を集めての1次審査の結果発表を審査委員長抜きでやることになるかも知れない、と関係者一同肝を冷やした。そんなこともあり、1次審査は何とか午前中で選考を終えることができた。
   
  昼食もそこそこに内藤さんを送り出すが、今更予定を変更もできないので、内藤さんがその別件の会議を終え、予定通り審査発表の時間に戻って来てくれるのを祈った。
   
  さて、内藤さん不在で迎えた午後の審査発表会であるが、ここから千代田が司会進行することになる。それにしても、審査発表をしてもらう予定の審査委員長が不在で当初の予定通りの進行にはならないので、困った。とりあえず、杉コレクション実行委員長の海野さんに杉コレクションの概要を語っていただいた後、集まっていただいた参加者の皆さんには、内藤さん以外の審査員からの選考の講評および、杉コレクションについてそれぞれの想いを語っていただいた。この予定に無いシナリオに対して、審査員の皆さんは臨機応変に応えてくれた。ひやひやしながら落ち着かない司会の僕とはさすがに役者が違う。
  今回の杉コレクション実行委員長の海野さん、杉コレの熱い想いを静かに語る。  
   
 
  審査員の皆さんがぞれそれに今回の審査の所感と杉のこと、デザインのことを語ってくれた。その中で有馬先生には、なぜ杉なのか?ということを皆さんに知っていただく上で、今までになかった切り口でわかりやすくお話いただいた。「杉と檜は似ているが、生物学的には人間とサルほどの違いがある。」というお話など、杉関係者にも新鮮なお話だった。
   
  一通り各審査員のコメントいただいたその時! 内藤さん、登場!!! 拍手喝さいで迎えられる。まさか、これを狙ってたとか? そんなことはないのだが、審査委員長の登場で場内もさらに盛り上がる。
  内藤さんにも今回の杉コレクションの応募作品の総評をいただいたところで、1次審査の結果発表を行った。
   
  今回1次選考に残った作品は9作品+特別枠の10作品。
  会場のスクリーンに通過作品の模型映像を映し出しながら、審査員の皆さん、特にその作品を推した審査員の方を中心に講評していただいた。
   
 
  藤さん復帰で、場内、盛り上がる。早速、1次通過作品の発表に移る。
   
   
 
[下巻]につづく
   
   
   
   
   
   
   
  ●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
   
 
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