第二特集
 

杉コレ一次審査報告[下巻]

文/ 千代田健一
  これまでの杉コレ・4回目の意義〜一次審査の舞台裏  
 
  今回1次選考に残った作品は9作品+特別枠の10作品。
会場のスクリーンに通過作品の模型映像を映し出しながら、審査員の皆さん、特にその作品を推した審査員の方を中心に講評していただいた。
   
  では、栄えある杉コレクション2008 思わず欲しくなる杉の大道具たち「杉でつくる幸せ空間」に通過した作品を審査員の推薦コメントを交えご紹介しよう。
   
 
  エントリーNo.19 「Transform #001#002」 作者:アーバンファクトリー
  角材の片方の端部を串刺しにしたシンプルなユニットを重なり合う角材を互い違いに開き、他のユニットと交互に重ねて、箱状に組んでゆくもので、イベントや街中の待合スペースに有効であろうという票を得た。推薦者の一人、有馬先生からは、作る時に工夫が必要であり、作る時の楽しみがあるだろうというコメントをいただいた。
   
 
  エントリーNo.22 「杉のレジャーシート」 作者:寺田尚樹+テラダデザイン
  杉コレの常連、寺田さんの作品は今回も1次通過。応募作の中では少なかったパーソナルユース中心のアイテム。推薦者南雲さんは、一見単純に見えるものの、薄い杉板をテープ状の紐にどう留めてゆくか、ジョイントの方法に難しいところもあるだろうが、うまくできればレベルの高い商品になりうる可能性があると評価。
   
 
  エントリーNo.54 「感謝の斧」 作者:長友弘幸
  杉コレの応募作品の中にはこの作品のように飛びぬけて異質なものが必ずある。デザインというよりは作者の想いとものづくりの意気込みが評価され、特別枠に。
  票を入れた内田洋行向井会長は、会社の玄関に置きたい。デザインの良し悪しよりも木としての主張があって存在感があると評価。
  内藤さんは、こういう審査基準にないようなものがあるのがスギコレの良いところだと評価。
  1次審査で特別枠を出すのは、初めてのこと。本審査でどういう扱いになるかまだ未定だが、今回の杉コレのマスコットアイテムになるか?
   
 
  エントリーNo.66 「MINORI」 作者:佐藤広貴
  刈り取った稲を束ねて乾燥させている様をモチーフにしたすだれ的なパーティション。2005年の1次通過作品の中にも似た発想の作品があったが、今回は同じようなブラインド状のユニットが立ち並ぶことによって今回の杉コレの本審査会場に豊かな景観を作ってくれるであろうという期待がこめられた。
  推薦者の向井会長はこのパーティションから発する杉の香りと揺れた時に木と木がぶつかり合う音に期待を込め、自社のオフィスのパーティションとしても採用してみたいと評価。
   
 
  エントリーNo.68 「杉ボールたまり」 作者:4人会
  もろぶたをモチーフに考案されたリラックスツール。積み重ねられる箱の中には杉の玉がぎっしり詰められていて、その箱を平たく並べて、寝転がったり、座ったりしてやわらかい杉の感触を楽しめるというもの。
  実際に作った時の面白さに期待がこめられた。南雲審査員は、大型の作品が多い中で、個人で所有したくなる雰囲気を持った道具であると評価し、杉の球でできてるから杉球(杉九というのがスギダラ倶楽部北部九州支部の愛称)なんて、内輪でしかわからないギャグをかます。
   
 
  エントリーNo.70 「家具の弁当箱」 作者:RESCUE8
  ドラえもんに出てくるどこでもドアのような扉のユニットが通い箱になった組み立て式ピクニック家具セット。構造的に問題があるものの、その楽しさに期待が集まる。
  内藤審査委員長はこれは変な作品とするも、遊びとしては面白い。作る難しさはあるが、木青連が作れると言うので推したとの事。
   
 
  エントリーNo.74 「ココでなにする」 作者:鈴木暁子
  ところどころ隙間のあるコの字のユニットを繋いで構成する遊具。イベント会場での子供の遊び場として、休憩用のベンチとして楽しさ空間づくりを可能にする作品だ。要所要所に出入り口になる部分を設けたらいいのではないかと意見が出た。南雲さんは、隠れ家的な遊具で、子供にとって魅力的な空間が割と簡単に作れると評価。
   
 
  エントリーNo.77 「マカロン・チェアー」 作者:御手洗克明
  円柱状のユニットに板上のユニットを渡して組んでゆくシステムベンチ。組んでいった時にちゃんと安定して座れるかどうか不安の声もあったが、有馬先生は丸太の小口の断面を上面に見せるデザインは新鮮と評価。
   
 
  エントリーNo.87 「UMI-sachi/YAMA-sachi」 作者:川村洋人
  昨年の杉コレでグランプリに輝いた川村さん、今回も入選。板材を波状に編みこんだパネル上のものがUMI-sachiで、蛇腹ベンチがYAMA-sachi。コンセプトとしてはセットで意味を成すのであろうが、実は評価されたのはUMI-sachiだけ。ベンチの方は製作の難しさと似たコンセプトのものが世にかなり出ているとのことで、UMI-sachiのみでの条件付入選となった。南雲さんは、宮崎の飫肥杉が持つやわらかく曲がりやすい性質に向いている作品だあると評価。
   
 
  エントリーNo.104 「MIKOSI」 作者:高井裕輝
  実はこういった作品がもっと出てくるのでは?と期待していたとこもあったのだが、今回はみこしや屋台的な作品はこの作品だけだった。だからということではないが、イベント的にも楽しいだろうと多くの票を得た。
  内藤審査委員長は本審査の司会進行を担当するスギダラ本部、若杉、千代田のWCコンビがこれを担いで登場すればいいとおっしゃっていた。それで写真撮ったりすると絵になるんじゃないかと・・・
   
   
  以上、9作品+特別枠1作品 計10作品が選定された。
   
  これらの作品は宮崎県木材青壮年会連合会で手分けをして、10月19日の本審査までに実物製作に取り掛かる。木青連としてはここからが腕の見せ所だ。
  例年そうであるが、デザインした本人が感動するものが仕上がってくることであろう。
  内藤審査委員長の総評は、できるだけ審査会場に並んだ時に子供が遊んでくれるか?とか、来た人が喜んでくれるか?という視点で選んだ。これを実際に作る時には技術的は問題等、クリアしていかなければならないこともあり、模型と違うところも出てくる可能性がある。そういう視点で見ても面白いのではないか。乞うご期待!と、締めくくってくれた。
   
  入賞者の発表の後は、審査委員長 内藤廣さんのセミナーを開催。題して、「内藤廣の面白ろスギる話」。もちろん、このタイトルを決めたのは南雲勝志。本人に確認したのかという事務局サイドの心配をよそに、本人は至ってお気楽。「大丈夫なんじゃない」という感じ。
  それを受けた内藤さんはセミナー当日直前に話のネタのスライドを用意したとの事。最初に1次審査の結果発表に遅れたことをお詫びして本題に入る。
   
  冒頭は、なぜ遅れたのかその理由とそこで得られたいい話をしていただいた。グッドデザイン賞の審査委員長を務められている内藤さんは今年のグッドデザイン賞の報告会に行かれてたとの事。その会議の中で、メンバーの三宅一生さんが話されていたことを伝授してくれた。
   
  三宅さんは、今のデザイン業界に横たわっている傾向を嘆いて、デザインしなくていいものまでデザインしているのではないか?・・・デザインの世界はこんなんでいいんですか?・・・デザインっていらないかも知れない、こんなんじゃ・・・と。
   
  内藤さんはまず、三宅さんの言葉を借りながら、デザインすることの意義、本質を語ってくれた。
   
  杉コレのデザインの方が本物ではないか。Gマークで入選する洗練されたデザインに比べるとダサイけど、杉なんかにこだわってやってるけど、洒落にこだわってやってるけど、この方が健全なのではないか? これこそが最先端だ、と自信を持ってやろう!とエールを送ってくれた。
   
  セミナーは日向でのことを中心にダイジェストで語ってくれた。冒頭、杉の字の意味を参加者に問う。木青会のメンバーだったら知ってるだろうと問いかけるも、誰も知らない。造りの部分のちょんちょんちょんとあるのは影を意味し、杉というのは光を作る木だと言う意味らしい。杉は縁の下の力持ち、影の存在であるということを自身とその仲間たちがやってきたことに繋げ、関わってきた仲間の話を中心に解説。最初に登場したスライドは、日向のまちづくりを一緒にやってきた仲間の大親分。でも、目の部分が黒の帯びで消されている。そのスライドを見て事情通が爆笑。スギダラ関係者であれば、知ってる人も多い方で、名前と顔を部分的に伏せて匿名性を持った人物として語られた。その割りに性格のことまで言及。次に出てきたのが南雲、若杉、千代田のスギダラ3兄弟の写真。やはり、目の部分は黒く塗られている。3人の黒子はデザイナーで普通、都市計画の中ではデザイナーはあまり前面に出てこない人種であるが、この黒子たちは市民とのコミュニケーションの最前線に立ち、プロジェクトを盛り立てた、それも杉を媒介にしてと、賛辞を送ってくれた。これは内田洋行でこのプロジェクトに関わってきた若杉、千代田へのエールだったと思う。
   
 
  目にマスクがされた画像はかなり受けを取ったが、内輪だけかな?
   
  そんな調子で杉とまちづくりの関わり、住民との関わり、杉に対する関わった人々の熱意、といったことを語ってくれた。時折、南雲、若杉、千代田の3人の黒子にも話をさせ、掛け合いもあってとてもテンポがいい。さすがだと思った。プロジェクトに関わった黒子たちと人にとって黒子のような存在である杉を重ねての話は、どのエピソードもぐっとくるものだった。ジーンとしてしまうようなドラマの連続だったが、それを目の部分を伏せた画像と杉に関わる話で綴ったプレゼンテーションはとてもウィットに富んでり、楽しいものだった。タイトル通り、面白ろスギるお話だった。最後に「まずい、洒落がひとつも入らなかった。」と言いつつも、杉の可能性、杉を通して何を語るか、本質的なデザインをやろう!Gマークのデザインみたいなのではなく、つまらなくれも、つまらないんだけどすごい!そんなデザインをやろう!ダメ?(笑)と締めくくってくれた。
   
  そんなお洒落なセミナーの後は、杉コレクションと内田洋行が発売する杉ファニチャーのプレス発表があり、南雲さんデザインの杉家具、あしからシリーズが紹介された。
  脚が1脚でも自立する脚部に天板を乗せて使う家具群で、脚を複数使うと「あしからず」となる。何ともスギダラらしいネーミングである。
   
 
  脚部が自立するファニチャーシステム「ASHIKARA」シリーズ。テーブルやカウンター、オープンシェルフになる。板材は各地の地場産木材の活用が可能。内田洋行と全国の木青連のコラボレーションで販売を開始する。
   
 
  プレスの方々にデザイナー自ら実演し、アシカラシリーズの説明をする南雲さん。
  その後はセミナーやプレス発表に集まっていただいた皆さんと一緒にパーティで盛り上がる。宮崎から直送の食材を中心に素晴らしい宴が設けられ、杉談義があちこちで行われる。一番人気は、冷汁コーナーだった。宮崎は杉の生産量も日本一であるが、食材も有名かつ美味しいものがたくさんある豊かなところだ。その一端を集まった皆さんに堪能していただいた。
   
 
  応募作品は一般公開された
 
  杉コレクションのレセプションパーティで、ご来場の皆様にご挨拶する向井会長。宮崎からの食材でおもてなし。
       
  一番人気だったのが、冷汁コーナー。その他、地鶏焼き、生しいたけ、さつまいもなど産地直送の美味しい食材で、パーティは盛り上がった。  
   
  そんな感じで、杉コレクションの1次審査会は大成功の内に終了。次の本審査に向け、期待が高まった。
   
  例によって、若千代のWCが日向でお待ちしております。10月19日は是非、日向でお会いしましょう!
   
   
  *「杉コレクション2008」の詳細はこちらのオフィシャルサイトをご覧ください。
   
   
  ●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
   
 
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