モバイルな時代
文/写真  南雲勝志
  モバイル連合と懐かしい未来
 

さてさて、39号で若杉さんが熱〜く序章を語ってくれたので熱心なスギダラファンはもうすでに結果が見えているかも知れませんが、続きを書きます。

今の時代、モバイルという言葉を聞いてすぐに思い浮かべるものはケータイである。モバイルは移動、だからケータイはあたり前だけど移動式電話。
家具デザインの本場イタリアでmobileと言えば家具のこと。固定した建築に対し、簡単に自由に移動出来るものだからだ。同じ建築でも住む人によって家具が変わり空間が変わる。また住まい方や模様替えなど時間と共に置く場所も変わって行く。石やレンガが主素材の建築は滅多に建て替えないから、家具こそ自分らしさを表現する大きな要素になってくる。
日向市富高小の子供達がつくったものは「移動式夢空間」。まさにまちなかをあちこち移動しながら自分たちの想いや夢を実行する空間である。
こう考えると「移動出来る」ということはなんだか面白そうな要素が含まれているらしい。それは多分一つの場所に限定されず、臨機応変にその場の条件に対応し、自由に楽しめるからだろう。しかし、これはスピードの問題もありそうだ。自動車の走行スピードレベルになってくるとその楽しさはなくなる。auto mobieではダメなのだ。あくまでも自分の身体能力の範囲でゆっくり移動することがミソなようだ。

さて、話は戻って若杉さんのいう屋台の可能性。これはまさにどこでも持って行ける固定されない楽しい装置だ。立派とか、ちゃっちーとか、そんな事はどうでも良い。仮につくりがアバウトであっても、傾いていても屋台空間のもつコミュニケーション機能というものはあまり変わらない。なぜならそれが基本的に楽しければ一番の目的を果たしている事になるからだ。
全国の商店街を回っていると屋台の潜在的需要がかなりあることに気づく。疲弊した商店街を一気に元気にすることはとても大変だ。無理をせず、負担なく自然に元気の出るようなもの。だいたいそんなものを共通して欲している。いま地方都市の多くは大袈裟な改革はなかなか出来なくなっているし、住民もそんなものは望んでいない。もっとほっとするもの、ふっと笑顔がこぼれてしまうような、そんな時間と空間を欲しているのではないだろうか。そんな時、屋台は少ない予算で、簡単に子供も大人も楽しめる賑やかな空間を作ってくれるのだ。

ここで屋台のタイプを敢えて分類してみると大きく二つに分けられる。ひとつは機能を特化し、ある目的の為だけに存在するもの。もう一つは出来るだけ多用な使い方が出来るように台としての基本的機能を優先したものである。 前者は主に食を中心とし、屋台を囲んでコミュニケーションをとるもの。博多のラーメン屋台に代表されるようなものを想像しがちだが、yakitori-barやぶんぶくスギッチンだって立派な屋台だ。とにかく美味しい食べ物と美味しい酒を中心とした空間。それがあればあとは何とかなる。
後者はディスプレー台として機能するもの。ものを並べ、見せ、時には販売もする。そもそも美々津で有名な「バンコ」は実はベニスの商人がサンマルコ広場で金貸し業を縁台でやったことから来ている。銀行はBanco、だから縁台が「バンコ」。つまり縁台も立派な屋台なのだ。海沿いであれば海産物販売所、また干物を干す台もとても美しい。山であれば野菜や山菜の販売所などもあげられる。市はその両方が競い合うように並ぶ。戦後の戸板商売のように、このては金をかけなくとも屋台として機能する空間はいくらでもつくれる。ただしセンスは必要だ。ものを魅力的に見せるステージとしてはうってつけの屋台だ。

秋田ではいくつか屋台の可能性にチャレンジしてみた。たとえば能代上町商店街では空き地や駐車場を利用して屋台商店街をつくろうと計画した。同じように秋田駅前の空きスペースでは、駅前に屋台の横町をつくってはどうかと盛り上がった。二ツ井駅前は貨物引き込み線もあり、かなり広いスペースがあるが、今はただガランとしてとても寂しい。だが廃れても駅は駅である。駅前は地域のコミュニケーションの中心であるべきだ。ここでも駅前屋台商店街が出来る。季節ごとにレイアウトを変えたり、場所も南や北へ移動することだって可能だ。
さらに窓山では、オーナー制の屋台を提案した。オーナーは屋台のイニシャルコストを払ってもらう。もちろん自分で営業してもいいし、人に貸しても良い。オーナーと使う人を分業することでお互いが負担が軽くなるのではないかと考えた。
ただ、これらの提案をしていた頃は考えることで精一杯であった。しかし今やつくる人、使う場所、コストのかけ方、ユーザーの意識など様々なものが見えつつある状況になってきた。継続は力なりだ。結構実現するためのハードルは高くないというところまできた。要は固定されず、融通がきき、リスクも小さい。それでいてちょっとしたコミュニケーションの拠点としては大きな可能性があるわけだ。※秋田歳時記台7回参照

 
  能代上町スギダラ屋台商店街。後ろは黒いトタンの倉庫。だから杉も黒い杉。
 
  窓山スギダラ屋台村。「小料理小町」や「ウチダラモツ屋」焼酎バー「若杉屋」など、魅力的な店が集まる予定。
 

実はこれはとても面白い要素を含んでいて、屋台そのものだけではなく、どうやってそこまで人を移動させるかという話にも繋がってくる。歩く人はもちろん、自転車の人もいる。電車で来る人もいる。最近はトロッコでやってくる人もいる。(笑)そのルートの取り方や誘導の仕方も一つのイベントになる。
ふと、鉄結無人駅を思い出した。IT案山子 2007年 good design賞は駅を守る情報装置だが、GPSやWEBカメラを搭載し、ネットを介せば日本中の無人駅や地域を結ぶ事が出来る代物だ。ネットで結ばれた情報が無人駅と日本中を結びつけ、繋がりを持ち始める。 案山子だってITの時代、屋台だってITと絡めたら面白いことが起きる。たとえば 拠点と拠点を結ぶだけでなく、通過点にも休むための小拠点が必要にもなってくる。それらをそれぞれ繋ぐ事で、観光地を散策する人たちに休憩ポイントや、目的地、今どこでどんな屋台をやっているかといった情報をすぐに伝えられる。

春の只見線ツアーで話題になった事は、5時間も電車の通らない時間、軌道を利用してトロッコ屋台で地域とよそ者が楽しめるアイディアで盛り上がった。軌道をゆっくり歩くのはとても気持ちがいい。車輪とソリを持った雪陸両用であれば、冬は軌道からスイスイとスキー場にも移動していける。するとお客さんはスキーでやって来てそのまま屋台で楽しんで、またさっとゲレンデに戻っていける。スキーを脱いでレストランに入るのはとてもおっくうなのだ。 (新潟の 岩井さん、ぼちぼちシーズンですね。そろそろ動き出しましょうか?) 
海だったら、浜辺で夏限定の海の屋台横町、運河なら舟屋台、プールならプールバー!?  
仮に一人で持ち運べる屋台をつくれば、そのものがモバイル道具になる。それを持って100人程度が集合すれば、それだけでその場所が立派な屋台村に変身してしまう。

とにかく人+屋台、自転車、ケータイなどを上手く組合せると、いってみれば「モバイル連合軍」ともいえるシステムが考えられる。それぞれが移動しつつもお互いを把握し、遊牧民のような感覚で商店街でも観光地でも里山でも多いに楽しめる場が広がっていく。
もちろん環境に優しいのは当たり前だ。プラス地場産材や地域産業の活性化、そしてそれは地域そのものの活性化にも繋がる。モバイル連合軍の拠点としての屋台の存在の仕方は、日本中に本当に多くの可能性を感じさせてくれる。
それは新しい社会システム、インフラ整備といえるレベルになるだろう。まさにおっきな「移動式夢空間ネットワーク」の構築という領域に入っていく。でも大事な事は地域にきちんと利益が成立することである。つくる側、使う側、そしてお客さん。このモバイル連合はその過程でちゃんとお金になるシステムが出来る可能性がかなり高い。

さあ、こりゃあ大変だ。屋台をいくつ作っても足りないかも知れない。いったいそんなに作れるの? 心配はご無用である。なぜならそれは全国をまたにかけた屋台製作販売チェーン組織「屋台専門店」が請け請け負ってくれることになっている。現時点ですでに宮崎、北部九州が手を挙げてくれているが、吉野、秋田が続くのは間違いない。ここ数年の経験でどこの支部もかなり屋台製作の腕は上げている。東京支部が動いたらスゴイことになる。
産地やメーカーだけではない。屋台のデザインもデザイナー仲間や建築家達が興味を持ち、協力の意思を示してくれている。屋台のサイズ、アイテム、アイディアは無限大。全国コンペだっておもしろい。スギダラ主催の初のコンペ「日本全国屋台コンペ」はすぐに出来るだろう。
今後すでに実践してきた屋台に加え、徐々に増やし続け、日本全国北から南まで商店街を中心に巡業ツァーを行うという壮大な計画も考えている。各地でパフォーマンスを行ないながら屋台の製作販売も受け付ける。そのためには勝った負けただとか、どっちが先だ後だのレベルではない強力な協力関係が日本中に不可欠になってくる。
言ってみれば、今までのスギダラの下地を持った上で、地域(市民、産地、ものづくり)、行政、企業、学系、設計、デザインを一まとめに繋ぐ、いう構想が必要になってくる。単なる産、官、学などという枠組みでは限界があることをみんなわかってきた。主人公は市民であるからだ。 そこでチームが必要だ。

ということで、前置きが長くなりましたが、ここで宣言です。といっても正確には唐津白水「杉+」で先に宣言してしまいましたが、11月8日をもって「日本全国屋台ダラケ倶楽部」、略して「ヤタダラ」が誕生しました。
位置づけはスギダラの分科会。本当はこんな事に対してたんまり補助金が出て、研究開発をしていったら日本の未来も明るくなるんだけど、今はありません。

 

残念ながらレアーな一桁台会員Noはすでに埋まってしまいましたが、二桁台会員Noはまだ若干あります。
年末の慌ただしい時期に恐縮ですが、
あなたも「ヤタダラ」の会員になりませんか?
何と今なら会費は無料です!
まだ立ち上がったばかりですが、皆さんの力で懐かしい未来へ向かってばく進しましょう!

2009年初頭にはヤタダラ専用ブログも立ち上げます。どうぞお楽しみに。

ヤタダラブログへ

 
福井県勝山市で提案した水路上の仮設屋台
   
 

 

  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
 
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