連載
  東京の杉を考える/第32話 「日本をふらふらと」 
文/ 萩原 修
  あの9坪ハウスの住人がスギダラ東京支部長に。東京から発する杉ものがたり。
 

3月末は、地方に行く機会が多かった。3月17日、18日と岐阜県の美濃へ。3月20日、21日は、新潟の出雲崎へ。3月24日、25日、26日は、北海道の旭川へ。3カ所ともはじめてではなく、継続して通っているところだ。何度か行くうちに、知り合いも増え、なじみの場所も覚え、なんだか愛着もわいてくる。いずれ、どこかに別荘、あるいは、移住ができるといいなあなんて、考えはじめている自分がいる。

東京になくて、地方にある魅力のポイントを考えてみる。

まずは、「自然」。紙の産地である美濃は、水があってこその場所であり川が重要な役割をしている。出雲崎は、海と山があり、小規模ながらおいしいお米をつくり、小さな漁港ではうまい魚があがる。旭川は、山に囲まれた盆地であり、木材の集積地であることから木工が盛んになった。どこも自然と産業とが密接に結びついている。

そして、「歴史」。美濃は、うだつのあがる町並みが残され、紙の産地として反映した面影がある。出雲崎は、江戸時代には、幕府の御領地として佐渡の金山から金を運んだ場所であり、海沿いの街には、3、6キロにわたり妻入りの家が連なる。旭川は、もともとはアイヌの地だったが、明治になって開拓した場所で、どちらかというと歴史は浅いのかもしれない。東京も歴史を積みさねてきた場所もあるが、戦後に東京にでてきた人が多く、なんだかその魅力と住む人がうまく重なってこない。

最後は、「人のつながり」。東京がなんらかの理由で地方から流れてきた人だらけだとしたら、地方には、その地に何代にもわたって住み続けている人が多い。それが、なんとなく落ち着いた雰囲気とコミュニティを形成している。地方によっては、排他的なところもあるのかもしれないけど、案外と、東京よりもよそ者とうけいれる土壌もあるような気がしてならない。旭川に移住して16年という人が、「とにかく人がいい」と言っていた。

「自然」と「歴史」と「人のつながり」

最近、地方に通うようになって、この3点がいい暮らしをつくる大きな要素なんじゃないかと実感するようになってきている。もちろん、いっしょに住む「家族」や「住宅」、そして「仕事」も大事な要素であることにはかわりないし、「インフラ」「交通」「商業施設」「教育」なんかも大事なんだとは思うけど、それは、都市的な考え方であり、経済優先な気がしなくもない。人間の幸せがほんとはどこにあるのか、もっと素直になれればいいなあと思う。

昨年、占いで自分のことを見てもらったら、昨年秋から10年間は、放浪する期間だそう。どこにも定住できないままに、しばらくは、日本各地をふらふらする人生が続きそうです。

   
   
   
   
  ●<はぎわら・しゅう>デザインディレクター。つくし文具店店主。1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。大日本印刷、リビングデザインセンターOZONEを経て独立。プロダクト、店舗、展覧会、書籍などの企画、プロデュースをてがける。著書に「9坪の家」「デザインスタンス」「コドモのどうぐばこ」などがある。
   
 
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