連載
  杉で仕掛ける/第21回 「杉馬鹿日誌」 あるプレゼンの話
文/写真  海野洋光
   
 

いやはや、杉馬鹿も此処まで来れば、本物!海杉が、仕事もせず、無い頭を絞ってパソコンに向かって書いたプレゼン原稿です。今回、「杉で仕掛ける21」で公開します。

事の発端は、海野建設活カに宮崎県から送られた5月11日付けの書類。「森林整備加速化・林業再生事業」別名「緑の産業再生プロジェクト」。林野庁から出された補助事業が出たそうだ。普段なら、そのまま、ゴミ箱行き。でも、何気なく読んでみると…。
「すごい」

この何処がすごいかと言うと総額1238億円をつけるという壮大な事業だ。この数字で電卓を叩いた。
「1238割る47で26かあ」
「なに!!3年間で26億円!!」

次に目に飛び込んだのが
「補助率10分の10」「定額」
【地域材利用開発支援】と言う項目には、確かに「定額」と書いてある。
「うそだろ!」
全部、国が出してくれるの??
条件は、県内に設置される協議会にはいることらしい。
締め切りは5月20日だ。早速、申し込んだ。

5月27日の補助金の説明会には、100人以上の申込者が、他の部会では、もっと来ていたらしい。流石に1238億円の威力はすごい!!

しかし、そう、物事は単純ではない、まず、6月5日までに様式は簡単ではあるが、「地域材利用開発支援事業計画書」なるものを提出しなければならない。
ここで、私の友人であるY君は、3000万円の計画書を出したそうだ。「1年で1000万円、3年だと3000万円ですわ」確かに計算であれば、3000万円だが…。彼の純粋なところは、「これで、南雲さんや若杉さんを宮崎に呼ぶんですよ!!」といううれしい計画だった…。
昨年の海杉だったら、間違いなく海杉が提出していた企画だ。しかし、海杉には、海杉の計画がある。今年の海杉は違う。

実際に部会に申し込んだのは、19件。以外に少ないと思ったが、説明会でもらった条件を読んでみるとやはり、そこには、厳しい条件があった。
建築部材に限っていて、開発を支援する条件が細かく記されていた。そして、6月26日までに『森林整備加速化・林業再生事業(地域材利用開発支援)提案書』なるものを提出する必要がある。

また、Y君に電話を入れると「南雲さんに野地板で家具をデザインしてもらうように計画するんですわ!」
おいおい。野地板で家具は無いだろう。確かコイツは、自分の製材からでる「野地板が大量に売れない」と嘆いていたよなあ。
相変わらず3000万円に変更はなしだ。強気のYは、この業界では有名人だから…。
海杉は、1395万円絞りに絞った金額だ。練りに練った見積だ。

6月19日から21日まで大阪研修だったので、何も書かずにいたが、流石にあと5日間だと慌てなければ、書けない。提案書の締め切りは、6月26日だ。そして、プレゼンは、6月30日。何度も何度も書き直し、ふっと見積の項目を見ると「人件費の項目が…」前回の許可されている経費には無い項目が計上されている。これは…。
また、見積のやり直しだ。

膨れに膨れ、1900万円になってしまった。こんなに事業費が、掛かっては…。もう一度絞るだけ、絞ってみよう。更に見積を精査した。削れるところや代用品でできるところを見て、経験者にアドバイスをもらった。「試験の回数は減らせない。認定試験なら64万円だが、簡易試験であれば、10万円で済む」と言う助言は、助かった。何とか、1730万円まで落とせた。

時計を見ると24日の夜中だ。
25日にY君に電話を掛けてみた。「どうだ?」
「海野さん!実は、あきらめようかと思うんです」
「書いていないのか?」
「はい」
いつも元気なY君の声ではない。でも、時間は24時間しかない。
「分かった。書くよ」また、安請け合いをしてしまった。

しかし、締め切りの26日になっても、Y君から連絡が無い。
Y君に電話をした。
「本当に書いてくれるんですか?」
「いいよ。でも、下書きがないと幾ら、創造力豊かな海杉でも…」

前回提出した「地域材利用開発支援事業計画書」をFAXがきた。汚い字で殴り書きの計画書だ。
とにかく、3000万円の事業計画書だから、それなりに根拠が無ければ!!今は、インターネットがあるから、文献や根拠となる試算は、ある程度できる。Y君がプレゼンで「野地板を…」では、審査委員に見透かされる。「背板にして…」「3000万円根拠は…」とにかく26日に間に合わせるのだ。

間に合わない。見積・工程表などだ。「仕方が無い。捺印をして表紙だけでも…」最悪のケースだが…。3000万円の見積が、そう、簡単にできるわけが無い。

どうにか提出できた。
Y君は、日向にいるらしい。
「海野さんには、悪かったんですが、今日は、ゴルフでした。」
なんともバツの悪そうな小声で…。福岡のひよこ饅頭を差し出した。
2軒ほど飲み屋に行って、最後の別れ際に「プレゼンは、自分でしろよ」と言ってやった。
舌を出しながら、笑ったY君は、コンビニに行った。

2,3日で5000万円近い事業計画を書いたのは、初めての経験だったが、プレゼン用の原稿は、まだ、書いていない。
結局、悶々として、この原稿ができたのは、30日の朝だった。
緊張のプレゼンが、始まった。

   
 
   
 

国産木製屋根材 「大和葺き」

   
  ●開発体制―建設会社?
  おはようございます。海野建設株式会社の海野と言います。よろしくお願いします。当社は、建設会社です。長年、木材製品を細々とですが、開発、販売している会社でもあります。今、大径杉材を利用した日本古来の杉屋根材を開発販売したいと考えております。
当社の木製品のひとつが、お手元の「木製横断溝」【資料1】(木製横断溝)です。当社が実用新案登録をした13年前に製品開発されたものです。森林公団、現・森林総研さまはもとより広く県外にも販売しております。宮崎県の歩掛りにも採用され、年間600セット、年間の木材使用量は、4m3寸角1200本で約40立方ほどですが、林業関係者には大変喜ばれ、口コミでコンスタントに売れている商品でもあります。
当社では、そのほかにも木材製品を販売していますが、昨年から販売を開始した木製鳥居【資料2】(木製鳥居記事)は、大変好評で月の売り上げは、100万円前後で推移し、年間1200万円の売り上げを目標にしています。従来、木材をインターネットで販売することは難しいと言われていますが、弊社の独自のノウハウで販売実績を伸ばしています。
最近は、古材にも力を入れ販売ルートも全国チェーン「古材倉庫」にFC加盟することによって全国120店舗(関連店舗を入れると200店舗)【資料7】で展開できるようになっています。さらに当社独自の戦略として文化財・建築文化保護の関連事業を【資料3】(飯田邸新聞記事)新しい形の建築事業として力を入れているところです。
   
  ●新規性と独創性―新しい商品か?話題となる商品か?
  今回、弊社が開発する製品を木製の屋根材「大和葺き」と名づけました。従来ありそうで、無かった建材です。正しくは、古来より存在していましたが、近年になって使われなくなった建材でもあります。製品化すれば、国産としては、日本初でさまざま様式を取り入れることによってオーダーメイドの受注生産が考えられますし、話題にもなる製品だと思います。基本的には、無処理の製品をベーシック製品と呼び、耐久性を求めた屋根材をスタンダード製品とします。化学的に不燃処理【資料4】(準不燃処理)をして全ての防火指定地区で法規的にクリア【資料5】(飛び火試験ほか)できるオールマイティ製品と呼んで、製品開発を目指そうと考えています。このラインナップが揃えば、日本の住宅分野の新しいファサードが実現するでしょう。
洋風建築では、最近、ベイ杉やウエスタンレッドシーダーなどを使用した製品がありますが、【資料6】他社カタログこのような製品に対抗するための開発が、国産材の製品開発には、必要であると考えます。
   
  ●貢献性と波及性―地域産業のためになるのか?
  木材と言う素材を環境問題の中で重要な位置づけをしなければならないと考えています。「大和葺き」の販売によって国産材の抱える問題を消費者に理解を得ることができれば、木製の屋根材の需要を見込むことができ、地域産業の発展に貢献することができると確信しております。弊社が木製の屋根材「大和葺き」開発販売には、4つの目的を掲げています。
   
 
  1.大径木材の問題解決に向けて―(未来の林業問題の解決方法)
 
    これからの林業界・木材界の問題となる大径木材の使用法方法の解決の糸口になるのではと考えたからです。大径木材の問題は、宮崎県が抱える未来の問題ではありますが、この木製の屋根材「大和葺き」が新しい建材として需要が広がることが実証できると別の製品等にも応用でき、モデルケースとして林業・木材界に貢献できるはずです。
   
  2.古民家住宅の建材として使用したい―(リノベーションのアイテムとして)
 
    寺社仏閣や公共建築物の保存活動は盛んですが、どうしても民間住宅の建築に関しては、遅れている実情があります。しかし、「リノベーション」と呼ばれる再活用の手法が人気となり、そのアイテムの充実が、求められていると言う点に注目しました。そのようなニーズにも屋根材「大和葺き」は応えられます。
   
  3.国産材の商品化として
  先行する製品が、外材をベースとしかなく。【資料6】(カタログ)国産材は、商品開発が、遅れています。マーケットとして十分に成り立つと考えます。
   
  4.木材販売の最大にネックは、物流を解決できる商品開発をしたい
 
    この製品の発想のきっかけは、屋久杉の歴史を知った時です。屋久島の島民は薩摩藩に年貢として主に「平木」を納め、またそれ以外の様々な産物も平木に換算して石高が計算され、いわば「平木本位制」ともいうべき経済統制がおこなわれていたとのことです。巨大な屋久杉を伐採現場で細かくした薄い平木ならば、どんなに巨大杉でも、人手で運べ、かつ、屋根板として大変重宝がられた製品だったと言うことを物語っています。この「大和葺き」は、物流の問題を一気に片付けてくれる製品だと考えています。
   
  ●優位性と実用性―独占で売れるのか?ニーズがあるか?
  今回、ホームページなどで実験結果や状況をタイムリーに伝え、PR効果を高める手法を考えています。商品を性能別に3タイプに分け、開発時間をずらしたタイムスケジュールを組んでみました。ベーシック、スタンダード、オールマイティと名づけた製品ランクにより、製品販売により現実味が出ていると思います。
全てのラインナップが揃うことにより、提案型製品販売は、少量取引でも、十分採算が取れると試算します。また、インターネットのほか、製品販売を全国展開している古材倉庫120店舗で行うことで、優位性は、十分保つことができます。
   
  ●成長性と可能性――売れるのか?普及するのか?
  弊社は、爆発的な売り上げを期待した商品開発をするのではなく、地道な販路開拓と設計や施工に選択の幅を持たせることのできる付加価値を付けた製品開発が、安定的に成長できる商品となると考えています。新しい施工マニュアルの開発【資料8】(他社マニュアル)などでも付加価値を付けます。これならば、ニッチな製品であるため、大手が進出しにくい製品であり、消費地から遠くはなれた生産地でも売れる要素のある製品に育てることが弊社の役割であると考えております。
   
  ●経費の妥当性――1700万円?
  今回の予算ですが、当初、10分の10と言う画期的な予算であったので、1000万円以下で納めることができれば、と考えていました。しかし、概算ですが、見積もりを積み上げた結果このような金額となりました。開発費【資料9】(試験費用)もありますが、広告宣伝費としてインターネットでの市場の試みや施工マニュアルの開発などさまざまなソフトの面での費用も考えた結果であることをご了解していただきたいと思います。
   
  以上で弊社の「大和葺き」のプレゼンを終わらせていただきます。
   
  ご静聴ありがとうございました。(きっかり10分)
   
   
  USJの建物の屋根   法隆寺の大和葺き
   
 
   
  終わった。
   
  Y君は、堂々と「このプロジェクトは、人への投資と考えてください」と大見得を切ったそうだ。
   
   
   
   
  ●<うみの・ひろみつ>木材コンシェルジュ
ほぼ、毎日更新しています。ブログ「海杉 木材コンシェルジュ」 http://blog.goo.ne.jp/umisugi/
2009年3月31日をもって、日向木の芽会 を卒業しました。
海野建設株式会社 代表取締役 / HN :海杉
   
 
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