連載
  平泉まちてらすプロジェクト 「夢あかり+」その2
文/写真 ・ 南雲勝志
  いま地域が生き残るために・・・
 
先月号から続く。
8月16日午後『夢灯り+』当日、うだるような真夏の日差しのなか。準備会場の観自在王院跡に行くと地元の実行委員の皆さんはすでに揃っていた。東北大初め学生達も混じっている。


 
  


地元チームはその日に向け、当日までの作業項目、役割分担など細かな準備を進めてきた。日にちのない中で相談し、様々な検討項目を決定していった。次々と行き交うメールはccで送られてきたが、日増しに結束が強まっていく様子を感じた。その課程で10人程度のコアーメンバーに賛同して仲間がどんどん増えていく。最終的には80人を越えるボランティアスタッフが手伝ってくれることになった。そこには婦人会や青年会、GSメンバーはじめ、岩手県や平泉町の職員も含まれている。
蓋を開けてみると、目標2000個の夢灯りは予想に反して増え続け、誰も総数がわからないほどになった。「恐らくは3000個近くはいっている、いや、越えている。とにかく並べて見ないとはっきりわからないよ〜。」そんな会話が交わされていた。事前に何処の会場は何個と数を想定していたため、余ったものをどうするか? そんな議論もいったんは出たが、取りあえず並べてから考えようと言うことになり、分担して各会場(観自在王院跡、毛越寺横ポケットパーク、平泉文化遺産センター、それらを結ぶ歩道)に配置を開始した。並べ方はまず瓶を置き、決まったらそこに紙パックを差し込む。そして最後に瓶にろうそくを入れ、時間が来たら点灯するという3段階のプロセスである。
今まで実感が湧かなかった、2〜3000個という数字が現物を見ると相当な量であることを改めて実感しながら目測で配置を始める。まだ火は灯っていないが、白い紙パックが連続するだけでそれはそれでとてもきれいだ。特に芝生の中では昼間でも白く輝いている。並べても並べても次々と「また追加で届きました〜!」という声が聞こえる。それに応じてまた淡々と並べていく。まさに嬉しい悲鳴である。


 
 
  毛越寺通りの準備   平泉の文字を形取った配列も。


5時頃にはほぼ配置が終了した。
6時半に点灯式であるが、一斉点灯は無理なので6時頃から徐々に点灯を始めた。今度は紙パックが温暖色に色付き、命を持ち始め息づき始めたように見える。観自在王院の広大な芝生のキャンパスに小さな光る点が輝き始めた。
美しい、何か心洗われるような美しさだ。

そして、あたりが薄暮から徐々に闇に包まれていく中で灯りと風景の情景は次々と変わっていく。それは今まで見慣れている日常の平泉の風景とは明らかに違う。

 
  観自在王院の配置。
 
  何か本当に浄土の灯りのようだ。
 
  毛越寺横のポケットパークの配置。
 

この美しさは実は灯りの力だけではない。
様々な 紙パックの表面の印刷部を丹念に歯がした後、思い思いに光のスリットを切り抜く。その丁寧に切り抜かれた模様を改めてじっくり見ると、どれもそれぞれつくった人の想いを感じる。
一個つくるのにいったいどれくらいの時間が掛かったのだろう? そして延べ何人がそのために参加したのだろう? それが3000個もある。それが美しさに表れているのだ。

 
  紙パックは思い思いの形や文字が切り抜かれている。
  歩道の灯りは約650mの区間に2列びっしりと並べられていた。この最も艱難な配置の作業は学生達がやってくれた。若さと体力はやっぱり頼もしい。そこをゆっくり、ゆっくり歩きながら平泉文化遺産センターに向かう。
 
  文化遺産センターに向かう歩道。
  会場に着くとすでに毛越寺の和尚さん、破石晋照氏による法話が始まっていた。 平泉に於ける藤原氏の浄土思想は現在のまちにもそのまま通じるものである旨を話されていた。続けて「皆さんのつくられた灯りは美しい、一つ一つは小さいけど、それが繋がることでこんなに素晴らしい空間が出来る。人の繋がりもまちづくりも同じ事が言えると思います。我々も協力しますのでこれからもぜひ継続して下さい。」と言っていただいたのである。

『まちてらすプロジェクト』ーまちと寺のさらなる連携ー はどうやら上手く行きそうである。 
 
  破石晋照氏による法話。背後の文化遺産センターの壁にはうっすらと蓮の映像が映し出された。
 
  遺産センター横の広場に並べられた夢灯りと暗闇に浮かび上がった大文字焼
 

20時には束稲山に大文字焼きが点火された。そしてふたつの灯りが同じ軸線で繋がった。続いて打ち上げ花火が上がり、いよいよフィナーレを迎えた。

とぼとぼと坂を下り、再び観自在王院跡まで戻ってくると、夢灯り以外は闇の中だった。
エンディングに相応しい、静かな灯りであった。

 
  闇に包まれた観自在王院跡
 
 

準備は楽しいが、後始末は大変である。片付けは遅くまで掛かったが、最後は参加したみんなで集まって美酒に浸った。

『夢灯り+』は素晴らしかった。そして美しかった。たった10人ほどで始めた企画が共感者を呼び、次第に盛り上がった。企画を知らなかった沿道の市民からも「来年は参加させて下さい」と声も掛けられたという。そして何より地元の皆さんが「良かった、本当に綺麗だった。また来年に向けて頑張ろう!」という言葉の中に、まちてらすプロジェクトの最初の一歩、『夢灯り+』の成功を感じることが出来た。
小さくも確実な進歩があった。お金を掛けなくとも、大きな規模でなくとも感動を生む事は可能なのだ。それは誰のためでもなく、自分たちの未来のために一生懸命やろうという地元の意志と、その思いに共感した多くの人びとの協力から生まれるものなのだろう。しかし、それを実現する事は、実はそんなに簡単な事ではない事もまた事実である。

『夢灯り+』の美しさはとても写真ではうまく伝えられない。幸い来年も8月16日に行う事が決定している。一度見たい方、参加したい方はぜひ平泉へ。

   
※平泉に興味のある方は平泉町公式ホームページをご覧下さい。
 
   
   
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
 
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