連載  
  あきた杉歳時記/第37回 「卒業制作」
文/写真 菅原香織
  すぎっち@秋田支部長から、旬の秋田の杉直(さんちょく)だよりをお届けします ・・・・
 
3月は別れと旅立ちの季節。卒業できたことの達成感と別れの寂しさ、新しい環境への期待と不安、いろんな気持ちを抱えながら、今年もたくさんの学生が学び舎を巣立っていきます。私が勤めている秋田公立美術工芸短大では、これまでに13回卒業生を送り出してきましたが、今回の第14回卒業生は、私が公共デザイン分野を立ち上げてから初めて卒業制作指導を受け持った3人の学生がいるので、感慨もひとしおです。血と汗と涙の結晶(!)の卒業制作展は、3月10日から14日まで秋田市アトリオンを会場に開催されますので、お近くの方にはぜひご覧いただければと思いますが、なかなか秋田までいらっしゃれない方も多いと思いますので、今月のあきた杉歳時記では3人の学生のうち、「杉」を活用したポケットパークの空間デザインを提案した学生の卒業制作プレゼンテーションを紹介させていただくことにしました。月刊杉の読者の皆様からご意見・ご感想、アドバイス等いただければ幸いです。
以下、学生にバトンタッチ!
   
 
   
  「秋田を感じ、触れられる空間づくり」
   
 
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 公共デザイン分野
 
相場千尋
   
  広小路は秋田駅から山王大通りや通町に向かう時の秋田の第一印象を与える場所です。また昭和62年には建設省により「日本の道100選」にも選定されています。
前期に授業や秋田市内の文化財マップづくりWSに参加し、広小路、千秋公園を実際に訪れ、歴史、現在の状況を知りました。
  広小路に面する千秋公園は、秋田の殿様・佐竹義宣の城、久保田城があった所で、明治29年、長岡安平の設計により近代的な城跡公園として整備されました。また城の周りを巡っていた外堀はほとんどが埋め立てられ、現在残っているのは穴門と大手門の堀だけとなっています。
  現地調査の結果、外堀周辺の公共空間には、中土橋西側に広小路に面した空き地、赤い柱のアーケード、日陰・緑陰の少なさ、統一感のない柵、街灯などのストリートファニチャー、地面の舗装などの問題があげられました。
   
 
  画面右手方向に秋田駅。お堀の左側が穴門、右が大手門。
 
  広小路はJR秋田駅西口からのびる秋田のメインストリート。   空き店舗や空き地が目立つ、広小路商店街。
   
  H19年の国体に合わせて塗り替えた柱。   お堀に面した歩道。柳の街路樹はあるが本数が少ない。
 
  さまざまな素材が使われている柵や舗装材。
 
  統一感のない街灯のデザイン
   
  そこで「秋田杉、秋田蕗、竿燈」をキーワードに、外堀周辺を「外堀」という歴史的遺構をもっと身近に感じ、秋田市の歴史、文化、風土に触れられる空間にするために、外堀周辺の素材・色彩のコントロール、中土橋西側にある空き地のデザイン、ストリートファニチャーのデザインの3点を中心にデザイン提案を行いました。
まず素材は秋田杉を使用します。秋田杉は中世からの全国ブランドで、林業は秋田藩財政を支える主要産業だったという歴史的背景を持っているということと、秋田市では秋田杉街並みづくりを推進していることから、ストリートファニチャーや街路への使用を考えました。色彩は、グレイッシュトーンをファニチャーの保護塗装や素材に使用します。落ち着いた色の使用により経年変化しても外堀周辺の景観を壊さないことを配慮しました。
   
   
  秋田杉の可能性はまだまだこれから。   秋田杉で修景された秋田駅前のバス停。
   
   
  ●プラン
   
  下の図は中土橋西側にある空き地のデザインを行った、千秋公園穴門ポケットパークの平面プランです。場所は右の地図の赤丸で囲った部分。千秋公園穴門ポケットパークという名称にしたかというと、地図の右手が大手門の堀、左手が穴門の堀で、穴門の方に作られるポケットパークだからです。
   
 
  千秋公園穴門ポケットパークの平面プラン。
 
  赤丸部分が提案場所。
   
   
  それでは提案の詳細を紹介します。
   
  ●イベント会場
   
  1.ステージ
  イベント会場として1つ目はステージです。ステージは佐竹家の家紋をモチーフにした扇型の形状で、イベント時に利用できます。
 
  イベント時に利用するステージ。
   
  2.デッキ
  2つ目はデッキです。デッキはお堀を見渡せるよう現在の地形より張り出した形状になっています。
 
  お堀を見渡せるデッキ。
   
  3.ボート乗り場
  3つ目はボート乗り場です。ボート乗り場は2008年10月に行った千秋湖畔祭りで貸しボートを行った際、好評であったため、常に行えるよう常設として設置しました。
 
  ボート乗り場は常設。
   
  4.トイレ
  4つ目はトイレです。トイレは写真手前から、男性用、女性用、多目的トイレになっていて、千秋公園内にトイレはありますが、その周辺にはなく、イベントを開催した際の必要性を感じ設置しました。
 
  トイレ
   
   
  ●休憩スペース
   
 

5.ベンチ(緑陰の下)

  休憩スペースとして1つ目は緑陰の下にベンチの設置です。このベンチは秋田蕗をモチーフにした形状で、秋田杉を使用しています。
 
  緑陰の下のベンチ
   
  6.ベンチ(ステージ裏)
  2つ目はステージ裏になります。ステージ裏には通路があり、パーゴラになっています。柱をはさみ、外側と内側にベンチがあり座ることができます。
 
  ステージ裏のベンチ
   
  7.掲示板
  情報の提供地として掲示板の設置をしました。この掲示板には身近に歴史、文化を知れる場所、ねぶり流し館や佐竹史料館等の場所を掲載したマップ、秋田杉や秋田蕗の紹介ポスターの掲示、またイベントお知らせのポスター等を貼ることができます。
 
  掲示板の設置
   
   
  ●ストリートファニチャー・街路
   
  7.柵
  ストリートファニチャー・街路では1つ目に柵のデザインをしました。この柵はポケットパーク内と堀の周りを囲っています。手すり部分には杉を使用しています。
 
 
   
  8.街灯
  2つ目は街灯です。街灯は竿燈をモチーフにしています。右側は竹竿から提灯が下がっているイメージです。光源部分のデザインをポケットパーク内と広小路で統一しました。
   
  街灯
   
  9.柵(広小路側)
  広小路側の柵・街路樹では、車道側の柵は寄りかかれる形状になっています。また柳の木を増やし、緑陰を作りました。
 
  広小路側の柵
   
  10.舗装
  舗装では、歩道は車道に似た色合いのゴムチップ舗装材を使用し、ポケットパーク内は杉の間伐材を使った透水性のある舗装材の使用を考えました。
 
  舗装
   
   
  ●全体
   
 
  千秋公園穴門ポケットパークの1/50模型
 
  実際の現場に模型を合成してみた。
   
   
  以上の提案により、「秋田を感じ、触れられる空間づくり」が実現できればと思います。
(h22.2.4卒業制作プレゼンテーションより抜粋)
   
 
   
   
   
   
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 勤務 http://www.amcac.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
『あきた杉歳時記』web単行本 http://www.m-sugi.com/books/books_sugicchi.htm
   
 
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