連載
 

いろいろな樹木とその利用/第22回 「リョウブ」

文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 
北海道から九州まで分布し、尾根などの日当たりの良い山地に生え、非常によく見かけるのですが、大きくならないため業界あまり有名ではない樹木です。樹皮に特徴があり一度わかれば見分けやすいのですが、よく似た樹皮が他にもあるので注意が必要です。
第22回目はリョウブです。
   
 
   
 
  樹皮が似ているシリーズ リョウブ   ナツツバキ
   
  サルスベリ   プラタナス
   
  ある程度生長してくると樹皮が鱗片状に剥がれてくるタイプの樹木があります。前回紹介したエノキケヤキもそうですが、もっと小さく細いうちからそういった特徴を持つ樹木があります。リョウブもそのうちの一つで、他にはサルスベリやナツツバキも似ていますし、プラタナスなども色は違いますが同じように剥がれる樹皮をしています。
そんなリョウブですが、どのように使われてきたのでしょうか。
   
   
  ●救荒植物
  さて、かつての日本では飢饉がしばしばありました。飢饉は天候不順で温度が低かったり、降雨が無かったり、あるいは火山の噴火によるものなどの自然現象により度々発生しました。飢饉時には、食べるものが極端に少なくなってしまうため、来年播くための籾を食べてしまったりひどい場合には餓死したりすることもありました。
そのような飢饉の際に食べるものが救荒植物です。飢饉の時に食べるのですがリョウブは普段も食用としていたようです。保存する場合、若葉を蒸した後乾かして貯蔵しておきます。貯蔵せずすぐ食する場合は若芽をゆでてあく出しをしてからおひたし、和え物、炒め物、味噌汁の実などに使い、有名なリョウブ飯(木曽御岳の行者の食料)として若芽をご飯と一緒に炊いて食べますが、残念ながら私はまだ食べたことはありません。
古書では次のように記載されています。
   
 
  〔和漢三才図会〕 嫩葉(若葉)を摘み食又は飯に和す又は豆醤に和す、味甘し、よく瀉痢を治し脾胃を補ふ。
  〔農政全書〕 葉甚だ稠密、味苦く茶に作りて煮飲す。
  〔大和本草〕 救荒本草に載せたり、凶年に飢民葉をとり蒸して食す、貧民は平時も煮て飯の上にをきて蒸して飯に交ぜて食す、味よし。
  〔皇方物産志〕 カタツマリ民家葉をとり細に刻み飯上に蒸し飯にまぜて食す、味は蕨の如し。
   
  味については、甘い、苦い、よい、蕨のよう、などと形容されていますが、イメージできますか?
   
   
  ●材の利用
材を取れるような大きな木になりませんが、材が硬いので石割用玄翁の柄や杵の柄にしたり、かさの柄にしたりしました。
ほかには、美しい樹皮を活かして床柱につかったり、ほうきにしたりしていました。カンジキの輪に利用した地域もあります。穀物(豆類)を収穫した後に殻と実に分けるときに叩く棒にも利用しました。
また、木炭材料としては低木の雑木を焼いた中では最良のものとされており、茶道の炭に賞用していたといいます。
 
  晩秋のリョウブ 平成21年11月1日撮影
   
   
  ●花と実
  リョウブの花は、夏の花です。真夏の頃、真っ白な花を咲かせていますが、この時期山に人があまりいないので目立たないかも知れません。枝の先端に白い穂状花序をつけ、ほのかに香りがします。
春先に咲くウワミズザクラをひと回り大きくしたような形をしていますが、大きさが違うのですぐわかります。しかし早春の頃、前年度の果実をつけたまま冬を越したリョウブを見て、ウワミズザクラやヤマウルシと間違える人もいるので、そういう場合は樹皮を見て判断してください。
   
  リョウブの花 平成20年8月18日撮影
 
  リョウブの果実 平成21年11月1日撮影
   
   
  ●語源と方言
  樹木を覚え始めたころは方言名などには興味がなかったのですが、今は、方言名こそ重要な情報が詰まっており、方言名を良く知ることが必要だと思っています。
ハタツモリ、サルナメシ、サルナメ、サンナメシ、サンダメシ、サダメシ、サタメシ、サタメシバ、サダメシバ、サダムシ、サルダメシ、サルタ、サルタラムシ、サルスベリ、サルバ、サルボウ、サルハギ、リョウボ、リョウボウ、リュウゴウ、リュウボノキ、リョウブナ、リョウバ、ブリョウ、ブリョ、ボウリョウ、ミヤマボウリョウ、ギョウボ、ギョウブ、ギョウブナ、ビョウブ、ビョウバ、ビョウナ、ビョウブナ、ビョウブザル、ジョウブ、ジョウボ、ジョウブノキ、ロウボウ、ロンボ、ハタツマリ、タツモリ、カタツマリ、ウマツツジ、ユキフジ、アズハダ、サワグリ、サナグリ、ホウキシバ、ナツキ、オサカジョ、ネヅリシバ、ウラザクラ、シロバ、モチバナノキ、ウシノクソ、オオバリョウブ、フクラシバ、ハダカノキ、レンボ、ウボタ、ハナバノキ、サンタラムシ、
(樹木大図鑑Vから一部引用)
古歌にハタツモリとあるのはリョウブのことです。漢字で畠賦、畑守などと書いています。糧賦という記載もあるようで、これはそのままリョウブと読めるのですが、語源かどうかは不明です。
さて、リョウブは令法(リョウボウ)から来ているとされております。これは、飢饉に備え植栽するようお上がお触れを出したから(律令:法令を出した)との説がよく本にも書いてあります。わたしも以前はその説を受け入れていましたが、よくよく考えてみるとリョウブをわざわざ植えたというのが解せません。リョウブは全国的に生育しておりますので植えずとも、山野にはたくさん生えております。実際には「飢饉に備えて、リョウブの葉を乾燥して貯蔵して置くように」というお触れが出されたといったところではないでしょうか?
   
   
  【標準和名:リョウブ 学名:Clethra barbinervis Sieb. et Zucc.(リョウブ科リョウブ属)】
   
   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
『いろいろな樹木とその利用』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_iwai.htm
   
 
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