特集 秋田「杉恋」プロジェクト  
  「杉恋SUGIKOI」プロジェクト スタートします 
文/ 菅原香織
   
 
 
  ●9年越しの片想い 
   
   林業関係者でも木材の専門家でもない私が、日本全国スギダラケ倶楽部に入会したきっかけは、2003年9月に、あるプロダクトデザインの展覧会の会場に展示されていた作品です。その名は「すぎっちょん」。杉の無垢材を大胆に使い、どことなくユーモラスな表情の「すぎっちょん」に私は一目惚れしてしまいました。そしてこんなデザインをする人は誰?と展示パネルを見ると「南雲勝志」という名前がありました。そう、スギダラの親分、南雲さんです!展示パネルには、日向での杉を活かしたまちづくりのことが紹介されていました。地域の特産材である杉を活用したまちづくりに携わるデザイナーがいる、ということに驚きと、秋田でも日向のように杉を活かしたまちづくりができないだろうか、いつか、南雲さんに秋田に来てもらいたいなあ、という気持ちを抱いたのでした。
 
  これがかの、「すぎっちょん」   きりたんぽを食べるためわざわざつくった「すぎっちん」。
   
   2004年6月、ある掲示板に「スギダラ」という文字を見つけ、たどり着いたのがスギダラのホームページ。迷うことなく会員登録をすると、ほどなく会員ナンバー47番のスギダラ会員証が送られてきました。それまで、秋田で杉を活かしたまちづくり活動をしてきた二ツ井の加藤さんとともに、2005年10月には秋田杉ツアーを実施、これを機会にスギダラ秋田支部を設立しました。2005年12月の月刊杉へ寄稿、秋田支部のブログ「北のスギダラ」開設、2006年1月からあきた杉歳時記の連載がはじまりました。その年の8月に能代サンピノ祭りでは、スギダラ本部からの協力を得てスギダラファニチャーによる杉のオープンカフェプロジェクトを実施。(月刊杉14号あきた杉歳時記参照)
 
  スギダラファニチャーによるオープンカフェが秋田初上陸!千代田さんと若杉さんには大変お世話になりました。
   
   2007年2月には、スギダラ本部と株式会社内田洋行のご協力のもと、当時の本社ビルのロビーをお借りして「白神山麓・窓山デザインコンテスト」(月刊web杉20号参照)の審査会を開催。木材活用部門とランドスケープ部門を募集し、5月に二ツ井の窓山で表彰式と田植えを実施できました。2008年10月には、白神山麓・窓山デザインコンテストで内田洋行賞を獲得した「おこぜまつり」を実施するワークショップと窓山の再生を考える「窓山再生デザイン会議&ワークショップ」(月刊web杉39号参照)開催。世界自然遺産白神山地の麓にある窓山集落の再生とデザインについて、篠原修先生の基調講演と活発なディスカッションが行われました。
   
  オープンエアーな会場で開催された、窓山再生デザイン会議での基調講演とパネルディスカッション。
   
   2010年にはスギダラトーキョー支部の「ユイス展」を秋田で開催。この間、各地のスギダラ活動にも出来る限り参加しました。中でも杉コレクションは2008年から毎年参加し、宮崎のみなさんの杉に対する熱い思いに触れるたび、秋田でも杉を活かしたまちづくりプロジェクトを立ち上げたい、という思いがどんどん強くなっていきましたが、なかなかその思いを形にすることが出来ず、時だけが過ぎていきました。
   
   
  ●新幹線と杉玉
   
   そして2011年3月11日。東日本大震災によって、たくさんの人の命が、まちが、ふるさとが失われました。秋田は同じ東北でも地震と津波による被害は殆ど無かったものの、停電や断水、交通網が不通となり、物資の流通が途絶え、当たり前のようにすごしていた日常が、如何に大切かを思い知らされました。
   
   2011年4月29日、復旧した秋田新幹線の東京からの一番列車に「おかえりなさい」と列車に向かって笑顔で手をふろう、というプロジェクトが実施されます。その発端になったのは3月12日開業を予定していたJR九州新幹線の祝開業のCM。九州新幹線の沿線に開業をお祝いする人たちの姿が軽快な音楽に乗って車窓からの映像が流れるもので、新幹線を迎える人々の笑顔を見ているだけでも元気になるCMでしたが、全国放送されることはなく、お蔵入りに。その後WEBで公開されていたものを秋田県職員の泉谷さんが見つけてツイッターでつぶやいたことから「おかえりなさい さくらこまち115」のプロジェクトが実現しました。私も秋田駅前駐車場から娘と一緒に手を振って(これで九州と秋田まで新幹線で繋がった!)と、九州との距離が縮まったような気がしました。
   
   そして11月、杉コレin日向に参加。審査委員のお1人であるJR九州の津高さんに1年ぶりに再会。津高さんは、2009年の日南飫肥杉大作戦で行った杉玉作りワークショップの際、杉玉作りに参加して海幸山幸号に杉玉を飾ったり、その後も日南線の沿線の駅舎に杉玉を飾ったり、2010年の杉コレin西都でも杉玉ワークショップに参加されるなど、「杉玉伝道師」として大活躍されているスギダラメンバーです。
   
  荒川さん(左)と津高さんと、日南杉コレ会場にて。   海幸山幸号と飫肥杉のベンチ
   
   杉玉が取り持つご縁でいつか秋田に来ていただいて、日向市駅や海幸山幸号の話をしていただきたいなあと思っていました。そのときふと、ひらめいたんです。平成24年3月には秋田新幹線こまちの開業15周年を迎える。秋田県が平成25年のJRグループによるデスティネーションキャンペーンの対象県に決まったし、平成26年には国民文化祭の開催県になっている!秋田県も秋田市も観光によるまちづくりに力を入れて、イメージアップを図ろうとしている。秋田駅周辺の魅力創出のためのにぎわいづくりやおもてなし空間の整備も課題になっている。(そうだ!平成24年こそ、何かを始めるチャンスかも!)早速、津高さんにご都合を伺い、秋田に帰ってから、以前海幸山幸号に関心をお持ちでいらっしゃった秋田地域振興局森づくり推進課の泉山さんにご相談して、秋田地域振興局主催による「秋田駅周辺魅力創出研修会」を開催する手筈を整えていただきました。
   
   
  ●本気を見せろ!
   
   さらに構想(妄想?)は膨らみ、研修会をキックオフとして秋田杉を活かしたまちづくりプロジェクトをスタートさせたい、と秋田に帰ってから早速南雲さんに構想の相談をしました。
  「南雲さん、1月18日、秋田に来ていただけませんか?」私はすぐに「いいよ!」といってもらえるものと思い込んでいたら「うーん、秋田にはいけないなあ。」と。(えっ!?)
  「実は、最近いろいろなところからオファーがあって日程が合わないかも。」(がーんっ!!!!!)「それに、ほかのところは杉を活かしたい、って思いや熱意がものすごく感じられるけど、秋田からはあまり感じられないんだよね」(orz)
   
   確かに秋田県人は全般的に恥ずかしがり屋で自分の思いを人に伝えるのが下手です。時として謙遜しすぎるぐらい謙遜して、九州人のような暑苦しいくらいの積極性は感じられないかもしれません。でも口に出さないだけで、本当は思っているのです。本気で好きです。心から愛しています。杉を。ふるさと秋田を。
   
   日本一のスギダラ王国秋田の誇り、日本三大美林の「秋田杉」を厄介者扱いするのでなく、ちゃんと、次の世代に財産として引き継ぎたい、何とかしたい!思っているのです。きっかけさえあれば、ほとばしる情熱を、本気度を分かってもらえるはず。そこで、1月18日の研修会に向けて、年末ぎりぎりまで企画書を何度も練り直し、南雲さんを通じて審査委員の先生方へ打診して頂き、5月26日に秋田で開催する「秋田杉景観デザインコンペ&景観デザインセミナー」へのご協力を内諾して頂きました。また、その企画書を持って地域振興局の泉山さんが関連団体を訪ねてくださって、ご協力・ご協賛の約束を取り付けていただきました。
   
   
  ●キックオフ
   
   1月18日の研修会は、当初定員80名のところ、100名近い参加者で会場はほぼ満席状態。10時から始まった研修会でしたが居眠りするような人は誰1人としておらず、皆さん身を乗り出して津高さんの講演に聴き入っておりました。講演のようすはUSTREAMで中継されたほか、NHKも取材にきて、夕方のニュースでは津高さんがアップでテレビに映りました。後半の意見交換も活発に行われ、最後の5分だけいただいて杉恋プロジェクトの説明とご協力のお願いをして、無事キックオフすることができました。JR九州の杉の活用事例は大好評で、終了後には新聞社の取材を受けたり、たくさんの方からお声掛けや名刺交換をさせて頂きました。
   午後1時からは、秋田市まちづくり整備室を通して秋田市長への表敬訪問をセッティングしていただき、津高さんと部下の福田さん、私の3名で、市役所へ。あいにく穂積市長は東京出張中でしたが、石井副市長に15分の予定を30分もお話を聞いて頂き、「杉恋」プロジェクトへの後援・協力を約束してくださいました。
   その後は私と津高さん達とは別行動で、「秋田駅周辺にぎわい創造会議」に出席し、杉恋プロジェクトのPRと、実行委員会へのご参画のお願いをしてまいりました。夕方、津高さん、福田さん、泉山さん、猪島森林技監、二ツ井の加藤さんと懇親会を開き、大いに盛り上がりました。
   
   1月24日には、猪島さんのご紹介で、東北森林管理局の矢部局長をご紹介いただき、杉恋への後援と審査委員をお引き受けいただけることになり、開催に向けて協力の輪が広がっているところです。
   
   
  ●杉に恋して 秋田に出逢う
   
   日南で行われた第一回スギダラ全国大会で、河野健一さんから「是非第2回の全国大会は秋田で!」と飫肥杉の架け箸を受け取ってから4年目。日本全国スギダラケ倶楽部のご支援をいただき、今年平成24年5月26日夜に、第2回スギダラ全国大会開催を実現したいと思います。スギダラメンバーのみなさん!秋田の皆さん!そして全国の杉好きのみなさん!ぜひぜひ、ご参加下さい。心よりお待ちしております!
   
  杉に恋して、秋田に出逢う、秋田発「杉好き」プロジェクト 秋田「杉恋」、スタートします!
   
   
   
   
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 勤務 http://www.amcac.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
『あきた杉歳時記』web単行本 http://www.m-sugi.com/books/books_sugicchi.htm
   
 
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