連載
  スギダラな一生/第49笑 「堂元のもと」
文/ 若杉浩一
   
挿絵/ 下妻賢司
 
 
  また、原稿が遅れた、ようやく追い越したと思ったら、またこの調子。堂元から「早く出してくれ!!」の催促も最近めっきりなくなり、そっと原稿を送るという感じになってきた。いつも、申し訳なく思っている。
いつぞやのセミナーで、月刊杉の僕の原稿について「みんな、素晴らしい内容と執筆陣で、僕だけ、杉とは関係のないエッセイを書いています。」といったら、最前席で奥ちゃんと大笑いしているではないか。
「エッセイという代物ではなかったようです、すみません、コラムでした。」
しかし、更なる大笑い、どころか涙を浮かべて笑っている。
「じゃあ、いったい、何なんだよ〜〜」
「まあ、若杉さんのは、まあ四方山話ですな〜〜」というのである。
先輩、いや上司への、この扱いはひどいものである。
しかし、それから、僕は素直に「四方山話」と言う事にした。
   
  今回は、その中心人物、堂元。実は今月で、我がチームを辞めて、旦那の栄転に伴い、アメリカに移住するのである。
   
  堂元は、北九州、遠賀の生まれ、慶応大学SFCを卒業して、デザインをやりたいと思いニューヨークのデザイン学校に2年、そして東京工芸大に2年、都合8年も勉強して僕らのチームにやってきた。いつも、人を補充できないチームだったのだが、チームの仕事がうまく行き始め、経営陣から評価を受け始めた時期だった。
  当社は「経営資源としてデザインを価値にします。」なんて、実体もなく世の中へ告知したものだから、組織の納まり先もなく沢山のデザイン、建築を勉強した学生が、この時期から入ることになった。僕はその時期に堂元に会った。
   
  まだ、入社試験を受けている時だった。面接と一緒に学生の時の作品を見せてもらった。作品は極めて真面目、彼女の話した感じ、雰囲気からとは違って、ささやかな真面目な、優等生な感じに、僕は思わず「あのさ〜〜、課題はちゃんとこなしたのだろうな〜、だけどね〜何かもう少し君のキャラクタや、思いや、憤りや、疑問が出ないといかん。言われたことを、うまくやれば良いってもんじゃないんだ。問題そのものすら、ひっくり返すエネルギーがいる。しかも僕らのチームは人数も少ない、ギリギリで戦っている、ここでは幸せなサラリーマンのような仕事はできないから、君はここじゃない方が良いと思うな〜〜」と言ってしまった。正直その時そう思った。
  彼女は、うつむいていた。これで、もう会う事はないと思っていた。
結構きつい事を言った。
しかし、新入社員の配属リストを見てびっくりした。彼女がいるではないか、そして僕らのチームにやってきたのだった。
「お前!!やめとけと言ったのに!」
「はい、来てしまいました。」
全くひどい言い草、無礼千万である。
   
  正直、苦労するだろうなと思っていた、僕らの荒くれに頑張れるか不安だった。しかし、ある日、仲間のデザイナーとのミーティングと飲みに連れて行った時、彼女の紹介と、入社の経緯を話した。その時だった。
  「はー、そうなんです。若杉さんから、ダメ出しされましたが、入ってきてしまいました。新入社員ですが、結構、歳取ってます、はい。先輩には申し訳ないです。歳も取ってますし、恥ずかしいことだらけです。けど、デザインが好きです、何と言われても、やりたいです。ダメが前提で、恥ずかしめを受ける覚悟でやってきました。」
  僕は、びっくりした。最初から、彼女は僕からボコボコに言われること等承知の上、覚悟していたのだ。たいした奴だ、こうなりゃ、こっちだって覚悟を決めなければならない。
  「いいね〜〜!!よっしゃ、堂元!!絶って〜〜あきらめんなよ!!俺たちゃ〜、絶って〜あきらめね〜から。あきらめの悪さじゃ負ける気がしねえんだ。よ〜し、一緒にやるぞ。」
   
  それから、今のリズムが出来上がった。いや、彼女の中に元々、このソウルな血が流れていたのかもしれない。決して最初からデザインスキルが高い訳ではないのだが、素直で、筋がいい、心根がしっかりしている。何がなくても心根の良さがあれば何でも身に付く、余計のモノを身につけていないだけ、新しいモノを受け入れる力がある。下手な自信や思い込みや、プライドが一番タチが悪い。着たものを脱がせるのに時間がかかるからだ。
   
  堂元が入社して、間もなく「堂元!!スギダラのWEBページの制作の面倒見てくれんか? うん?やったこと無い?? いい、勉強しながらやってくれ。」と頼んだ。それは、南雲さんと千代田と立ち上げたスギダラのWEBの管理を南雲さんが一人でやっていた、忙しい中、夜遅くまで一人でやっていた。一緒に行った金沢で、飲んだくれてWEBの更新をしながらそのまんま、パソコンを開いたまま寝ていた。もうこれ以上は限界かもと思い、翌日南雲さんに「南雲さん、スギダラWEB、僕のチームでやりますよ、要領を教えて下さい。堂元にやってもらいますから。」と言ったのだった。
  それから彼女は本当に一人で勉強し、夜遅くまで四苦八苦しながらやっていた。大変だろうなと思った。だが、一言も「大変です。苦しいです。」とは言わなかった。むしろ「皆さんの原稿を真っ先に読めて嬉しい。」と言っていた。
  なんとカッコいい奴だ。
そうなのだ、堂元は、今時にはめったにいない「カッコいい奴」なのだ。
盛り上がりすぎて翌日、よく死んでいるが・・・・・・・。
もう、いくらエピソードを話しても話足りない。
そこで堂元の言った記憶に残る名言集を持って、堂元の「カッコ良さ」を満喫してもらえればと思う。
   
  ●入社2〜3年目のころ
  「若杉さん〜〜。私皆さんの役にも立たないどころか、迷惑ばかりかけて。申し訳なくって、申し訳なくって、死にそうです。申し訳なさ病という病気があったら、末期の病気です。死にそうなんです。」
  「アホか、お前!!そんな病気あるか!!そんな時期は誰でもある。俺は悔しくて腹が立ってばかりいた。悔しい病だ。だけどな、そんな病人を背負う覚悟で、治って社会復帰できるまで介護する覚悟ができてるんだ、こっちはな。だから安心して病気になれ。ただし病気を気にすんな、アホかお前!!」
  堂元はよく泣く、しかもオイオイ泣く、一緒にいると、結構こっ恥ずかしい。
   
  ●同じ時期
  「あの〜若杉さん。来年新人採ると聞きました。できれば、可愛いこちゃんでお願いします。そうですね、ちっちゃくて、色白な感じでお願いしたいです。」
  「何で、お前のタイプを俺が聞かされなきゃいけねんだよ〜〜、第一、顔で新人採用出来るか!!アホ!!」
  「はい〜〜あの〜〜私がですね〜入ってきたばっかりに、女子枠の皆さんのへの貢献度が落ちましたので、来年は一つ上げといてもらわんと、いかんと思いまして、今の内から申告した方が良いかと思いました。ここは一つ若杉さんの力で何とかお願いします。」
   
  ●袴田が会社辞めたいと深夜3時ぐらいまで一緒に飲んでたとき
  (袴田のことを心配し、ついてきたのだった)
  「私は、浜松の田舎が大好きです。そして両親が好きです、その親が弱くなっていくのが心配です。浜松に帰って親と一緒に居たいです。だから、会社辞めたい〜」
  「アホか、お前、親ってな、自分の事なんかより、子供の幸せを一番に願ってるんだ、子供が元気で輝いている為だったら何でも捧げられる、自分の為に子供が夢や未来を捧げるなんてそんな事を喜ぶ訳ねえ!!まずはお前の幸せを先に考えろ、喜びを考えろ、そうでなきゃ辞めさせねえ!!アホ!!」
  「何がアホですか!!」
  「アホ!!自分のアホぶりも解らんのか!!アホ!!」
  堂元「あ“〜〜う〜〜ダメです〜〜涙が止まりません〜〜う〜〜〜〜。ふるさとや、弱った親の事を想像するだけで泣けるんです〜〜」
  また一人でオイオイ泣いていた。
   
  ●イベントの後片付けの時
  我がチームのメンバーがイベントの片付けを一生懸命にやっていて、手が足りなく大わらわだったが、近くにいた営業がまるで無視で無駄話をしていた。注意し手伝う様にお願いしたが、逆切れし腹を立て、堂元をドヤしたらしい。
  悔しかっただろう、しかし、こんなときは堂元は、オイオイ泣かない。
  実に、ひょうひょうとそのことを僕に話した。
  「若杉さん、あいつイモ野郎ですよ。皆が働いているのに、女だと思って 逆切れして。小ちええ男です。」
  その後僕は、この営業を、ボコボコにした。
   
  ●飲み会
  僕はデザインの好きなメンバーを連れてよく飲みにいく。だいたい男ばっかりで女子群はあまり誘わないことに、堂元、怒り顔で「若杉さん!! 野郎どもばっかり誘って、奥さん(僕のチームの女子のリーダー)だって色々な思いや悩みやあるんです、あんた!!女子にも少しは気を使いなさい!!」
その後、申し訳なそうに奥ちゃんを誘うと、「そんなこと一寸も思ってません!!第一そういう時は、直接言いますし、言っています。そんな事に気を使わなくていいですよ。いつの通りで良いです、むしろ堂元さんを誘って下さい。」
「若杉さん!!ラーメン!!よかろうもんに行きたかです!!どげんですか!よかですか!!よかですか!!!」
堂元の誘いは断れないし、強引である。
   
  ●飲み2、彼の紹介(工場打ち合わせの後の焼き鳥屋で)
  「堂元、お前の彼氏はどげん奴か?」
「いや〜〜何と言うか、よか男というより、味系のおっさんという感じです」
「味系のおっさん?見てみろ、あの焼き鳥焼いてるオヤジ、色といい、歯の抜け方といい、いい顔しとるぞ〜、あれぐらいの味か?」
「誰が、焼き鳥屋のジジイですか!!味系とは言いましたばってん、焼き鳥屋のジジイと言ってませんばい。」
  その後本人に会ったが、ぜんぜん味系どころかイケメンだった。がっかりした。
   
  ●タクシーで
  「堂元、俺さ、昔から腸が弱くてさ、よう、しかぶっとったったい。恥ずかししか話は山ほどあるったい」
「なんば、言いっとですか。私のほうが凄かです。腹の弱かとと、しかぶった話は負けません・・・・・・どうすか?」
「うんにゃ、俺の方が凄い・・・・・・・・・!!たい」
「ほんなら!・・・・・・・どうすか!!」
「なんてか!!・・・・・・・ほら!!」
「うんにゃ!!・・・・・・・・・!!」
「運転手さん、この辺で結構です。ありがとう御座いました。」
「お客さん、本当にありがとう御座いました。大変面白いお話ありがとう御座いました。お二人の話、もうめちゃめちゃ面白かったです。またのご利用よろしくお願いします。」
負けず嫌いにも程がある。
   
  堂元は、色々なイベントでリーダーとして、堂々と、立ち振る舞ってくれる。
メンバーを仕切ってテキパキと仕事を進めてくれる。
うちの男子よりしっかりしているし、お客さまからの信頼も抜群。
休みだろうが何だろうが、きちんと、やり切ってくれる。
そして中身の質も高い。ただし、お金の事さえなければパーフェクトなのだが。
僕は、その尻拭いを、よくさせられている。
お蔭で、部門長から有り難い評価を沢山受けている。
   
  ●イベント、坂本の失敗
  チョンさんの宮崎でのセミナーがあまりにも素晴らしかったので、そのビデオを東京でも上映しようと企画した。坂本に素材を手配させ上映会をやったのだが、色々な方々が来て頂いた。仕上がりが、心配だったので音の事や中身について何度も確認したが、本人はばっちりですというので安心していた。上映会開始、期待の中、チョンさんの聞き取れない程の音に見にくいパワポイント映像。本当に解りにくい、聞き取りにくい。本物を見ただけに、本当に恥ずかしかった。お客さんも白けていた。その後坂本を相手に「あのさ〜〜、あんた!!ちゃんとやれよ!!おめえだけの仕事じゃないんだ、TDCのみんなのコトなんだよ!!どうして相談しねえんだ、助けを求めねえんだ!!自分ごとで簡単に、中身も吟味せず、いい加減にやるんじゃね〜〜よ!なめるんじゃね〜よ!!おめえなんかハゲてしまえ!!」
その後も一方的に、僕を乗り越え説教していた。
坂本は涙を流して反省していた。堂元親分は凄い!!
   
 
●最近の堂元
 
「若杉さん、顔に性格や本質が出るんですな〜。見た目って凄かとですよ。 ほら、あの人ですたい、悪代官のような顔じゃなかですか。中身もそうですもんね。顔に出るとですよ、顔に。だから顔見て好きになるって、本当はですね、自分自身が好きな本質をちゃんと見抜いとるとですよ。顔ってそういうことなんですわ。どげんですか?」
  「ほ〜〜!!凄い!!堂元先輩、勉強になりました。最近の先輩は凄かです。」
   
 
堂元は、自分のデザインには自信無さげだが、相手を魅了する力を持っている。
堂元は、自分ごとには自信なさげだが、チームごとには絶大な自信と確信を持っている。
堂元は、スケッチは自信なさげだが、事の判断は早く、迷いがない。
堂元は、旦那に随分迷惑をかけているようだが、チームの面倒は一生懸命に見る。
堂元は、自分ごとは小さくても、相手ごとチームごとは、スケールがデカイ。
堂元は、せこい事や、理不尽な事は、ばっさり、問答無用でパワハラまがいの大胆不敵な言葉で、け散らす。
堂元からの休みの日の電話は、たいてい不幸の電話だ。頭を抱えてしまう。年々規模がでかくなっている。なのに、休みの日のこちらの電話には一切、出ない。
堂元は、理不尽な仕打ちにも全然、動じない。凛としている、本当に男前でカッコいい。
堂元は、堂元は、それなのに、よくオイオイ声を出して泣く。こっ恥ずかしい。
   
 
堂元よ、デザインを愛し、ボコボコにされ、申しわけなさ病にかかり、焼き鳥屋のオヤジと結婚し、そして、愛する伴侶と海外に行くことになった、堂元よ。
どこに行っても、デザインの素晴らしさと、
そん心の中に、体に流れるデザインのソウルを抱き、
どこ行っても、愛するデザインを続けてくれ。
どんな形でもよか、続けてくれ。
そして、また何時の日か、戻れる時が来た時は。
また戻ってこんばぞ!!
そんときは俺たちゃ、もっと凄くなっとるぞ。
そして一緒に、世界のデザインば見ようじぇ、語ろうじぇ、
待っとおけん、こんばぞ、よかか!!堂元!!
元気でおらんばぞ〜〜!!
   
 
堂元へ感謝の気持ちを込めて。
 
 
   
 
 
『ニュートラル堂元バージョン』
 
  『堂元親分バージョン』
   
 
こんにちは。お久しぶりです。下妻です。
今回は若杉さんのエッセイ改め四方山話を読まずに挿絵を描きました。真に勝手ながら、私にとっての堂元さんのイメージになります。
堂元さんの二つの顔を描きました。
描き終えてから四方山話を読んだのですが、どうやら皆の共通認識なのですね。
『ニュートラル堂元バージョン』『堂元親分バージョン』。
尊敬する先輩をこんなカタチで表現しましたが、これしか思い浮かびませんでした。
   
 
先程、堂元さんから、絵に描いてある紫のバッグを受け継ぎました。
施工道具を入れて持ち歩くバッグです。
このバックを使用することで、少しは男前になれる気がします。
   
 

堂元親分お勤めご苦労様でした。
戻ってくるときは少しは男前になってるはずです。なります。

   
 
  2012年4月 内田洋行テクニカルデザインセンター関係のみんなで。
   
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない
活動を行う。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
『スギダラ家奮闘記』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
『スギダラな一生』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka2.htm
   
 
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