連載
  吉野とスギダラ・・・そして秋田
文・写真 / 南雲勝志
 

いま地域が生き残るために・・・

 

今月号の特集吉野を見て、最近の吉野の充実ぶりに改めて感心している。吉野地区だけではなく、スギダラ関西らしい、山と製材からまちや人へというまさに川上から川下までのネットワークが実にうまく機能し出している。

そもそも我々が吉野を最初に訪れたのは、2005年3月のスギダラ吉野ツアーである。まだ月刊杉が出来ていないので、当時千代田さんが「スギダラ家の人々」でレポートしてくれていた。本部からはスギダラ三兄弟、内田みえ、長町美和子、増田奈々ちゃんや中尾ちゃん。そして宮崎から日向市の和田さん、宮大の出口先生、吉武先生らが参加している。これは日向の課外授業の直後でもあり、杉繋がりで名門吉野を一度表敬訪問しようということであったと思う。宴会が終わった後、部屋に戻って和田さんが吉野の皆さんに課外授業のビデオを見せてくれ、みんなでウルウルしていたことを覚えている。そして吉野側は吉野中央木材の石橋社長、上北部長はいるが、なんと輝一ちゃんは吉野にはまだいなかったのである。そしてこのツアー、吉野とスギダラのつなぎ役は第一回杉コレグランプリを受賞した狩野新さんだった。それ以来、狩野さんはずっと吉野とスギダラの関係を静かに見守り続けていてくれる。

そして忘れもしないこのツアーの帰りの電車の中、月刊杉発刊構想が持ち上がったのだった。4ヶ月後の2005年7月、満を期して月刊杉が創刊したのである。つまり吉野は月刊杉の生みの親でもあるわけだ。そんなこともあり創刊号から吉野には参加をしてもらった。トップバッターはツアーで見学もさせてもらった梶谷哲也氏である。その名も「間違いだらけのチェンソー選び」であった。とても新鮮だった。おかげでボクラもずいぶんとチェーンソーファンになったのである。狩野さんも第二号で早速登場している。今や休載となっている、杉スツール100選/第2回「杉コロ」 である。石橋輝一が登場するのは、梶谷さんの連載が終了後、それを引き継ぎ第7号からの登場である。吉野杉をハラオシしよう!記念すべき第1回であった。
その後特集吉野は二回、2007-02 特集吉野2010-01 特集吉野、そして今回三回目の特集となる。この間次々と仲間を増やし、イベントを重ね、内田理恵子さん、水木千代美さん、空庭さんら強力な女性陣ともタッグを組み、強く、広く裾野を広げてきた。
銘木銘酒のシンポジュウムあたりからぐっとハラオシ力も強くなてきた。中井章太さんらも本気になり、次のステップアップのタイミングを計っている。 吉野のすばらしいところは吉野を応援してくれる「まち」の仲間達とうまくいい関係をつくりながら、互いに成長していくところである。それは山の文化を閉じずに社会に広げていくいい見本をつくって行っていると言えるのだろう。「木樽べき時代!」いよいよ到来か・・・

吉野とスギダラが知り合って8年。今年から来年にかけての吉野は日本の林業業界にその姿を知らしめることに虎視眈々とその時期を伺っているようにも思える。
林業の父、土蔵王が生んだ名門吉野。これからが楽しみだ。心から応援したい!

 
  2005年3月、初めて訪れた吉野川、吉野山の風景は忘れない。
 
  2009年11月、スギダラセミナー。ずいぶんと吉野軍団が膨れあがった。
 
  2011年11月、吉野の製材所の風景もまた文化的景観なのだ。
 
 
 

そして76号で特集した「秋田杉恋プロジェクト」の柱の一つ、杉デザインコンペの一次審査が先日(4月7日)審査委員長川上元美氏のアトリエで行われた。武田光史さん、小野寺康さんら参加、審査は長時間に及んだが、秋田らしさ、そしてバリエーションにとんだ7作品が選ばれた。最終審査がとても楽しみである。コンペのスタートは上々である。

昨年の暮れに杉恋プロジェクトを発足、5月の後半まで半年に満たない短期決戦である。事務局&仕掛け人の菅原香織の心労はいかに・・・と思わせるハードぶりだ。そのせいか少し前には貧血でダウンしている。しかし、地元も徐々に盛り上がり始めている。そして杉恋を支える多くのスギダラメンバーがいる。恐らく秋田で初めての本格的な杉デザインセミナーと杉の全国デザインコンペ。記念に残る出来事となるであろう。だがこれも数年前の「窓山デザイン会議 HP」、「窓山デザイン会議」(月刊杉39号)があってこそ、と思う。
しかし、今回は地元秋田でどれだけ杉恋ファンをつくれるか?秋田のまちを杉と共に未来を語れる場にする事が出来るか?そういう意味で吉野が歩んできた道に学ぶことも多い。杉恋でそういった全国の活動の交流が生まれることに大きな意義を感じている。

 
  2006年6月、三兄弟で訪れた秋田の桃源郷、手這坂。田植えが済んだ直後。
 
  2008年11月、秋田窓山デザイン会議の一コマ。最優秀賞授賞式!
 
  2012年4月7日、秋田杉恋デザインコンペ、一次審査の模様。
 
 
 
  吉野と秋田、日本が誇る杉産地が、新しい世代によって今までに無い価値観を持ち、良い方向に向かって動き出している。杉だけではない、日本の地方の行き方の一つの方向を示す出来事がそこから生まれようとしている。
 

 

   
   
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
facebook:https://www.facebook.com/katsushi.nagumo
   
 
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