連載
  杉という木材の建築構造への技術利用/第37回
文/写真 田原 賢
  N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編5
 
*第33回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編 1
 
*第34回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編2
 
*第35回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編3
  *第36回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編4
   
  2.実験概要 つづき
   
  2−4.試験加力及び変位測点
   
 
  写真45 「外壁モルタルのカット面及び取り外し面を示す」
  ラスモルタルが軸組に取り付いた状態でのカウンターウエイトはその影響が非常に大きく浮き上がり量が10mm以内でも非常に大きな耐力を示し、モルタルが抵抗しないでただくっついている状態でのカウンターウエイトに比べかなり違いがあるので、ダイヤモンドカッターでラスモルタルをカットし、その木ずりのラスモルタルをもたたいて脱落させた。
   
   
   
  2−5.実験方法
   
  (1)柱カウンターウェイトと耐力壁の耐力の関係解説
  建物に水平力が加わると、耐力壁はせん断変形や曲げ変形や剛体回転をしようとする。
柱カウンターウェイトは耐力壁の剛体回転による柱の浮き上がりに対する抵抗力である。
耐力壁のせん断耐力が小さいと、剛体的な挙動による浮き上がりはほとんど発生しないで耐力壁の変形で抵抗するが、耐力壁のせん断耐力が大きいと、剛体的な挙動が大きくなり耐力壁にとりついている柱の引き抜き力が発生する。この剛体的な挙動が大きくなる場合に柱カウンターウェイトの効果が期待される。以下に、終局状態における2通りの破壊形式から柱カウンターウェイトの効果について述べる。
   
  《耐力壁の終局状態の破壊形式について》
  *耐震要素を「面材大壁」に例として以下述べる
耐力壁が回転角Rとなるときの抵抗モーメントをMとすると、耐力壁の縁に生じる鉛直せん断力は式@で与えられる。
  V = M / W ---@
  W:面材の幅
  耐震要素(面材)に水平力が左から右に作用したとき、柱に生じる引っ張り軸力V(上向きの力)は、以下のように算出される。(図2−4)
   V = VT − VC = QUR × H / W − QUL × H / W ---A
  QUR:柱の右側にある耐震要素の終局せん断耐力の和
  VT:柱の右側にある耐震要素により柱に作用する上向きの鉛直せん断力の総和
  QUL:柱の左側にある耐震要素の終局せん断耐力の和
  VC:柱の左側にある耐震要素により柱に作用する上向きの鉛直せん断力の総和
  H:階高
   
  建物内部に組み込まれた鉛直構面に水平力が作用し、柱に上向きの力 V が生じるときの力の釣り合いにより、破壊形式は以下のように分類できる。
   
  i)耐力壁の耐震要素自体が壊れる場合(柱は引き抜けない)
   VW ≦ N + R ---B
  VW:耐震要素自体が破壊するときに柱に生じる引っ張り力
  N:柱頭に作用する下向きの力(≫柱の長期軸力)
  R:柱脚に作用する下向きの力(柱脚金物の終局耐力或いは基礎の抵抗力)
  N は横架材を剛と仮定して、壁の上部の横架材(継ぎ手位置まで)全体を持ち上げるのに必要な力であり、柱頭が引っ張りとなる柱と横架材に取り付いた金物の抵抗力や、直交する梁に取り付く柱の柱頭、柱脚の金物の抵抗力や、直交する梁に取り付く壁の浮き上がりに対する抵抗力、及び、上階の壁により生じる転倒モーメントを考慮して、力の釣り合いから求められる。
この破壊形式の場合、柱の左右に取り付く耐震要素の耐力は、耐震要素の保有する耐力に等しい。
柱の左右に取り付く耐震要素の変形能力は、耐震要素の限界変形角に等しい。
   
  ii)柱脚金物の耐力或いは基礎の浮き上がりで破壊する場合(柱は引き抜かれる)
  V' = N + R ---C
  R:柱脚金物の終局耐力或いは基礎の抵抗力(柱脚金物のない場合は、R=0)
  この破壊形式の場合、i)と比べると、柱の引き抜けに対する抵抗力(柱カウンターウェイト)は ΔV= VW ‐ V'だけ不足していることになる。
柱カウンターウェイトの不足分ΔVによって、柱の右側の耐震要素により生じる上向きの力が VT' = VT - ΔV に低減される。そのため、柱の右側の耐震要素の終局せん断耐力は QUR' = VT × W / H < QUR となる。従って、柱1本に浮き上がりが生じる場合、浮きがりのない場合の耐力よりも QUR = ΔV × W / H だけ耐力が低下することになる。
   
   
  (2)実験の手法
  計測対象となる隅角部・外側柱・内部柱等の柱の柱脚部より1m程度の高さの位置に、ホールダウン金物(HDN2.5t用)を逆に取り付け、その下に荷重計と油圧ジャッキを設置し、持ち上げる。
変位計は持ち上げる柱(変位計1)と持ち上げる柱に取り付くX方向梁・Y方向梁の半間〜1間半程度の範囲に設置する(変位計2〜変位計4)。
柱を徐々に持ち上げ、その時の荷重と柱の持ち上がり変位、及び持ち上げる柱に取り付くX方向梁・Y方向梁の浮き上がり量(梁と床との相対変位)を測定する。
  この荷重は、柱を持ち上げる際の上からの押さえ込み荷重抵抗であるので、これが柱カウンターウェイトとなる。
実験から得られた荷重(実際の柱カウンターウェイト)と算定した長期軸力との比較を行う。
このとき、柱の持ち上がり変位と荷重を2.5mm、5mm、10mm、20mm、30mmの各測定点における負担面積の移り変わりについて検証する。
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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