特集 天草高浜フィールドワーク2012

  天草高浜をみつめる
文/写真 仲村明代
 
 
  これまでを振り返る
   
   初めて高浜を訪れたのは昨年2月の「高浜のなつかしい未来へ」シンポジウムのとき。その後, 第1回の高浜フィールドワークに参加し, さらに今回, 第2回に参加することで高浜を知って約1年半経ったことになる。
   昨年の夏, 暑い暑いとうなりながら全員が麦わら帽子を被るという出で立ちで高浜の町を歩き回ったことは今でも鮮明に覚えている。3日の間に民泊も経験し, フィールドワークはもちろんのこと, 懇親交流に朝市にと濃密な時間をすごすことで高浜という町は私の記憶にしっかりと刻み込まれた。その濃密さの一端は日本全国スギダラケ倶楽部のみなさんのスギダラケ流のエネルギッシュな身のこなしやリアクションにあったことは言うまでもなく, 多くの参加者がそのエネルギーに圧倒されながらもフィールドワークに取り組めたことなどはぜひ昨年の月刊杉第72号を振り返っていただけたらと思う。
 
  fig1-3. 昨年のフィールドワークの様子
   あれから1年を振り返ると, 実際に高浜を訪れることができたのは1,2度だけだったが, 民泊でお世話になった松原さんご夫妻との年賀状のやり取りや, 今や全国スギダラケ倶楽部天草支部支部長の森さん(森商事)や小野さん(森商事)の福岡での展示販売会でのお手伝いなど, 限られてはいるが高浜の「人」との交流はできた。だけど, それだけでは町を元気づけることはできない。どうしたら私たちはフィールドワークを超えて高浜と関わっていくことができるだろうか。そんなことを考えながら今回の「高浜フィールドワーク+リデザイン・ワークショップ(以下ワークショップ)」に臨んだ。
   
 
   
  ワークショップの様子
   
   今年の梅雨もいつになくしつこかった。もう明けるだろうと気を許したとたんに雨が降り出すような天気が続き, 「これまでに経験したことのないような大雨」と言い表されるほどの雨が降っては九州各地に甚大な被害をもたらしていた。そしてこの初日も驚くべき勢いの雨が福岡からの道中を阻み, 通常の倍の時間がかかるという事態に見舞われた。道行く中, 浸水してしまった家や封鎖された道を見て初めて実感する本当の恐怖。山や川など自然との距離が近ければ近いほど被害は多い。人工物だらけのまちに住む私にとっていちばん怖いなと思ったのは, 直接に目の当たりにしなければ自然の怖さを実感できなかった自分自身だった。本当に多くの被害が出たこの7月。梅雨は明けたもののゲリラ的な大雨が未だ続いていることを考えると, これ以上被害が出ないことを祈るばかりだ。
   
   そうやって高浜にたどり着いてからの3日間はとても早かった。
   初日をほぼ移動に費やしてしまったため, 本格的にワークショップが始まったのは2日めからだったが, この日は日曜日。高浜では第1, 第3日曜日に「もちより市場」が開催されていて参加者の多くはこの市場に参加することからワークショップが始まったようだった。すでに民泊で一晩を過ごした学生たちも顔を出していて, 中には持ち前のスペシャルな技を使ってパフォーマンス(書道や似顔絵)をしている学生もいてとても賑やかな朝だった。
 
  fig4-6. 高浜もちより市(左)。飛び入り参加で書道パフォーマンスと似顔絵パフォーマンスをする学生(中央)。グループに分かれてまずは自己紹介(右)。
   
   今回のワークショップは, この地に潜む文化資源や地域固有資源の再発見を通し(フィールドワーク), 課題解決型提案デザイン(リデザイン)を行うことを目的に, 5つのテーマについてそれぞれグループに分かれて取り組むというものだ。昨年と違うのは, 目標を, 実行(実効)可能な提案にまで昇華させることに設定されたことだろう。そのためにもう新しいことといえば, サムスン電子ジャパン株式会社のインターンシッププログラムの1つに組み込まれ, デザインを専攻する学生が参加したことも挙げておきたい。このことは, 昨年の取り組みがきっかけとなって実現したことだと教授から伺っていて, わたしたち学生にとってとても刺激になるだろうと楽しみにしていた。
   5つのテーマは前回のテーマを引き継ぎながら, より具体的な提案に落とし込めるようなものになっていた。上田家エコミュージアムコア博物館構想, 天草陶石「タカハマたいせつプロダクト」, まちなか再生計画構想と広場のデザイン, タカハマSOHOライフスタイル, 高浜葡萄パーゴラのプロデュース, 5つの中で興味関心のあるテーマを選びいよいよグループワークがはじまった。集まった人数に多少の差はあるものの, 高浜の人, 社会人, 学生と良いバランスでグループができたように思う。初日の遅れを取り戻すべく, 作戦会議をはじめるグループ, 早速まちなかへ繰り出すグループ, 高浜の一角がにわかに賑やかになった。
   
   グループワークに取り組んでいて感じたことは, 多様なひとと1つの課題に取り組むことのおもしろさと難しさ, そして提案型のグループワークに必要な情報―特に具体的な問題の分析,が難しかったということだ。
   私が参加したのは天草陶石のグループ。高浜の人, 外から来た人, 職業や専攻が違えば, 国籍まで違うというような多様っぷり。この多様性が高浜のワークショップの醍醐味であり, まちや地域について考えていくときに必要なことだと思う。天草陶石を見つめて考えて, それぞれの意見や気づく点や興味をもつ点など十人十色で, とてもおもしろかった。
   むずかしかったのはその進め方だ。一度思考が止まるとなかなか突破点が見つけ出せない。その原因の1つに, 提案の前提として高浜が, 天草陶石が今どのような問題を抱えているのか, その現状の分析が足りなかったように感じている。その点が今回の取り組みから反省すべきことだと思うし, それは全体を通して言えることだったようにも思う。
 
  fig7-9. 天草陶石「タカハマたいせつプロダクト」グループのフィールドワークの様子。メンバーに高浜地区振興会会長の大里さんがいらっしゃったおかげでたっぷり天草陶石についてお話を伺うことができた(左)。天草陶石の白さに魅了される(中央)。試作品を作るメンバーの千葉さんと荒川さん(右)。
   
   短い時間だったけれど, それでもわたしたちのグループは「高浜の白」に着目してひとつの提案としてまとめることができた。そして, プレゼンテーションで魅せたメンバーの迫真の演技は本当に素晴らしかった。また, 他のグループの提案も, 1日半でまとめたとは思えないほど内容に富んでいて, かつ, ストラテジーが丁寧に立てられていたり, デザイン力で説得力を持たせていたり, ストーリーとしてまとめてみせてくれたグループもあれば, モックアップにまで及ぶ力量をみせてくれたグループもあって, 最後のまとめの会は熱気にあふれていた。
   
 
   
  見ること,見られること,について考える
   
   このワークショップを通して考えたことは, わたしたちのまなざしについてだ。
 プログラムの最後に展開されたシンポジウムでは, 「ローカルな高浜を歩いて, グローバルな世界をデザインする」と題した基調講演(丸尾焼窯元・金澤一弘氏)やトークセッション(岡田智博氏, 千葉友平氏, John Tubles氏)が展開され, 高浜というひとつのローカルな場所にひそむ可能性, が4人の視点から多様に語られた。
 
fig10. シンポジウムの様子
   
   金澤氏は「もはやグローバルの時代にはおわり, ポスト・グローバルの時代, すなわち, ローカルな地場産業こそが活きる時代になるべきだ」と聴講者を刺激した。岡田氏はアートの現場におけるローカリゼーションの動向にふれ, アーティストたちが必要としている場所は地方にあると語り, 千葉氏は石工として活躍するに至るまでの自らのあゆみを語りながら, ローカルな場で生活を営むことの態度を示してみせてくれた。John氏は学生, 建築家, 外国人という様々な立場から高浜の印象や素晴らしいと感じたことを語った。それぞれの方々がそれぞれの眼で見た高浜を語り伝えてくれたこのとき, こうやって見つめられたり語られたりすることが高浜にとって必要なことで, わたしたちが見つめたり語ったり伝えたりすることが高浜を元気づける力になるのだと思った。
   結局これはワークショップの目的そのままのことなのだが, 日常になりすぎてその大切さや価値が見えにくくなってしまっていることを, 再発見し考え直し新しい価値にしていくということ, そのまなざしこそが高浜だけでなく日本の各地で必要とされていて, だれもがそのまなざしを持っているのだと思うに至った。
   
   例えば,SOHOライフスタイルについてのグループは, Facebook上に「だいすき!天草高浜」というファンページを作り, 高浜の「いいね!」を増やしていこうと提案した。これもひとつのまなざしのあり方であり, また高浜の人にとってもじぶんのまちを意識的に見つめることができるきっかけになっているのではないだろうか。
(「だいすき!天草高浜」はこちらをご覧ください。)
 
fig11. 「だいすき!天草高浜」ファンページ
   
   これはまだひとつの小さな渦でしかない。もっとたくさんの人やモノゴトを巻き込んでいくには, 渦を増やしたり大きくしたりしていく必要がある。その力によそ者であるわたしもなれるのだという可能性に気づけたワークショップだった。
   最後に、3日間いっしょにこのワークショップに取り組むことができた高浜のみなさんをはじめ、参加者のみなさん全員にありがとうと伝えたい。これをきっかけにまたつながりが濃くなったり広がったりできればと願っている。
   
 
  fig12. 白鶴浜の夕陽。 思わずジャンプしたくなる美しさ。
   
   
   
   
  ●<なかむら・あきよ> 
九州大学大学院芸術工学府 藤原惠洋研究室 博士3年

   
 
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