連載
  スギダラな人々探訪/第59回 「住まいの耐震博覧会@福岡・・・おまけ付」
文/ 千代田健一
  杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。
 
  今回は、以前レポートした宮崎県のPRイベント「みやざきweeeek in 福岡」の続編をお届けする。
9月22日、23日にマリンメッセ福岡でナイス株式会社という住宅および住宅建材の総合メーカーが主催しているイベント「住まいの耐震博覧会」が開催され、宮崎県として出展した。この博覧会、毎年全国の主要都市で開催されているかなり大がかりなイベントで、その名の通り、住宅の耐震対策の重要性を広く伝えて行こうとするものだ。
   
 
  ブース内ではobisugi design/SUGIFTや諸塚村のドングリ材プロジェクトの商品などを展示PR。
   
  主な出展者は住宅設備機器のメーカーや素材メーカーなのだが、今回の福岡展では、各県の木材関連ブースが設けられた。県別対抗戦、お国の木材自慢大会といった趣だ。もちろん、宮崎県も参加し、「みやざきweeeek in 福岡」で用意した杉インフィルを持ち込むことが検討された。
実はその時のセットは福岡で使った後、東京の展覧会に出展して、今回の主催者、ナイス株式会社の横浜の倉庫に預かってもらっているとの事。その運搬設置費用だけでもかなりの金額がかかることから、今回の福岡展では同じようなブースを新調することとなった。で、その設計デザインをその時から引き続き、千代田の方で担当させていただいた。
製作担当は杉コレクション都城大会の時にお世話になった、ヤマワ木材の若松さんだ。若松さんと今回の宮崎の「売り」をどうするか、検討を重ね、宮崎の材ならではのPRポイントを設定した。
   
  1.他県では入手しにくい大径材。
2.大径材からでしか取ることが難しい殆ど無節の板材。
3.何でこんな細かい材料がこんなにきれいなの?と思えるような規格品の間柱材。
  主にこの3つのポイントをブースを構成する要所要所に盛り込むことにした。
   
  が、しかし!1.の大径材に関してはコストと製作納期の問題から早々に断念することに!
千代田としてはこれが一番の売りになると思っていたので、ブースの一面を芯去りのほぼ無節の角材を積み上げてつくる壁を提案していた。これが実現していれば、一般的な杉に対するイメージをどこかしら払拭できたように思うが、うだうだ言ってても仕方ないので、木を取り直して別の方法でのアピールを考えた。敢えて木の面積を減らして、できる限りモダンなイメージに仕立て、木の良さを引き立てるという方法だ。
木肌の色と相性のいい真っ白な壁面部と全体がグラフィックになってる壁面部を用意した。使える材料のコストや使い回しがしやすいような施工方法を考慮せねばならなかったり、多少の制約はあったが、やや離れて見る上では狙い通りのイメージを作れたように思う。
   
  品質の安定した間柱材による連子格子のパネルや全く節が無い厚み60oもの棚板などがブース全体のクオリティを引き立ててくれたように思う。意識的に木材を見ない人にとっては何が違うのかさっぱりわからないのかも知れないが、結果として出来上がった空間が醸し出す雰囲気の違いは感じ取っていただけるのではないかとボク自身は思っている。
それにしても宮崎から材料を仕入れてみていつも驚くのは、普通に流通している規格寸法の間柱材の意匠的な品質の高さだ。話によると、105×30とか105×45の間柱材は小径の材から取ると反りが多く、品質が安定しないので、そこそこの大きさの材から取るのだそうだ。結果として今回の縦格子のような使い方をすると殆ど節が無い柾目の部分が一番見えるところに来るのだ。専門的に言うと断面が長方形の材の短い方向の面をコバ面と言うが、宮崎の材の場合、そのコバ面に節が現れる確率が極めて少ないのである。
そんな意匠的なアドバンテージを持つ材なのに一般木造住宅では壁の中に入り込んでしまうような使い方しかされていないのはもったいないと思ってしまう。
それに今回、県産品を展示するための棚板として用意した長さ4m、奥行300o、厚み60oの無節の板材などは手に入れようと思えばどこでも入手は可能とは思うが、育ちの良い宮崎県産材ほどのコストははじき出せないと思う。こんなことを言っては各所から怒られるかも知れないが、今回使った無節の棚板を秋田や吉野で手に入れようと思うと金額的に躊躇してしまうだろう。まあ、それでもナラやタモといった広葉樹の板からすれば、極めて安価なのではあるが・・・
   
  宮崎の材は温暖な気候の元、育ちがよく、年輪の幅も他県の材より広い。その分、密度は低く、柔らかい。強度的にはハンデを背負ってしまうのであるが、それは構造材としての話。今回のように見せる使い方、つまり室内空間における表層的なデザインを作って行く上では大きなアドバンテージを持っていると思う。宮崎の大径材ならではの使い方がもっともっと考案できると思っている。
   
  この杉ブース、この展覧会の後は10月16日から29日まで九州国立博物館にて、「神話のふるさと みやざき展」に出展し、その後は11月17日から25日までアイランド中央公園ぐりんぐりん(福岡市東区)での「Let's Timberize! in 九州」展へと巡回して行く予定だ。
(ち)
       
   
  組立はヤマワ木材若松社長率いる大工さん2名の他は県職員で行った。   右からみやざきスギ活用推進室の大山さん、宮崎県福岡事務所の田中浩史さん、吉瀬晋司さん。楽しそうに組立やってます。
 
  グラフィックも貼りこんで完成! 冷蔵庫付のカウンターは冷蔵庫ごと内田洋行から出張!来場者に冷えた日向夏ドリンクを振る舞った。
 
  棚板は強度も充分!!! ホントは1棚2人、合計6人が寝そべって写真を撮ろうと思ったのだが、展覧会前に破損しても困るので、若松さんひとりで我慢。無事仕上がってご満悦のご様子。
   
  この着ぐるみのゆるキャラは宮崎県のシンボルキャラクター「みやざき犬」。中に入っているのは女性だそうだ。それを知ってるこのおじさん、何をしているのかな?   杉の板だけが浮いているように見せるための隠し棚板ブラケット(施行中)。板の方に切れ目を入れて金具を隠してしまう。まあ、裏を覗けばプレートの部分は見えるんだけどね。
   
 
   
  ■おまけ
   
  以前、本誌で、JR九州大分支社の木造オフィスの特集をやりましたが、その後の動きをプチレポートします。
   
  ガラスのカーテンウォールで日当たりの良いスペースの一角には、地域に対するPRと心地よい景観を還元することを目的とした箱庭とギャラリースペースが設けられている。 竣工後しばらくは空きスペースとなっていたのだが、当初の予定通り、ギャラリー化することに!
  ギャラリーには、旧大分支社に飾ってあった寝台特急富士のヘッドマークや天皇陛下が乗られた電車のヘッドマークを飾ることになった。
 
  ギャラリー化するのはここ。
 
  ギャラリーイメージ。CGはJR九州施設部の福田さんが作成。
   
  今回はその飾り物を置くためのステージの作成である。材料は旧大分駅舎の屋根に使われていた梁材を再活用した。誰しもが大分の杉材だと思っていたのだが、ぼろぼろになった梁材を再度製材加工してみると、アカマツなどの松材だったのだそうだ。(製材を担当した三宮さん談)
製材した材料に通しボルトの穴を開けて、束ねて細長いステージを構成。組みあがったら裏面にキャスターを付けておしまい。そんな単純なものなのであるが、千代田がその通しボルトの寸法を間違えたために、急きょホームセンターに買い出しに行ったり、電動ドライバーの充電を事前にやっておかなかったため、充電してはいくつかビス留めるといったことを繰り返し、大の大人4人がかりで結構な時間を費やしてしまった。
でも、こういうことやってる時は無邪気に楽しいものである。大分支社の岡本さんは自前の電動ドライバーまで持ち込んで参戦してくれたり、舞い込んだ不幸?を結構楽しんでくれていた。(と、思う。)
   
  すったもんだして完成したこのステージ、福田さんが描いたように使われるのはいつになるのか、乞うご期待!
   
 

 
  組立風景。乾燥しきった良質の材料なので狂いもなく、組立は楽チン。・・・のはずだったのだが。   ひとまず完成!表面がぼろぼろになった材料でも一皮剥けば、美しい!
 
  今回の施工担当メンバー。右から内田洋行 中田さん、JR大分支社 岡本さん、津高支社長、施設部福田さん、志村製材三宮さん。津高さんは口出しだけ、支社の工事では一番苦労した三宮さんは組立が終わるのを見計らったように登場した。
 
  この壁の裏側が津高さんの支社長室。このステージは津高さんの昼寝用としても利用可能・・・うそ!
   
   
   
   
  ●<ちよだ・けんいち> インハウス・インテリアデザイナー
株式会社パワープレイス所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
『スギダラな人々探訪』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_chiyo.htm
『スギダラな人々探訪2』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_chiyo2.htm
   
 
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