特集 杉コレクション2012 in 宮崎
  杉コレ受賞者コメント
文/写真  貴志泰正
★★グランプリ『屋台骨』
 
  「会いたい!」(杉コレに関わる皆さんに!)
「行きたい!」(もちろん宮崎に!)
「作ってほしい!」(自分の設計したものを杉で!)
これらが、杉コレクションの存在を知った私が抱いた思いであり、私を宮崎へ連れて行ってくれた原動力でした。
   
  グランプリという大変光栄な賞をいただきましたが、とても自分一人の力ではなく、制作にあたってくださった方々のご協力や、いくつもの幸運が重なった結果だったと感じております。
   
  私が提案した「屋台骨」ですが、人のつながりを生む楽しい仕掛けを、そしてクスッと笑えるネーミングを、と考えた結果生まれたアイデアです。横並びに座る屋台では離れた席の人の顔は見えにくいですが、天板を魚の骨の形状とし、骨の隙間が居場所になれば屋台を囲む他の人の顔が見え、程よい距離感から新たなコミュニケーションが生まれるのではないだろうか、と考えました。
  あのような見た目ですが、私自身はユーモラスに可愛らしくを意識しつつ、大真面目に形にもこだわってデザインしたつもりです。ただ不器用なものですから、自分でも野暮で骨太だなと感じ、見慣れたアイコン的な形状も自信が持てない部分でした。自分が考えたことを正直に伝えたうえで審査員の方々に教えを請おう、そんな思いで最終選考に臨みました。
アーケードに置かれた実物を見たときは、大変嬉しく思うと同時に制作してくださった方々の苦労に頭が下がる思いでした。
   
 

私が幸運だったことは、制作担当者の(株)トーアの大西さんが最初のやりとりの時点で、実物大制作のためにクリアすべき問題を的確につかんでおられたことです。
そして、調整段階でもいろいろとご無理をお願いしましたが、設計意図、譲れない部分を理解してくださり、最終的にはこちらの想像以上にきれいに仕上げてくださいました。

   
  でも、何より大西さんを尊敬したのは、本番前に自分のデザインに対する迷いを吐露した私への以下のような返答でした。
「私も迷ったんです。もっと細くした方がかっこよく見えると思いましたし、落選した案のなかには一見もっとかっこいいものもあったんです。でも、今までの経験から言えば、意外なものというか、重量感、杉の密度があるものが評価されるんですよね。だから、このほうがいいんじゃないかと思って敢えて言わなかったんです。」
   
  あれ!?
まったく褒められていないんじゃないか!?
   
  一瞬戸惑いながらも、不思議と嫌な気持ちは一切しませんでした。
それは大西さんの誠実な人柄もあるでしょうし、作り手としての感性の素晴らしさに触れたからかもしれません。 見た目を気にして外見を取り繕うよりも、コンセプトに忠実な素直で素朴な造形をする方が「屋台骨」が訴えたいことが伝わりやすいはずだ、大西さんはそう判断してくださったんだと思います。
  設計者の意図、そして言葉にしなかったことまで読み取ってくれる制作担当者に出会えたことに感謝しています。
   
  本番のプレゼンテーションでは思いのほか緊張せず、とても楽しんでしまいました。
大阪人の性か、最終選考会が近づくにつれ、プレゼンテーションで話したいことや放ちたいダジャレが浮かび、言い忘れ防止のためキーワードやイラストを書いたスケッチブックをめくりながら話すことにしました。
審査員の南雲勝志さんからは「デザイナーらしからぬマジック書きの紙芝居」と評されましたが、「あれも意外とよかったよ!」とのお言葉をいただきました。
もちろん自分でも危ない橋を渡ったという自覚はあります。
まさに紙一重だった気がします。
   
  審査員の方々は私が言うまでもなく各分野で活躍されている著名な方々ばかりで、夢のような時間でした。プレゼンテーション後の質疑、懇親会でお話させていただいたことのなかから多くのことを学びました。それらは今後の自分の活動において大きな支えとなり、また戒めともなることと思います。
私が下手なりにも思いを込めて丁寧に設計にあたったことを感じ取ってくださったことが何より嬉しかったです。裏返せば、いくら見栄えがよかろうと「心」のない上辺だけの小手先のデザインに走ろうものなら、すぐに見破られてしまうでしょう。それは、自分の言葉で思いを語り、素晴らしい提案がなされていたことに感動した子ども杉コレから学んだことでもあります。
審査委員長の内藤廣さんは、著書のなかで「デザインすることは翻訳することに似ている」と書かれています。よいデザインとは読み取る相手の立場にたった翻訳ではないだろうか、そのように解釈させていただいております。
優しさ、誠実さ、思いやり。
審査員の方々から教わったそんな「心」を大切にした素直なデザインがこれからできるよう、日々精進したいと思います。
   
  今回の宮崎での滞在では、素晴らしい経験、出会いがたくさんありました。
杉コレ当日は、安田圭沙さんデザインの「だっこのいす」がつないだ岩手県野田村とのあたたかい関係、野田村の小田村長さんの前向きな姿勢からも多くのことを学びました。
また、一般の部では他の入選者の方々のプレゼンに大笑いさせていただきました。仲間意識と言いますか、戦友のような絆が生まれた気がしておりまして、今後もお付き合いが続くことを願っています。
前日に訪れた日向市駅では構内を見学して改札を出るときに、お客さんに対応中の駅員さんが駅の建設過程をまとめたパンフレットをサッと手渡してくださったことに感激しました。
また、杉コレ翌日に訪れた日南市の堀川運河では偶然南雲さんのお姿を発見し、勇気を出してご挨拶したところ、帰りの時間が迫っているにもかかわらず、同席されていた日南市役所の方々や夢見橋の施工を担当された熊田原さんに私を紹介してくださり、橋やオビダラ館を解説つきで見学するという幸運な経験ができました。
   
  杉コレクションがきっかけで生まれた人のつながり、それは今回いただいたグランプリ以上に私にとって貴重なものです。また、私がそのような恩恵を受けることができたのは、宮崎木材青壮年会連合会の皆様をはじめとする運営に携わられた関係者の方々の一年間かけてのご準備・ご尽力があってのことと思います。
初めて訪れた宮崎は、杉も人もあたたかかったです。
皆様、本当に有難うございました。
   
 
  大阪の家具職人、堂本広明氏(木工房堂さん)協力による二次選考提出模型。サービスしていただいた制作費代わりに宮崎の焼酎と地鶏をお渡しし、喜んでいただけました。
 
  最終審査を待つ『屋台骨』。目の所には七輪が入ります。(photo/(c)ブーフーウー)
 
  「紙芝居」と評されたスケッチブックを使ったプレゼンテーション。
   
  質疑・講評時に「骨」の隙間に集まる審査員の方々。実はこの瞬間がとても嬉しかったです!   懇親会で制作担当者の大西一徳氏(株式会社トーア)と記念撮影。 本当に有難うございました!
 
  最終審査会の様子(photo/出水進也・南奈緒子)
 
  杉コレ翌日、日南市堀川運河での幸運な出会い。右から夢見橋の施工担当者熊田原氏、日南市役所飫肥杉課河野氏、元飫肥杉課長松山氏、南雲勝志氏、筆者。
   
   
   
   
  ● <きし・たいせい> 
2012年より貴志泰正土建築木設計として個人での活動をスタート。
大阪府大阪市生まれ。
建築設計を志すも、大学では縁あって(点が足りなくて)土木を学ぶ。
土木に魅力を感じつつ、卒業後建築の道へ。
 「土木」の大らかさ、「建築」の繊細さが融合したデザインを目指す。
facebook:https://www.facebook.com/taisei.kishi
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved