特集 ティンバライズ九州展 「Let's Timberize! in 九州」
  スギダラな人々探訪/第60回 「Let's Timberize! in 九州 福岡で杉騒動!」
文/ 千代田健一
   
 
 
  team Timberizeのメンバー(2010年5月、青山スパイラルにて)
   
  Team Timberizeの代表を務める腰原幹雄氏とは2009年の年末に東京大学生産技術研究所にて開催された『都市の木造建築展』以来のお付き合いで、その後、2010年に東京青山のスパイラルビルで開催された第1回ティンバライズ建築展 -都市木造のフロンティア-の時は単なるギャラリーとして参加させてもらった。
  東京の都心部の中でも極めてメジャーな施設、スパイラルのギャラリー空間を借り切っての実物大展示には、圧倒的な迫力があり、「よくもこんなに派手にやらかしたもんだ! 一体、どこからこんなことができる軍資金を集めて来たんだろう?」と、このチームのネットワークの広さと深さに感心させられたことを覚えている。
   
  展覧会に行ってみるまで全く知らなかったのであるが、スギダラとも極めて関わりの深い宮崎の川上木材、ランバー宮崎協同組合、ウッドエナジー協同組合が実物大のモックアップ木構造物の製作に多大なる協力していたという事だ。ある意味、この時点からスギダラとの接点はあったことになるが、その後の静岡、なごや、北海道における巡回展覧会ではこれといった関わりもなく、千代田としても傍から見ているだけの出来事になっていた。
   
  それから、2012年の6月。災難?はいつもこの人の電話から始まることが多い。スギダラ本部デザイン部長若杉浩一からの電話。大体電話かけてくる時は誰かと呑んでいる時だ。「今、腰原さんと呑みよったい!で、今度は福岡でティンバライズ展ばやりたいらしいけん、お前、協力してやってくれ!いいか、千代田、福岡で杉騒動ば起こせ!」
   
  概ねこんな感じだったと思う。恐らく若杉さんは腰原さんからの話を聞いて、福岡には千代田がいるから窓口となって一緒に何かできると踏んだのであろう。その時、腰原さんともお話しして、「ティンバライズとスギダラケじゃなくて、ティンバダラケとスギダライズ」みたいな事をふざけて言いあっていたのであるが、翌朝改めて企画の概要を問い合わせたところ、その翌週の土曜にメンバー会議をやるため福岡にやって来ると言う。恐ろしく軽いノリで、「ご参加可能な方はご連絡いただければと思います。」という一文が添えられていた。杉騒動と言うからには、スギダラとしても北部九州の主要メンバーをお引き合わせせねばと思い、早速、召集をかけた。たまたま、元内田洋行若杉デザインチームにいた山田君(現在は他部署)が同じ日に福岡に遊びに来るという偶然も束ねて、スギダラサイドは北部九州支部長・溝口陽子さん、同広報宣伝部長・佐藤薫さんを始め、JR九州の津高さん、佐賀大の平瀬有人さん+山田君ご夫妻という布陣で迎え撃つことになった。
   
  この会合が福岡での杉騒動のキックオフミーティングとなり、東京から腰原さん、布施さんのteam Timberizeメンバーに加え、九州の方からは九州大学工学部建築の末廣香織さん、九州大学芸術工学府建築の井上朝雄さん、福岡大学構造の稲田達夫さんといった事務局予備軍の方々が集まり、スギダラがどんな風に関われるかディスカッションさせていただいた。
   
  その時点で、team Timberize側の実行委員責任者は布施靖之さんに決まっていて、九州側の事務局代表は九大の末廣香織さんに概ね決まっていたようで、、、いや、腰原さんがそう決めてかかっていたようであるが、末廣さんはこの振ってわいた災難?にその時はかなり不安を持っておられたんじゃないかと思う。 そんな中、無責任に飛び交う調子の良いアイデアや意見の応酬の盛り上がりを見て腹をくくったのか、その翌週には末廣さんから事務局代表宣言と共に展覧会の企画書の草案が届き、晴れてプロジェクトがスタートすることとなった。これが6月末のことである。
   
  参加する学生が動ける時期的な問題もあり、展覧会は11月に行う、ということが当初より想定されていたことから、逆算してもそんなに準備期間がある訳でもない。スギダラにとって、11月は杉コレクションというビッグイベントが控えているし、本当に大騒動になることは必至であった。一方では、天草支部の森支部長から11月の杉コレの後に天草でも伐採イベントなどをやろう!という話を受けていたので、スケジュール調整だけでも一騒動だった。
   
  結局、会期が2012年11月17日(土)〜25日(日)に決まったのは、7月の末のことだったと思う。準備期間は3か月ちょっと。その間に製作するものは製作し、広報活動も行わなければならない。かなりタイト、というかかなり無謀なスケジュールだと思う。スギダラも共催すると宣言した以上、ALL九州でみんなに協力してもらわないと騒動にもならない。なので、九州各地のスギダラ主要メンバーに以下のように要請した。
   
 
  担当者 内容
1 杉の木クラフトさん+クラフト仲間たち 木工クラフトの展示即売ブース
2 天草 森商事さん 製品展示と森のたからものづくり&木の遊び場コーナー
3 日田の皆さん 水面の盆で製作した屋形屋台を使って日田杉のPR
4 日南飫肥杉デザイン会 杉製品の展示
5 有馬晋平さん スギコダマ展示&ワークショップ
6 宮崎県 9月に福岡で展示予定している杉インフィルの展示、杉コレクション2012の巡回展示
   
  結局、杉コレの巡回展以外の全てを動員することができた。さすがにスギダラメンバーはこういう時に頼りになる。
   
  過去のティンバライズ建築展を少なからず見聞きしている千代田の狙いとしては、スギダラが参画することによって、展覧会に来場していただける客層を拡げて、建築や構造といったことに日頃はあまり関心の無い方々にもティンバライズが目指す都市における大規模な木材活用の可能性を感じとっていただくということだった。また、その逆も然りである。建築における木材活用を目指している人々に、もっと身近なところから木との触れ合いによってコトが起きて行くこと、木が繋いで行く様々な可能性を感じとっていただきたいということだった。
   
  スギダラでは「一家に一台杉の家具」をキャッチフレーズに日々の生活の中で木の存在、特に日本中どこにでもある「杉」の価値を見直すことによって、日本の社会が失って来たものを取り戻そうとして来た。
  ティンバライズは木材という炭素の塊を都市に蓄積して、都市部に森林と同じ効果を持ち込むという発想で、都市を木造化することを推進、訴えて来た。
   
  スギダラもティンバライズも根っこのところでは共通した考えに基づいてコトを起こして来ている。それは「循環」ということばで括れるような気がしている。化石燃料の燃焼に代表される二酸化炭素の生成による地球温暖化とその燃料自体の枯渇問題。エネルギーの大量消費が始まった18世紀末の産業革命から200年余りの短期間にエネルギーの「循環」システムに代表される社会の仕組みが激変してしまい、経済成長による利便性や豊かさをむさぼって来たわけである。人間の体も血の巡りが悪くなるとうまく機能しなくなるのと同様、地球環境も大気やエネルギーをうまく「循環」させていかなければ破たんする。そんなよりよき「循環」をつくって行く上で、木という生産可能な資源は格好の材料であるし、特に木材が使われずに困っている日本にとっては「渡りに舟」とも言えるテーマだと思う。
  共に地球環境の新陳代謝を促し、よりよき「循環」のシステムをこれからの未来のために作って行こうとするものだと思う。
   
  「ティンバライス」×「スギダラ」の出会いは互いの活動を加速し合えると思ったし、参加した個々のメンバーを通し、新たな繋がりも生まれた。来場客も建築やデザイン関係に留まらず、木育ワークショップイベントを目当てにした親子連れの方々にも多数来場いただき、客層を拡げられたと思う。木のクラフト、遊具、屋台など、今までにない賑わいを会場につくることができて、期間中の集客数1400名という数字の割には盛況感のあるイベントになった。特にシンポジウムと木育ワークショップを開催した2日間は熱気溢れる盛況だった。
   
  短い準備期間のなかで何とか開催にこぎつけたのは、事務局代表の末廣香織さんと九大末廣研究室のメンバーを始めとする学生メンバーの働きによるところが大きい。会場の確保、スケジュールの調整、搬出入や設営の段取り、機材の用意、フライヤーやパンフレットの作成等々、やるべきことは膨大だったが、死力を尽くしてやってくれたと思う。
   
  会場設営においても、外部委託したのは宮崎県の杉インフィルと受付カウンター、エントランスパネルの施工解体のみで、あとは参加研究室の学生たちのボランティアでやってのけた。
   
  木に関わる展覧会なので、設営にも極力木材を使って展示することを心がた。スギダラ仲間の三宮康司さん(志村製材)や九大建築OBで千代田の高校の同級生でもある塚本要二郎さん(富士産業)には針葉樹合板など展示台の材料を協賛していただいたり、受付カウンター、エントランスパネルは銘研工業さんに材工共に協賛していただいたりと、各協賛、協力企業団体の支援もあり、スギダラケ、ティンバダラケの空間をつくることができた。
   
  少ない予算でも、木という材料には工夫の余地がたくさんあって、空間に心地よい雰囲気を作って行けるということを学生諸君にも体感してもらえたのではないかと思うし、今後、木を使った建築を考えて行く上で、「木づかいの心」とも言えるような何かしらのヒントをつかんでくれたのではないかと思う。 今回の福岡でのティンバライズ展を通して、九州で建築や土木、デザインを学ぶ若者が木材の一大生産地である九州においてもっともっと新しい木材活用の可能性を発掘して行こう!という気持ちになって研鑽を積んで行って欲しいと思う。
   
  この展覧会を実施するに当たって、一緒になって汗をかいてくれた末廣さん、布施さんを始めとする事務局メンバーの同志の皆さんと多大なる支援をいただいいた協賛・協力企業、団体の皆さま、この展覧会を一緒につくり共に楽しんでくれたスギダラ北部九州、天草、宮崎飫肥支部の皆さまへ感謝!!!ありがとうございました。(ち)
   
   
   
   
   
   
  ●<ちよだ・けんいち> インハウス・インテリアデザイナー
株式会社パワープレイス所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
『スギダラな人々探訪』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_chiyo.htm
『スギダラな人々探訪2』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_chiyo2.htm
   
 
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