特集 ティンバライズ九州展 「Let's Timberize! in 九州」
  実行委員による総括
   
 
   
  総括    
      文/ 八木敦司
   
  ぐりんぐりんのある公園は、海からの風がつよく、ふきっさらしの場所。近くには巨大な高層住宅がそびえ立っていて、タクシーの運ちゃん曰く、“格差の塔”なのだそうな。最上階は2億越え、低層階は2千万。。。そのデザイン性と海際に独居する姿が現実感を喪失させ、青一面の空に描かれた一枚の絵のように思えた。
 

会場に入るとそこは、立体感と奥行き、匂いとざわざわ感のある空間だった。強い風に負け気味だった身体も心も生気を取り戻したようだ。何よりも、とても自然に人々が集っている。ぐりんぐりんの有機的な形態も効果ありだが、一番は、木。木。木なのですね。

  これまで開催してきた展覧会のたびに木の持つ“人を安心させる特質”に気づかされてきました。香りだけでなく、多孔質な素材が持つ独特の包容感。静謐であろうが猥雑であろうが全く問題ない!スーパーな素材感。これによって、2次元的な絵画空間ではない3次元的な奥行きと空気感を持つ場所へと建築空間は導かれるのです。
 

この展覧会が、過去のティンバライズ展と違っていたところは、大学関係者の提案展示に加え、すぎだらけの屋台やショップ、こどもワークショップコーナーなどが加わることで、こどもから大人までの日常の風景を包含し、それが、木の空間の持つ“人を安心させる特質”を引き出していたことであり、それによって素晴らしい展覧会になったのは言うまでもありません。

   
 
●<やぎ・あつし> 
スタジオ・クハラ・ヤギ一級建築士事務所 共同主宰
東京電機大学未来科学部建築学科 講師
NPO法人team Timberize 副理事長
   
   
 
   
   
  総括 / ティンバライズ賞として選定した2つの作品について
      文/ 久原 裕
   
  地元を舞台に都市木造の提案を行う「提案展示」は、東京(表参道)、北海道(札幌)に続き福岡(博多)が三度目でしたが、これまで同様に充実した力作が揃いました。今回は大学のチームからの提案のみでしたが、木造の最新技術を用いて斬新な空間表現に挑むという難しい課題に見事に応えてもらえたと思います。
 

ティンバライズ賞として選定した2つの作品について。「FLOATING ARCHITECTURE」は、大断面集成材の新技術と軽量な木構造の特徴を組み合わせたメガストラクチャー。論理的に思考しながらデザインをダイナミックに展開している点を評価しました。そのモダンでシャープな造形感覚を、木の冗長性に合うような表現(揚裏の木格子のような)へと変えていけると、より深く発展していけそうです。

  「WOOD+ONE」は木を他の素材と組み合わせた4つの構法による4つのペンシルビル。派手さはありませんが、木を新しい材料と捉え着実にアイディアを積み上げて得られたデザインであり、幾つかの空間的な可能性が感じられる点を評価しました。都市的な観点から、小さな木造のビルを散在させるとどんな風景が描き出されるか、という提案を見せてくれると更に面白くなるでしょう。
 

その他の受賞案や惜しくも受賞を逃した提案にもそれぞれ見どころがあり、全体としては大変素晴らしい成果となりました。チーム・ティンバライズとしては、各地の提案展示を総括する機会をいつか作りたいと考えています。

   
  「FLOATING ARCHITECTURE」大分大学 合同チーム   「WOOD+ONE」九州産業大学 矢作研究室+ABC 建築道場
 
  会場風景
   
 
●<くはら・ひろし> 
スタジオ・クハラ・ヤギ一級建築士事務所 共同主宰

愛知産業大学通信教育部造形学部建築学科非常勤講師
東洋大学理工学部建築学科非常勤講師
NPO法人team Timberize 理事
   
   
 
   
   
  「Let's Timberize! in 九州」設営レポート
      文/ 山田敏博
   
  「Let's Timberize! in 九州」は、ティンバライズにとって東京ではじまったティンバライズ建築展の4ヶ所目の巡回展でした。これまでの静岡、なごや、北海道と今回の九州での展覧会が異なる点は、日本全国スギダラケ倶楽部との共催だったことです。そのため、バラエティに富んだ展示構成になりました。これまでの展覧会はティンバライズが用意した展示物と提案展示で構成されていましたが、今回はそれに加えて、宮崎県産の杉インフィルや日田の屋台、飫肥杉のプロダクツ、木の遊具などさまざまな展示がありました。子どもワークショップも行われ、いろんな視点から木の新しい可能性を発見する機会になったと思います。
 

一方、設営に関していえば、そのバラエティの豊富さゆえに難易度が上がったといえます。そして、これまでの展覧会より設営時間が短かったことも心配の種でした。しかし、そんな心配をよそに、設営当日は予想よりもたくさん集まった設営チームによってどんどんと作業が進んでいきました。

  もちろん、すべてが順調だったわけではありません。会場である「ぐりんぐりん」の床がフラットじゃなかったために急遽レイアウトを変更したり、時間通りに届かない荷物があったために設営順を入れ替えたり。その度に、設営チームのみんなが機転を利かせて、笑顔で楽しみながら参加してくれたおかげで、無事に開催にこぎつけることができたのです。
 

主催者や共催者にとって、開催期間中だけが展覧会ではありません。むしろ、企画や設営、撤収作業中こそが展覧会だといえるでしょう。企画のなかで改めて木を見つめ直し、設営で木に触れ、未来のヴィジョンを共にする仲間と協力して展覧会をつくりあげる。そんな大切な時間にいつも感動します。そして、それが次のステップへつながっていくはずだと確信しています。

 
  設営風景 (photo:「もりのできごと」ブログ )
   
 
●<やまだ・としひろ> 
一級建築士事務所 HUG主宰
NPO法人team Timberize 理事
   
   
 
   
   
  総括
      文/ 宮崎慎也
   
 

福岡大学では1年生から大学院生まで約30名程度の学生が参加し、学生が主体的にチームを運営しながら、作品制作に取り組みました。学生の関心も高く、私にとっても「木質構造」を新たに勉強する機会になり、このイベントに参加できて本当に良かったと思っております。大学人としては、この盛り上がりを一過性のもので終わらせずに、研究や設計課題などを通して、学生と一緒に「木」について考え続けていくことが重要と思っています。

  また今回、スギダラケ倶楽部の千代田さんを通して、「杉」にまつわる全国各地の地場的活動の様子が分かったこと、九州の「杉」関係者の方々と実際に会ってお話が聞けたことなど、大変興味深かったですし、若杉さんの講演では、楽しいトークとともに、たくさんの活動報告があり感心しました。「建築構法・構造」というと、何か難しそうなものを想像してしまいがちですが、ワークショップでは子供から大人まで夢中に「杉」を磨いているのを見て、素材としての可能性を改めて再認識した次第です。
 

「木の新しい可能性」と題した展覧会でしたが、プロダクト、アート、家具、そして建築まで、様々なスケールと分野を横断的にまたがるネットワークができるのも「木」の一つの可能性ではないかと考えます。他の素材では、考えられません。このようなネットワークを一つの社会資本として考え、育てていくことは重要ですし、私自身も認識を改め、少しでも貢献できるよう活動していきたいと思いました。そのような意味でも、今回の展覧会は大変意義深かったと思いますし、参加することができて関係者の皆様には大変感謝しております。今後とも色々な活動でご一緒できることを楽しみにしております。

   
 
●<みやざき・しんや> 
福岡大学 工学部 建築学科 助教
   
   
 
   
   
  都市の居場所をティンバライズする。 - 「Let's Timberize! in 九州」に参加して考えたこと -
      文/ 佐久間 治
   
 

「Let's Timberize! in 九州」のプロジェクトに参加できたことで、改めて都市における大規模木造建築の可能性や意義について考える共に、博多の商業中心地区、天神西通りの木質を活かした都市の居場所としての可能性を提示できたことは、とても有意義な機会だったと思います。

  提案で目指した都市木質化のビジョンは、高機能のエンジニアリングウッドや特別な構造・構法を駆使した特殊解としての建築ではなく、日本人が木と共に育んできた文化としての軸組架構を発展させた社会に普及しやすい一般解としての建築であり、そのような、日本建築が培ってきた美的、身体的、親密性を伴う木質で、立体的な都市木造を構成することを試みました。
 

結論としては、尺や間をベースとしたモジュール(2.73mx3.64m)で列柱回廊をつくり、それを積層させて立体フレームを構成し、そこに45度振った中層空間を挿入するシステムを採用し、この立体フレームを角地にL字型に配することで、南東に都市広場を形成する提案としました。

  機能は複合商業施設とし、天神西通りにバラバラに点在していたブティックを立体フレームの中にランダムに配置することで、お互いの相乗効果を期待できる商業集積とし、広場についても、博多っ子が最も愛する祇園山笠やどんたくの舞台としての活用を想定した構成にしています。
 

日本の木造のスケールとテクスチャーを伴った大型都市木造建築を、都市スケールの中に、広場という中間スケールの場を介して挿入することで、人々が都市の中で呼吸をしながら、自分たちの様々な居場所を発見できるような計画を目指しました。

  今回、このような機会を提供くださった腰原先生をはじめとするティバライズの方々、末廣先生をはじめとする参加された北部九州の大学の方々、そして千代田さんをはじめとする日本全国スギダラケ倶楽部の方々には大変感謝しています。このようなプロジェクトを通じて、日本に更に魅力ある都市の木質空間が普及していくことを切に望んでやみません。
   
 
  九州工業大学 佐久間研究室による提案「天神 WOOD SQUARE 西通り」
   
 
●<さくま・おさむ> 
九州工業大学大学院工学府建設社会工学専攻 教授
   
   
 
   
   
  総括    
      文/ 平瀬有人
   
 

 「Let's Timberize! in 九州」展に参加させていただき、学生たちと木の新しい可能性を勉強しながら試行錯誤してプロジェクトをまとめあげるとても良い機会でした。実はteam Timberizeの活動にはかねてより興味を持っており、何らかのコミットをしたいと思っていた矢先のタイミングでした。さらに、2010年の杉コレクションへの関わりをきっかけに、日本全国スギダラケ倶楽部の活動にも深く共感し、いくつかのイベントには参加させていただいておりました。思えば、その私の興味ある二団体が一緒になって企画したこの展覧会への参加は必然だったのかもしれません。

   私たちは「光と木の積層」と題した提案を行いましたが、単に木を用いることで暖かみのある情緒的な空間をつくりだそうとしたわけではなく、現代の技術があるからこそできる新しい普遍的な建築の提案につながらないかと考えました。近年、LVL(単板積層集成材)による2m角の木ブロックをつくりだすことが技術的に可能な背景があり、そうしたソリッドな木の塊を積層させることで、まるで蟻の巣のような掘削した造形が新たな機能の関係性を生み出すのではないかと検討を進めました。デザインのスタディには3Dを用い、線・面の構成ではなかなか辿り着けない量塊の空間で、コンピューテーショナル・デザインとまでは言いませんが、柱・梁による線のイメージの木の建築とは異なった新しい木の建築の提案ができたのではないかと考えています。  
佐賀大学平瀬研究室「光と木の積層」
 

 鉄やコンクリートには出来ない「木」だからこそできる「掘る」建築。ログハウスの壁がそうであるように、木の塊は断熱などの環境制御性能も期待できます。まだまだ技術的な検証は必要ですが、将来の実現化へ向けてさまざまな検討を進めたいと思います。

   
   
   
 
●<ひらせ・ゆうじん> 
佐賀大学大学院准教授
yHa architects
   
   
   
 
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