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このくらい分厚くて(400ページほど)自然描写も多いから、きっとスギのひとつやふたつく出てくるはず、と思って読みましたが、出てきませんでした。(読み飛ばしたのかもしれないけど) | |||||||||||
でも、この物語の舞台であるイリノイ州のウォーキガンにはレッドシダーの一本や二本、生えていたのではないかしら、と、都合よく考えて、今回はこれにさせていただきます。 | |||||||||||
1928年、イリノイ州の夏。 この本の中で、いちばんロマンチックなのは、ライム-バニラアイスクリームの恋。31歳で独身の新聞記者の青年と95歳の「ミス」ヘレンルーミスの二週間半の逢瀬。 12歳の少年が主人公のこの物語には直接にセクシーな場面はないのですが、この章はある意味とてもセクシー。 ひとつヘレンの台詞を紹介しますと |
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「愛の本質はこころだとはいつもわかっていましたよ、たとえ肉体がときにこの認識を拒絶することがあっても。肉体はそれだけで生きているんです。食事をし、夜を待つだけのためにそれはいきているのですよ。本質的に夜のものなのね。でも、太陽から生まれたこころのほうはどうなの、ウィリアム?一生のうち何千時間となく、目ざめて意識しながら過ごさなきゃならないのよ。あなたは、あのみじめで利己的な夜のものである肉体を、太陽と知性の全生涯につりあわせることができて?わたしはわからないわ。わたしがわかるのはただ、ここにあなたのこころがあり、ここにわたしのこころがあって、ともに過ごした午後にくらべるべきものはわたしの記憶にないということね。。。(中略)。。。時間はとても不思議なもので、人生はその二倍も不思議だわ。歯車が欠け、車輪がまわり、人生が交錯するのも早すぎたりおそすぎたり。わたしは長く生きすぎました、それだけはたしかね。そしてあなたは生まれるのが早すぎたか、遅すぎたかのどちらかだわ。ちょっとしたタイミングがおそろしいものね。でもたぶんわたしは愚かな娘だった罰をうけているのよ。とにかく、次のもう一回転したときは、車輪はふたたびうまく働くかもしれないわ。。。。」 | |||||||||||
この話をした二日後にヘレンは死にました。 | |||||||||||
こんな老婦人がでてくるかと思えば、主人公ダグのおばあちゃんは料理の魔法使いとして登場。簡単にいうとカオスのような散らかった台所から絶品が生まれるのです。そういえばナチスドイツのキッチンっていう本も、読み逃しているなあ。システム合理化されたキッチンがナチスからはじまったと書かれているとか。読まなくちゃ。 それはともかく、おばあちゃんの料理。 遠くからやってきた(おそらく進歩的な)ローズおばさんが「これなんていう料理?」ときいても、だれもわからない。ただおいしいだけ! |
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長年ずっと、どの料理として同じようなものはなかった。これは深い緑の海から採ったものだろうか あれは青い夏の大空から撃ち落としたものだろか? 泳いでいた食物なのか、飛んでいた食物なのか、血をからだに送っていたものか、それとも葉緑素をか、日没後は、歩いていたのか、もたれて死んでいたのか?だれもしらなかった。だれもきかなかった。だれも気にしなかった。 せいぜい人々のしたことといえば、台所のドアのところに立って、ベーキングパウダーが破裂してぱっと飛び散るのをみつめ、ガチャン、がたがた、バタンとおばあちゃんがまるで目がよく見えてないみたいにあたりをにらみまわし、缶やボウルのあいだをぬって指を動かしている狂った工場のような音を楽しんだくらいだった。 |
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そういうことに我慢ならないローズおばさんは、台所を掃除整頓して、なんと料理本をおばあちゃんにプレゼントします。そしたら、今までより「30分早く」料理の支度ができたけど、ちっともおいしくない。 どきっとしました。 知らないうちに、○○風の料理と名付けられたものに慣れて、そういう料理がつくれたほうがいいんでないかとも思ってしまっていないかしら。よかった、もうそんな料理のきまりなんてすっとばして、自由に料理しよう、と確信した章。 |
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また、引用します。 | |||||||||||
おばあちゃん、とダグラスはこれまでもしばしばきいてみたかった。ここが世界のはじまる場所なの?なぜなら、世界はこのような場所ではじまるしかないものときまっているからだ。台所は、疑う余地もなく、創造の中心で、すべてのものはこの周囲をまわっていた。それは神殿を支える切り妻壁なのだ。 目を閉じて花をくんくんさせ、深々とにおいを嗅いだ、地獄の業火のような蒸気と、突風をともなうベーキングパウダーのにわか雪のなかを動きまわった。この不思議な地帯こそ、目にインド諸島の人々のような表情をたたえ、胴着には二羽のかたくしまった暖かいめんどりの肉を包んだおばあちゃん、千本の手をもったおばあちゃんが、ふりまぜ、肉にたれをかけ、泡立たせ、かきまぜ、こま切れにし、賽の目切り、皮をむき、包み、塩を使い、かきまわしする場所なのだ。(中略) 彼女は自分の才能に気づいていたのだろうか。自分の料理のことをたずねられたら、なにか輝かしい本能に送り出されて、小麦粉を手袋がわりにまぶし、あるいは内臓を取り除いた七面鳥を、動物の魂をもとめて手首の深さまでまさぐる旅に出た、自分の手をあらためて見下ろすことだろう。(中略)彼女はときどきコーンスターチをステーキに、おどろくほど柔らかく、汁のしたたるステーキにふりかけてしまうのだ! またときには杏をミートローフに落とし、肉、香料植物、果物、野菜をなんの偏見もなく、決まった調理法や料理法はいっさい認めないで、たがいに他花受粉をおこなわせるのだが、ただいよいよ出来上がりというときには、それに応えて口からよだれが出、血がどきどきうつのである。」 |
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創造物はいつだってカオスから生まれる。 | |||||||||||
タンポポがいっぱい咲いたら、今年こそタンポポのお酒、仕込んでみよう。自分のやり方で、タンポポにききながら。 | |||||||||||
●<いしだ・のりか> フリーランスキュレ−タ− 1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。 「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。 近著:「藍から青へ 自然の産物と手工芸」建築資料出版社 草虫暦:http://xusamusi.blog121.fc2.com/ 『杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori.htm 『小さな杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori2.htm 羊毛手紡ぎ雑誌「spinnuts」(スピンハウスポンタ)に「庭木の恵み」を連載。 「マーマーマガジン」(mmbooks)に新連載「魔女入門」スタート。 |
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