では、杉問題を解決するにはどうすればいいのだろう? 答えはしごく簡単だ。杉をどんどん使っていけばいいのだ。しかし、それが難しい。産地から製材屋、材木屋、工務店、建築家やデザイナー、一般ユーザーまでといった流れの中で、需要を上げられるようなネットワークや仕組みづくり、方法論がなかなか見い出せずにいる現状がある。我らスギダラ倶楽部やこの月刊『杉』も、そういったネットワークづくりのために存在している。各産地でも、さまざまな活動が展開されており、今回特集の中で紹介している日向の杉コンペも杉の普及を目指した試みの一つとして大いに期待されるところだ。
また、モノづくりの世界でも、最近、世界的に注目を集めたプロジェクトがある。飛騨産業とイタリア・デザイン界の巨匠エンツォ・マーリによる杉圧縮材の家具だ。強度が足りないという杉の欠点を圧縮材にすることで克服し、同社の杉の家具シリーズWAVOK(佐々木敏光デザイン)に続く、これまでに類を見ない家具を生み出している。その圧縮技術開発にはかなりのコストがかかっており、それが可能となった背景には、岐阜県高山
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の森林組合、製材業者、家具メーカーなど5社が集まって「飛騨杉研究開発協同組合」を設立し、地域で取り組んだということがある。杉圧縮材という新素材がどのような可能性を持っているのか、国内外の市場にどう受け入れられていくか、また地域上げての取り組みはこれからの展開にどのように反映されていくのか、などなど、これからも見続けていきたいと思う。
第一回目から、カタく書いてしまったけれど、ようは単純なこと。私たちが杉との暮らしを楽しめるようになれば、きっと未来は必然的に明るいものになるはすだ。
杉材で作った住宅じゃなくても、たとえそれがマンションでも杉の皿一枚で暮らしは変わってくる。杉の未来は日本の未来であり、それは今こそ、私たちが自分らの手でつくってゆくものなのだ。
●<うちだ・みえ>編集者
インテリア雑誌の編集に携わり、03年フリーランスの編集者に。建築からインテリア、プロダクトまでさまざまな分野のデザイン、ものづくりに興味を持ち、編集・ライティングを手がけている。 |