連載

 

スギダラ家奮闘記/第8回

文/構成 若杉浩一

「スギダラビル計画奮闘記録 」

 
 


 さて、体制は整いスギダラビル建築計画に向けチームは結成された。大手ゼネコン、若手の設計チーム、そして寺田デザインチームに、我が社のインテリアデザインチーム(ちなみに、私が属しているプロダクトチームではなく、インテリアデザイン部門が独立しデザイン会社となった部隊です。総勢50人ほどの会社で、インテリア、オフィスデザイン、コンサルティングを行っています)。そして石橋親方、という具合に設計、実施、入居者としてのキャラクターが揃ったのであった。
 しかし、一つ問題があった。大親分の期待と思いとは裏腹に、入居部門であるインテリアデザインチーム(以下、仮にP.Pと呼びます)はこのビルに全員は入居できない事、そして何より忙しい中、やらされているという被害者意識が蔓延していた。「なんで俺たちがやんなきゃいけないんだ、若杉達でいいんじゃないの?」って感じなのである。おまけに、デザインを放出したい寺田さんや、何とか自分で設計したい若手設計チーム、熱い思いでチームを引っ張ろうとする我が軍の石橋親方といった暑苦しいメンバーの中で、P.Pは取り残されたって感じになっているのである。
 だから、色々なアイデアが出て来ても判断出来ないし、したくない。いつもやられっ放しなのでかえって自分たちの特殊事情を振りかざしてしまう。これじゃ、うまくいかない、チームを引っ張っていくモチベーション、意思が形成されてないのである。
 またまたこんなことで頓挫してしまうとは、全く簡単ではないスギダラビル、本来の設計やデザインの前に大きな問題がチームを悩ましていた。
 こうなりゃ、やけくそである、皆の前で喧嘩をふっかけてしまった。
「誰のためなんだ、何の役割を持ってんだ〜〜」「俺おりる!!」「最低のやつだ〜〜!!」
 組んず解れつ、になってしまった。しかし結果、本音をしゃべる事が出来た。
 ひとしきり暴言を吐き終えて。
「飲みにいこう!!」と言った。
「付き合えない!!」
 しかし、寺田さんと飲んでいる飲み屋に後からP.Pチームが照れくさそうに現れた。
「いける」そう確信した。チームは新たに結成され、大いなる野望に向け、寺田、石橋、P.Pのメンバーでリードする事を理解し計画作りへと突き進むことになる。 
 それじゃ寺田さん! 出来上がったプランを少しご披露ください。

 
 

<以下、テラダデザイン関係者談>
 
   
 

「もう気にいらないんだったらクビにしてくれてもいいんですよ!!」
 チームが結成されてから数ヶ月、大手ゼネコンの生え抜き設計担当者も巻き込んで幾度となく設計打ち合わせが行われ、様々なプランが提示されても議論が核心に全く迫らない行き詰まった状況で、寺田がP.Pのメンバーに言い放った言葉でした。寺田はクライアントであるP.Pに対して完全に「逆ギレ」状態でした。この時ばかりは本当に辞めてしまってもいいと寺田は考えていたようです。この段階で提示されたプレゼンテーションは既に100枚以上に上り、検討模型も大小合わせ10個程にはなっていたのです。
「出しっ放しのそれっきり……」
 寺田はそんな人生には慣れっこになっているつもりでしたが、期せずして今回もそうなってしまうのかと半ば自嘲気味な気持ちになっていました。しかしその後、飲み屋で鬱積したエネルギーを若杉さんにドロドロと垂れ流していたところにP.Pのメンバーが顔を出してくれたのでした。心のなかには釈然としないものはありましたが、なにか希望が見えた気がしたのです。
 大洪水の後、ノアが箱船から放ったハトがオリーブの枝をくわえて帰ってきた……、そんな希望が見えた瞬間でした。
 よーし!! それならやるぞ!!
 寺田はスタッフを言いくるめて、またもや徹夜モードです。
 しかし、いままで出したアイデアを再度見直し、最終案へと収斂させていく作業はそれほど大変ではありませんでした。アイデアはもう出尽くしていたのです。

・ 地域と企業とのコミュニケーション
・ 働く人同士のコミュニケーション
・ エコロジーについての企業としての取り組み
・ 建築/内装/家具が渾然一体となった可変可能な自由な空間

 以上のようなコンセプトで最終案は突き進んでいきました。

 


最終案にいたるまでのアイデア案
100枚以上にのぼるプレゼン資料のごく一部。多くのアイデアが量産され激論が闘わされたのでした。

最終案パース
スギダラの精神?が建物の外観に、雄々しくもまた、凛々しく表現された最終案。遠近感を強調し、屹立したタワーのイメージはテラダデザインの精神構造(いや、肉体構造)を無意識に表現しているといえるでしょう。

最終案断面図
建築法規にとらわれない自由な空間構成が可能な吹き抜け空間。可変可能な外装のエコユニット。竣工した段階でデザインが終わるのではなく、それから真のデザインが始まる建築。わくわくします。

幾度となく明けぬ夜を乗り越え、スギダラビル最終案へと漕ぎ着け安らかな休息の時を迎えたメンバー。きっとスギダラビル竣工の夢を見ているのでしょう。同じ夢を見ることができるのは幸せです。

 嗚呼、幸福な達成感……。
 しかし、残念ながらこの案が日の目をみることはなかったのです……。

まだまだつづく。

以上、赤字経営のテラダデザイン関係者談

     
  ●<わかすぎ・こういち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない活動を行う。
日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長

 
 
 

 


 
   
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