四月杉話

 

杉とサーフィンのメッカ・宮崎から生まれた「杉のサーフボード」

文/構成 中村健司

 

 
 

宮崎といえば「杉!」
「月刊杉web版」読者の皆さんには言わずと知れたことですよね?
宮崎といえば「サーフィン!」
サーファー以外には案外知られていないのかもしれません。
実は宮崎は日本におけるサーフィンのメッカで、宮崎の海岸線は北から南まで太平洋に面していて通年サーフィンが楽しめます。宮崎の波のクオリティは高く、その波を求め県外から移住してくる人もいるぐらいです。また過去には世界大会も行われ、サーファー憧れの地でもあるんです。

そんな宮崎にお目見えした「杉のサーフボード」。
宮崎の杉を使ったサーフボードです。ありそうでなかった、なんとも興味深い、すご杉る計画が、脈々と進行中だったのです。
実は筆者も週末サーファーでこの「杉のサーフボード」の話を聞いたときは、現物をとにかく早く見たくなりました。そして数日後、児湯郡高鍋町にあるサーフショップEAST RIVERで「杉のサーフボード」との初対面。
一枚板の杉でできた全長約3m、幅60pの迫力のある「杉のサーフボード」は見る人皆に「おおー!」と感嘆の声を上げさせてしまうほどの、海で使うのはもったいないくらいの代物でした。

 
上:「杉のサーフボード」が展示してあるサーフショップ「EAST RIVE」

現在のサーフボードは発泡ウレタン素材ですが、1940〜50年代はバルサウッドでできたボードが主流でした。その昔は、木製のサーフボードはごく一般的なものだったようです。(バルサウッドは現在ルアーなどに使われていることでも知られています。)
木製のボードは重いうえに良い材料が不足しがちだったということもあり、素材の研究と開発が進められた結果、現在形へと進化してきました。
木と発泡ウレタン素材では、明らかに重さに違いがあり、木のボードはとても現代サーフィンの主流であるとはいえません。というか海で木製ボードに乗ってる人なんてほとんど見たことありませんし、むしろオブジェに近い扱いをされています。
サーフボードの素材としては重スギるともいえる「杉材」をサーフボードにして、いずれは販売も視野に入れ「宮崎の宝」に育てよう!というこの計画は2005年12月にスタートしました。

この杉ボード、事の発端は宮崎中央森林組合にお勤めのサーファーでもある松田省吾さんのひらめきによるもの。松田さんが県産杉を利用して何かできないか常々考えていたときのこと、サーファー仲間との飲み会の席で「サーフボードにしたらどうだろう!」とアイデアが浮かんだそうです。
シェイパーでS-desing Craft代表の山口ススムさん、プロサーファーでサーフショップ「EAST RIVER」のオーナー東川泰明さんがメンバーに加わり、ほどなく「杉のサーフボード」制作チームが結成されました。

さて、現在流通しているサーフボードは、そのほとんどがハンドシェイプで、その作業はまさに職人技そのものです。それなりの時間も労力も要しますが、サーフボードができるまでの作業工程はほぼマニュアル化されています。
マニュアルのない「杉のサーフボード」を作り上げるためには一体どうすればいいのか……。
いろんな意見が飛び交う中、「よし、まずは一枚の板から削ってみよう!」との結論に。こうして杉ボードの制作がスタートする事になりました。

作業はまず、児湯郡高鍋町の杉山から杉の木を伐り出すことから始まりました。
次に地元の木材加工業者に運ばれ、ボードの原型となる一枚板にカットされました。
さてここからが本番。
サーフボード制作の経験と知識が豊富な山口さんの本領発揮です。
サーフボードに適した大きさにカットされた杉の板を、サーフボードを作るときに一般的に使うプレーナーやリフォームカッターを使い削っていきます。
比較的柔らかく加工しやすい杉材とはいえ、通常のサーフボードの制作に比べるとやはり堅く、加工は思うようにいきません。
またサーフボードには「ロッカー」という構造上重要な「反り」が必要です。その「ロッカー」を出す作業が一番の難所で、結局シェイプに要した時間は従来の約3倍。しかし、山口さんは根気よく丁寧に削り、見事にロッカーをつけ、一本目の試作が完成したのです。

これが試作一本目の「杉のサーフボード」。ウレタン塗装が施されピカピカ輝いています!

上:フィンももちろん杉材で作っていて、木目が綺麗です。

 
右:ボード縦方向の端から端にかけて「ロッカー」と呼ばれる反りがつけてあります。写真では分かりづらいでしょうか……。

 

ようやく完成したボードはなんと重量70s!(現在市販されているバルサ材のボードはせいぜい30s。)
これに60sの人が乗ったら合計130キロが波の上を滑る……。
実際に「杉のサーフボード」に試乗した東川さんによると「ある意味サーフィンとは全く違う新しいスポーツをやってる感じ」とのこと。
「杉のサーフボード」と今のボードとの一番の違いは重さのようです。現在市販されているサーフボードなら、波の上でターンするなどの動作が容易ですが「杉のサーフボード」はその重さゆえ、ターンはおろか取り回しさえ難しかったそうです。東川さんはプロサーファーなんですがそれでも乗りこなすまでには相当時間がかかりそうとのことでした。また、重さの為、海まで運ぶのも二人がかりじゃないと無理だと。

杉のサーフボードで見事なライディングを披露する東川さん。ギャラリーからは拍手と歓声が沸きました。

重さをはじめ材料の問題や構造、シェイプにかかる時間など商品化するには課題が残った一本目の「杉のサーフボード」。しかし、杉で作られたサーフボードが醸し出す美しくもありかっこいい雰囲気とその存在感はサーファーならずとも心動かされる逸品です。東川さんも「極めれば楽しいかも」と笑顔で語ってくれました。

サーフィン天国・杉天国の宮崎だからこそ生まれた、杉の新たな使い途。
宮崎の地で「杉のサーフボード」は産声を上げ、第一歩を踏みだしました。
現在は2本目の制作に取組中で、これまた完成が楽しみなのです。

左奥、青いベストが東川さん、中央が山口さん、左が松田さん。2本目の制作について打ち合わせ中です。

<ボードの問合せ先> 有限会社アトラクト 担当:川畑さん
宮崎市大淀3-5-28TEL 0985-53-4345 mail info@attractablework.com
   
  ●<なかむら・たけし> (会員番号50) 浜畑産業有限会社 http://www.hamahata.co.jp 勤務
都城プロダクトhttp://www.miyakonjo-product.com
ある日、スギダラ倶楽部の存在を知り、早速会員登録。入会をきっかけに「杉で何か作れないか?」
と考えていますが、その「何か」が思い浮かばず行き詰まっている家具メーカー営業マンです。

 
 
 

 


 
   
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