鬼塚電気工事 ZEB社屋に集った思い
 

鬼塚電気工事 新社屋にかけた願い

文/尾野 文俊

   
 
 
   
  「鬼塚電気工事 鬼塚産業 本社ビル」が完成するまでの私個人のストーリーを思い出してみました。このビルに関わった人たちはそれぞれに思い出、ストーリーがあると思います。この月間杉では、みなさんの思い出を語ってもらいたいです。それでは私の思いを語ります。

2013年、2年後の春に大分県立美術館(OPAM)の開館と大分駅ビル商業施設開業が間近に迫ってきた頃、私は、大分市のトイレンナーレ(トイレの芸術祭)実行委員会のメンバーとして活動していました。そんな時期にJR九州大分支社に津高守さんが支社長として赴任してきて、津高さん特有のノリで、我々の活動に同調。トイレンナーレに合わせて、JR九州はトレインナーレ(鉄道の芸術祭)をやることを決めました。別府で開催される混浴温泉世界(3年に1度開催のトリエンナーレ)と駄洒落芸術祭が揃って実行したことが印象的でした。 そんな2013年11月に津高さんから、JR九州大分支社でアートやデザインの勉強会をするから参加するようにと依頼があり、若千代(若杉浩一さん、千代田健一さん)さんの講演を聴きました。講演か漫談か分からない内容でしたが、スギダラなる団体とその活動を知ることになりました。彼らが手がけたJR九州大分支社は、杉を多用したオフィスで素晴らしく印象に残り、いつか自社オフィスも杉の木質化を行いたいと思いました。これがスギダラとの出会いです。
「特集スギダラ大分ツアー われスギダラ大分ツアー、かく企画せり!文/津高 守」

また、私は2015年に大分経済同友会の視察でロンドンに行き、クリエイティブ・ハブとよばれていた施設を見学しました。基本、机貸しのシェアオフィスで、起業家とアーティストが同じ部屋で作業していました。同じ空間で仕事を進めるうちにアーティストの持つクリエイティブなちからが起業家に影響を及ぼして、シナジー効果を生むことを期待したオフィスです。オープンキッチンやカフェスペースなどもあり、およそオフィスらしくない内装が印象的で、自社を建て替えるときには導入しようと思いました。

それから数年後、2020年に築50年経過し老朽化した自社ビルを建て替えることになりました。私が入社した40数年前は社員数が現在の1/3程度で、業務はひと部屋で事足りていました。まだ携帯電話もない頃です。机に座っていると、社員間の会話や電話の様子で互いの仕事の状況が分かり、仕事のサポートなどが自然と阿吽の呼吸で出来ていました。ところが、社員が増え、オフィスは4カ所に分散。携帯電話を使うので誰がどのような状況かまるで分からないなど、社員間のコミュニケーション不足の問題を抱えていました。さらに、建替える場所は、ハザードマップでは3〜5m浸水する可能性があるエリアで、周囲の自治会から津波避難ビルとして利用させて欲しいと、要望もありました。また、災害が激甚化する気候変動の原因のひとつであるCO2排出量は、大分県が一番多いという課題があることも気になっていました。そこで、電気や空調・ITなどの施工が得意という自社の強みを活かして、省エネと創エネを行い、ビルのエネルギーを自給する『ZEB』(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)にしようと決断しました。
当時、『ZEB』はまだ耳に新しく、普及促進のために自社ビルをZEBのショールームとして使うことを考えました。ZEBの機能以外でも、脱炭素化に向けてオフィスを木質化することで、森林資源の循環に寄与しカーボンニュートラルに繋げたい、働きやすさも実現したいと思い始めました。 そこで思い出したのが、スギダラ若杉さんたちが手がけたオフィスでした。さっそく津高親分に連絡して若杉さんを紹介してもらいました。

2021年2月2日に若杉さんへお願いしました。前述のとおり、深〜い難しい課題を抱えていましたが、課題解決を図るオフィスを創ってくださることになりました。 そこからは怒涛の如きスケジュールでした。津波避難ビルとして防災協定を締結するために鉄骨造からRC造に変更になったり、計画途中に鉄材など建設資材の超高騰に対応するための大幅な設計変更もありましたが、建築設計の東九州設計工務 木島さんと若杉スギダラチームは紆余曲折しながらもその都度、対応してくれました。
5月19日に着工してからも仕様変更や仕様決定など、みなさんにお世話になりました。オフィス家具では内田洋行さんに加え、スギダラの大分分会長、志村製材の三宮さんも参加してくれました。全ての杉を大分県産材で、トレーサビリティ付で製作してくれました。建築チームは、清水建設の田中所長を中心として建設していきました。田中所長は直前に施工したのが東京オリンピックの有明体操競技場(木質建築でウッドデザイン賞などを受賞)ということで木質に関してはたいした経験者でした。
杉型枠コンクリートに関しても特段のこだわりを持ち、清水建設が特許を持つアート型枠工法ではなく、質感重視の従来型工法を自ら選定しました。おかげさまで玄関周辺は素晴らしい雰囲気となりました。社員たちも電気や管工事など、総合建設設備業としての実力を大いに発揮してくれました。ZEBの施工で日名子部長を筆頭に安東主任や荒木君を中心として良い施工をしてくれました。施工は毎月提出される月間工程表と1日の狂いもなく順調で2022年2月に無事竣工しました。
屋上緑化も行おうということでゴバイミドリの方々が携わってくれました。我々のカーボンニュートラルに対する考え方に共感してくれて、大分の里山由来の在来植物97種類を植えてくれました。四季折々に花が咲きこのビルに潤いを与えてくれます。故郷の木々や草花越しに見る大分の山や川は素晴らしい景観です。夕日を見ると魅入ってしまいます。また、屋内オフィスグリーンは、どの席からも緑を見て和むことができることをテーマにパワープレイスの奥さんが計画してくれました。奥さんには、アーティストとの付き合いのなかで蓄積されたアート作品の配置もしていただきました。

建設に携わってくれた全ての方に感謝します。 完成後、見学に来ていただいた方々は、ZEBの機能に驚き、木質化された働きやすく過ごしやすい環境に共感してくれています。竣工後1年になりますが、見学者が絶えません。2022年に日経ニューオフィス賞とウッドデザイン賞を頂きました。また2023年2月には、大分県より女性活躍推進事業者の表彰を受けました。理由の一つが「男女問わずシャワーや各種休憩スペースなど働きやすいオフィス環境を実現している」とのことでした。ZEBのハードと杉による木質化のソフトでマッチングされた鬼塚電気工事 鬼塚産業 本社ビルは、スギダラの皆さんと共に、まだまだ進化していきそうです。これからもよろしくお願いします。
   
   
 
  入口に設置されたコミュニティスペースにて
   
   
   
  ●<おの・ふみとし> 鬼塚電気工事株式会社 代表取締役社長
   
 
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