鬼塚電気工事 ZEB社屋に集った思い
 

新社屋への願いをかたちに

工藤 隆和

   
 
 
   
 

当社の本社社屋新築にあたり、会長や社長の思いを汲み取って実現していくことが私の仕事でした。

■お題その1「ZEB化せよ」
最初のテーマは、本社ビルを『ZEB』にするということでした。当社は太陽光パネルを設置する太陽光発電工事は得意とするところでしたが、考えてみるとZEBに不可欠な 電気、空調、ITなどをトータルに施工できるので、発電(創エネ)や省エネを行って、建物で消費する年間の一次エネルギーの実質ゼロ化、ZEB化(100%以上効果の出るZEB化は『ZEB』と表記されます。)にトライしてみようということになったのです。
ただ、『ZEB』で建てようと決まってからZEB化支援事業補助金の申請までの期間が本当に短い時間でして…。当初のプランではもっと大型のビルでしたが、ほぼ図面が出来上がった後に、採算性なども考えて規模の再検討が入ることになったのです。

おおよそのレイアウトを決め、同時進行で『ZEB』にするための装置や機器類、たとえば太陽光発電や蓄電池、外付ブラインド、水素発電、省エネ空調機などの詳細検討を進めました。なんとか補助金申請は間に合い、1か月後には環境省の採択通知を受けてホッとしたのも束の間、今度は補助金の額が決まるまで通常よりも時間がかかりまして…。何度も検討を重ねて、設備が多いせいなのでは、ということで風力発電を補助金対象から外すことにして、ようやく補助金交付決定の通知がきました。ただ、社員の実践の場として風力発電にもトライしたかったので、補助金に関係なく風力発電設備も設置しています。

尾野会長は新社屋を研究対象かつショールームとするような感じで考えていましたので、データをとるためのセンサーも大量に設置しました。10分ごとに機器類やセンサーからデータ収集を行っています。たとえば、その集めたビッグデータを分析して他の客先の省エネを行う設備の自動制御などにつなげてく構想です。竣工後ようやく1年経過し、当社のハート事業部を中心に、今後に向けて集めたデータの分析を始めています。

   
 

■お題その2「木質化せよ」
『ZEB』建築の計画を進めているなか、働く人にとって心地良い環境にしたいということと、カーボンニュートラルへの取り組み推進のため、「木質化」というテーマができ、若杉先生に相談することになりました。ただ、若杉先生に内装の相談を始めたのは建築プランが固まったと思われた時期でしたが、前述の通りコストの関係で建築の大幅な変更が続いていました。

若杉先生が入られて木質化の方向にずーんと変わったのですが、小林さんや平手さんがその都度素早く、パース図でイメージを示してくださったので、皆にもすぐに共有できました。『ZEB』が第1の要件でしたが、パースのような木質化をする場合は、法律上、耐火構造にする配慮が必要でした。床や壁はもちろん耐火構造にする必要があったため、作りつけの建具は家具という扱いとしてもらい実現しました。

ガラスも防火仕様にする必要があり、2Fのエントランス部分を防火ガラスにするかシャッターにするかの検討も大変でした。社長の希望と、デザインと、建築基準の中におさめていくためのせめぎ合いで、毎日のように打合せです。若杉先生と社長のやりとりが朝5時から始まることもありました…。その朝イチ会議の内容を受けてその日を走る、という毎日です。 若杉先生のチームと打合せをすると、すぐ翌日には3Dイメージのパース図があがってくるので、建築側の検討が追いつかないということが起こることもあり、建築側にもずいぶんと苦労をかけました。

床も国産材のフローリングにしようという話になり、ダイケン工業さんに相談して、現場の社員が安全靴で出入りしても傷つきにくいコーティング仕様の国産杉材にしてもらいました。多少の傷はつきますが、木の利用量を増やせて、オフィスの印象もよくなりました。フローリングにしてよかったと思っています。

家具は志村製材の三宮さんにお願いして、大分県産杉の天板を内田洋行の既存家具につけてもらいました。会社の応接セットのテーブルも県産材で制作してもらい、ソファーは昔からの物をリペアしました。

ほか、木質化ではありませんが、レイアウトのポイントもさまざまにあります。

まず3Fですが、食事ができるスペースとしてだけでなく、大小の会議や打ち合わせ、近隣住民の避難場所としても活用できます。レイアウトを容易に組み替え可能な、多様な用途で使える大空間としました。見通しが良い広い空間を作るために、東九州設計工務の木島さんに相談して、柱を少なくする難しい工法を取り入れていただきました。それとスタジオですね。こちらは会長の思いがつまっています。
2Fは執務エリアです。社長が海外で視察してきたクリエイティブ・ハブのイメージで、センターにコミュニケーションエリアを配置し、どこでも打合せができるようにしました。一部の壁はホワイトボード仕様で、かつプロジェクタのスクリーンにもなるように仕上げてもらっています。
1Fは主に倉庫です。大きな荷物の出し入れがありますので、トラックが直接出入りできるようにしています。

   
 

■お題その3「空間を仕上げよ」
最終的に空間に入れる家電やアート作品なども私の方で手配しました。 家電店を交渉してまわったり、社長が応援している大分県ゆかりの芸術家さんの作品がいっぱいありましたので、それらの取付け方についても検討しました。

また、2Fや3Fの大きなガラス面には、社員に絵を描いてもらうことにしました。通常、大型のガラス面には衝突防止のマークを入れますよね。それでは味気ないので、お客様や社員が季節感を感じられるように、四季の変化に応じて描いてくれます。これが、なかなかいい味を出していて、和やかな気分になれます。

屋上緑化をどこまでやるかは、最後まで悩みました。さらに、屋上は見晴らしがいいので、社長から「テラス席を作ろう!」という指示がでたのですが、すでに建築の確認申請後で…。テラスを作ると、建築上は床面積に算入されるので、申請で提出した床面積が変わってしまうことが問題でした。そこで床は屋根としての機能を持たないようにパンチメタル(穴があいた鉄板)で作り、申請書の床面積に影響がでないようにしました。景色がいいのでビアガーデンとしも楽しんでほしいと、設計の木島さんと清水建設の田中さんからの提案で、手すりにカップホルダーも作ってくれました。

お客さまをご案内するときは基本的に『ZEB』建築の機能面や省エネの説明をしますが、興味がある方にはアート作品なども説明します。竣工直後から多くの方が『ZEB』の見学にいらっしゃいましたが、実際に足を運んでいただくと、木質化された空間や芸術家さんの作品についても注目されますね。入社の希望も増えました。また、木質化で快適性の高いオフィスが実現し、働きやすい環境が整ったこともあって、大分県から女性活躍推進企業として表彰を受けました。見学に来られた方々がPRしてくれて、さらに見学が増えたことが一番よかったです。それを今後、どう活かしていくかが一番大切ですね。
   
 
   
   
   
   
   
  ●<くどう・たかかず> 鬼塚電気工事株式会社 常務取締役
   
 
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