鬼塚電気工事 ZEB社屋に集った思い
 

自分たちの仕事を見せる・魅せるオフィス

文/平手 健一

   
 
 
 

環境問題への取り組みが未来への重要な課題となる中で、日本一1人あたりのCO2排出量が多いという大分県において、地方自治体に先んじて『ZEB』(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の取り組みを始めたのが鬼塚電気工事です。本施設は鬼塚電気工事が自らの設計施工によって100%※『ZEB』として環境省の認可を受け、加えて完全ゼロエネルギーだけでなく、地域循環、建物緑化、国産材活用を社員自ら企画し、本施設の課題としました。

我々デザインチームはデザインの基本方針を決定するにあたり、鬼塚電気工事の設備工事の仕事をそのまま「見せる・魅せる」オフィスというコンセプトを掲げました。本来、建物において設備の部分は建物のウラ側として隠される部分であり、オモテに出てこないエリアですが、自ら設計施工した設備工事、そして『ZEB』の取り組みそのものが、鬼塚電気工事の本質であり、精神であることから、そのオモテ、ウラの境界を取払い、すべてさらけ出すことで新しい価値を創造することを試みました。また、大分の里山植物による建物緑化、国産材の木材活用をした木質空間など「魅せる」表現を取り入れながら、社員や地域の方々との交流や連携が生まれるオープンなオフィス空間を目指しました。
   
 
  外観デザイン
   
 
  [デザイン初期のスケッチイメージ]
   
 
  正面ファサード
   
 
  鳥瞰イメージ
   
 

基本方針に基づき、外観デザインは極力加飾を控えシンプルな構成とし、ZEB設備や緑化フェンスをオモテに見せていくことを考えています。
外壁は水平垂直、水平連続窓、モノトーン色彩のシンプルな構成とし、メッシュフェンスを覆う緑化植物には四季折々の姿が印象的なつる性植物のテイカカズラを選定することで、四季の移ろいそのものが建物の表情を創出します。また、竣工時は鉄骨フレームの太陽光発電パネルが見える重厚でマッシブな表情、そして植物の成長とともに植物の柔らかく優しい表情へと移ろいでいき、時の経過の中で異なる表情を楽しむことができます。10年後どのような表情になっているのか非常に楽しみです。

   
 
  エントランスアプローチ
   
 
  杉型枠コンクリート打ち放し壁面とサイン
   
 

ピロティ部のエントランスのアプローチには、真白の外壁とは異なり、杉型枠によるコンクリート打ち放し壁面で構成しています。杉の板目の豊かな表情に加えて、杉の色が薄らと色づき、無表情のコンクリートに温かみを与え、内部の木質空間と呼応する表情で建物のエントランスとして相応しい重厚感を演出します。

杉型枠のコンクリートは一発勝負で職人の腕が試されますが、あたかも本物の杉が貼ってあるような表情で、非常に綺麗に打ち放すことができています。
   
 
  執務室フロア
   
 

執務室フロアは大きな一室空間の構成に、個人のデスクスペースの他に、壁で仕切らないフリースペースを中央部分に設けています。フリースペースはどこでもミーティング、どこでもワークの考え方で、オープンなミーティングスペース、印刷スペース、キッチンがあり、自然と社員交流が生まれる場所であり、ZEBの光ダクトや天井を一部表しとして設備配管を見せるなど、鬼塚電工工事の仕事を見せるギャラリーとしても機能させています。共有スペースは積極的に木材を活用し落ち着きある雰囲気を演出し、観葉植物と光ダクトによるトップライトの光によって、安らぎを与えています。
また、共有スペースは外から帰ってくる社員の西側階段からの動線にも配慮し、内外の社員の交流が生まれるように計画しています。

   
 
  フリースペース
   
 
  キッチンスペース
   
 
  ミーティングスペース
   
 
  印刷スペース
   
 
  フリースペースと光ダクトのトップライト
   
 
  会議室・カフェフロア
   
 

会議室・カフェフロアは可動間仕切りで空間を区切ることができます。屋外テラスとつながるカフェゾーンには中央にオープンキッチンを設置し、様々なイベント対応が可能です。南側と西側の窓には日射自動制御ブラインドを設置しており、天候によって自動的にブラインドが適切な日射調整を行うため、快適な室内環境を年中保つことができています。ブラインドは制御が面倒でいつも下げ放しになりがちですが、これなら快適ですね。

   
 
  ランチ休憩の様子
   
 
  イベント風景の様子
   
 
  イベント風景の様子
   
 
  屋上広場・展望デッキ
   
 

屋上は大分の里山植物を活用し屋上緑化を推進しており、美しい故郷の風景を再現しながら、熱負荷軽減による省エネ効果にも期待しています。大きな広場スペースは、災害時の防災拠点としても位置付けており、実際に隣接する大分川が氾濫したことを想定した避難訓練も行われています。地元住民と社員の交流も生まれ、防災拠点から交流拠点にも変化しつつあります。展望デッキからは、素晴らしい大分川の景色を望むことができ、夕日が沈む光景はまさに絶景。手すりのトップには、ドリンクホルダーの穴を開けており、格別の一杯を楽しむことができます。設計時よりこの風景をいかに美しく見ることができるかという議論、CGシミュレーションを行い、景色を見る高さ、広がりに配慮した展望デッキは、写真を見て確認できるように狙い通りのものができたのではないかと思います。

   
 
  屋上広場
   
 
  里山植物による屋上緑化
   
 
  展望デッキから見る西側の風景
   
 
   
   
 

建物内は地元ゆかりのアーティストの作品が至る所に展示され、地元産業とともに家具や備品を開発、地元住民との交流の中で、様々な地域連携やパートナーが生まれ、オープンオフィスとして機能し、沢山の人の共感を生んでいます。

私は、鬼塚電気工事の本社オフィスのデザインに関わり、改めてデザインや設計の本質に触れることが出来たと感じています。建築は人の気持ちをデザインすることから始める必要があると大学時代に学びましたが、まさに本施設は、人や地域が中心で沢山の気持ちを動かしています。
開設1ヶ月で2400人もの地元企業や行政、学校から人々がこちらを訪れており、これからさらに繋がり広がることは容易に想像できます。
この経験を未来へと繋げ、建築家・デザイナーの一人として、これからも人や地域から共感を生む設計に関わりたいと強く思いました。

ありがとうございました。
   
  ※ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で「ZEB」と呼ばれています。快適な室内環境を保ちながら、省エネと創エネにより、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物を指します。
   
   
   
   
   
  ●<ひらて・けんいち> 寺田平手設計 代表
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved