鬼塚電気工事 ZEB社屋に集った思い
 

会社に小さな森がやってきた! - 環境装置としての緑 -

文/宮田生美

   
 
 
  5×緑(ゴバイミドリ)は、鬼塚電気工事本社の屋上の壁面緑化づくりに参加させていただき、大分の地域の植物でつくられた「里山ユニット」をお届けしました。 この緑化事業を振り返りながら、その意味や特徴について記してみたいと思います。
   
 
 
本社ビルに並ぶ「里山ユニット」    
   
 
  1.地域のために
   
  鬼塚電気工事本社のZEB事業。このプロジェクトを事業者と共に進める武蔵野美術大学の若杉先生と、はじめて 大分を訪れたのは 2021 年の 4 月でした。
コロナ禍のなか、駅まで出迎えに来てくださった尾野文俊社長、営業部の寳亀真美さんから、会社についてのお 話をたくさんお聞きしました。
体験型アート作品を通じて地域社会の課題に取り組む「プロジェクト ONICO」など、以前からユニークな地域貢献型 のブロジェクトを手掛けていること、本社ビルの新築を機会にいよいよ本格的な ZEB にチャレンジすること。言葉の持 つ熱量に本気度が伝わってきただけでなく、常に地域への目線があることも強く印象に残りました。

環境とか気候変動というと地球規模の話題になって、「自分はどうする?」が置き去りになりがちです。 鬼塚電気工事の本プロジェクトでは、地球温暖化対策とともに、発電機能を活かした大分市の津波避難ビル・BCP としても構想されていました。
そして、同社の HP の「鬼塚電気工事としての ZEB 取組方針」は、「弊社は、CO2 削減に寄与する省エネを地域社会に 普及促進を図るべく ZEB 事業に取り組みます」という文章で始まっています。

顔の見える共同体に下支えされた地域社会の強さと面白さ、そんな印象を持って大分を後にしました。
   
 
  2.「デザインツール」から「環境対策ツール」へ
   
  年々夏が暑くなります。
植物を扱っていると、なおさら夏の過酷な環境に敏感になります。

植物は、光合成によって葉から水分を蒸散しています。
コンクリートのように蓄熱することなく、周りの空気をクールダウンします。
街に植物があるだけで、熱環境を好転させることができるのです。

緑地は雨を涵養します。
コンクリートやアスファルトに覆われた都市では、気候変動によって豪雨化した雨が地面に浸透することなく一気に排 水路に流れ込み、道路の冠水や住宅への浸水などの災害を引き起こしています。
植物のある地面は、雨を貯め、時間をかけて排出することが可能です。

5×緑のオフィスは東京の新宿区にある集合住宅の一室にあります。
テラスには、私たちの緑化システムでつくったプランター「里山ユニット」が並んでいます。都心にあっても、そこには 脆弱ながらも生態系と呼べるものがあリます。
私たちのテラスでは時にカマキリの子を見ることができます。
アオスジアゲハの孵化を見守ったり、小鳥が水浴びに来たり、実をついばみにくる姿を見かけます。
「生物多様性」の大切さが言われはじめて久しいですが、どんなに小さくても緑があればそこは生き物の棲家になりま す。
そのことに気づいた私たちは、ベランダに小さな森をーーと「ベランダ森化」を呼びかけるようになりました。
   
 
  5x緑オフィスのある合羽坂テラス。室内から
   
  植物たちは、人が引き起こした環境への影響を緩和する高い能力があります。
しかし、残念なことに、多くの建築緑化において、緑は単なるデザインツールとして使われています。
ビルを飾る装飾としての緑、緑化基準を満たすための辻褄合わせとしての緑、そんな使われ方が多いように思うの です。
しかし、気候変動対策がこれ以上ないくらい喫緊の課題になっている現在、もっと戦略的に「環境対策装置」としての緑化が推進されて良いと思います。
鬼塚電気工事本社ビル建設では、元々気候変動対策としての ZEB の中に緑化が位置付けられ、CO2 の固定も数値で抑えられています。
とともに緑の存在は、ここが環境に配慮されたビルであることをわかりやすく伝えるための役割も果たしているように思 います。
   
 
  3.地域の緑、在来種にこだわる
   
  環境対策についての植物の機能を列記しましたが、そのような説明をしなくても単純に植物があると人は心地よいと 感じます。
今風に言うと「ストレス緩和効果がある」「知的生産性が上がる」といったところでしょうか。実際にエビデンスもありま す。

均質なモノで囲まれた都市空間において、植物は有機的なゆらぎを持って私たちの目の前に現れます。
風にそよぎ、雨に揺れ、光を浴び、日々刻々と変化する存在です。
四季を通して姿を変え、成長もします。
身近に生きて育つものがあること、手をかければ応えてくれるものがいてくれることは、都市に暮らす私たちにとってと ても大切なことのように思えます。

なかでも私たちがこだわるのは、日本の在来の植物、地域の植物です。
日本はとても植生が豊かで約 6000 の種類が確認されています。
東京の高尾山の植物の種類は約 1600 といわれ、これはイギリス全土の植物種の数に匹敵するそうです。
日本の里山は、多くの植物が共生することで、多様な生き物が生息できる環境を生み出しています。

多種の緑が混在する様は美しく、緑が一色ではないことを私たちに教えてくれます。
これは、私たちがつくる「里山ユニット」のアップの写真ですが、薄い緑、深い緑、黄みがかった緑、大きな葉っぱ、細 い葉っぱと、さまざまな緑が織りなす姿は美しいものです。
日本人は長く、こうした緑に触れて生活してきました。
繊細な緑の変化に気づく感受性を培ってきたのではないかと思いますし、季節の巡りに合わせて暮らしにリズムを刻 み、生活の楽しみをみつけてきました。
俳句や和歌、茶道などの芸術を生み出す元にもなりました。
けれども長く親しんできた日本の緑は、私たちの身近から急速に姿を消しています。
5×緑は、都市空間の中にあっても昔から伝わる日本の緑を身近に置いて、暮らしや街に季節を取り戻すことをテー マにしています。
   
 
  多様な日本の植物が織りなす緑の表情
   
  さらには、できるだけ地域の植生に即した緑をお届けしたいというのも 5×緑の願いです。
どの街でも同じ新素材や建材を使えば、地域性は失われがちになりますが、それは植物も同じです。
できるだけ、地域の植生に合わせてつくる、それは地域らしさにつながるだけでなく、気候風土にあった植物を選ぶことで植物を無理なく育てることができます。

冒頭にご紹介したように、元々地域に根ざしたプロジェクトを志すこの鬼塚電気工事本社の ZEB 事業では、きっとこ うした考え方を受け入れてくださるとの思いがありました。
思った通り、すぐに「それはいいですね!」という反応をいただき、楽しく植物選びができたのでした。

今回は、大分の自然植生に即したこんな植物たちが、屋上に大分らしい風景をつくる役目を果たしてくれています。
常緑低木 スダジイタブノキナナメノキアカガシハクサンボクモッコクなど 33 種類。
落葉低木 アオハダ、ガマズミ、シロモジ、タンナサワフタギ、ゴンズイなど 36 種類。
草花 アキノキリンソウシロヨメナフユイチゴクマワラビミツバツチグリなど 27 種類。
グリーンウォールのためのツル植物には、テイカカズラが使われました。
   
 
  鬼塚電気工事本社屋上の植物たち
   
  在来の植物、地域性種苗、といってもそれを育ててくれる生産者の方がいないと実現できません。
幸いなことに地元に株式会社グリーンエルムさんがいて、苗木の供給に力を貸していただきました。グリーンエルム の西野文貴さんは、私たちのオフィスにまで来て相談にのってくださるなど、頼もしい存在でした。
「グリーンウォール+里山ユニット」の設置には、やはり地元の三光園さんが手伝ってくださり、潅水工事は鬼塚電気工事さん自身が担ってくださいました。

「わたしの風景にふるさとの小さな森がやってくる」
それはとても心楽しいものです!
植物たちがすくすくと育ち、鬼塚電気工事で働くみなさまに、ホッとするひとときや季節の楽しみを届けてくれますよ う。
   
   
   
   
   
  ●<みやた・ふみ> 株式会社ゴバイミドリ https://www.5baimidori.com/
  みんなの森化 https://www.5baimidori.com/morika/
   
 
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