特集秋田 

 
白神山麓・窓山デザインコンテスト 受賞作品と講評 
文/ 菅原香織
 
 
 

【最優秀賞】

窓山再生の森
総得点数:154点
デザイン:田村裕希(東京都)

 

コンセプト:
白神山麓にある窓山地区は、過疎化によって里地・里山文化やマタギ文化の衰退が進行している。当計画ではこれからの窓山地区の再生に向けて、単なるハコモノをつくるのではなく、白神の豊かな自然や今まで使われてきた土地の記憶を活かしながら、人が集うことによって活力を取り戻すことができるようなランドスケープの提案を行った。地区の中心となる「マタギキャンプ場」を、自然の中に宿泊しながら農林業等を体験することができるように、自然林と農地の間に配置した。そこでは地域住民やガイドによるマタギ文化のレクチャー(狩猟・料理等)・マタギ小屋建設・炭焼きワークショップ等も定期的に開催し、多くの人へ当地域に伝わる伝統文化や生活の知恵を伝承する。 その他、若手芸術家や子供達によるアートの屋外展示を行う「アートの森」や、田畑や森の恵みの収穫を祝う「祭広場」、ブナの自然林を観察できる「自然観察の森」など、人の活動の場の設定と、それらをつなぐ「窓山散策ルート」の設定が当計画の大きな骨格となっている。 この土地にしかない自然の恵みとそれを活かし伝える人々の存在が、将来的な窓山の再生につながり、ランドスケープ計画はその舞台創出の役割を担っている。  

審査員評:
若杉▲身のたけからはじめ、そして楽しむ、行政、地域、そして参加することによって、再生が始まるこの計画という全体デザインに注目したことがすばらしい。
南雲▲窓山の特性、ゾーニングが優れている。よく研究されている(実際に現地に行ったのか?)「土地記憶」の考え方がすばらしい。
竹田▲窓山の地形、資源が掘り下げられ、縦穴式キャンプ場、マタギの暮らしがキャンプで提案されている。窓山の再生グランドデザインを示している、地元への説明資料としても有効。また、配置も良く考えられている。
木俣▲自然の風景に調和する人の営みの中である「マタギ」をフックにしている点が興味深い。アート自然景観は、もう1ひねりあると良いのでは。
持留▲実現可能性が高い、また、その効果も優れていることから、この点をつけた。キャンプをしたい、畑をしたい、という能動的な楽しみ方。散歩をしたい、眺めたい、という受動的な楽しみ方。その両方に対応できる、ふところの深いアイディアだと思う。
石神▲子供や家族連れに受け入れられそう。
加藤▲窓山そのものを活かせる。


インタビュー:(電話にて取材)
(何で知ったか)登竜門
(普段はなにを)公園、ランドスケープなどの設計をしている。
(応募のきっかけは)窓山の隣の藤里町にネイチャーガイドのヒアリング調査にいったことがある。

 

 

 

【ランドスケープ部門賞】

madoyama いえ net  
総得点数:146点
デザイン:浅野里紗・山口かすみ・上見浩基(東京都)

 

コンセプト:
近くに住む人も遠くから来る人も最初は観光客としてここに来て好きなことをし、好きに過ごしていくうちにこの地域の良さに触れここを去るときには窓山の住人となっているような場所をつくりたいと思いました。

審査員評:
若杉▲この窓山再生のプログラムのユニットとしてもっとも適正な提案であると思う。忘れ去られた「界隈」、小屋に近いモジュール、そして木材利用とともに今回の企画として相応しい。
南雲▲近い未来、窓山が生きづいて来たときの風景を感じる。無理なく素直。力を合せて実現する可能性を感じる。
竹田▲窓山の配置に関するコンセプトワークとして評価できる。
木俣▲等身大の小屋で、地域の様々な素材を材木を活かしながらフォーカスしている点が興味深く感じました。
持留▲かたちに難点があるが(実現性・美観)このようなテント状のモノが、一時期お祭りのようにたくさんあるのは楽しそう。夜、それぞれのテントに灯がともるのは美しい。
石神▲楽しさはあるけれども景観的に難があるのでは。色がどうか。たくさん並べる分、人もいっぱいいる方がいい。人がきたくなるような要素も必要。
加藤▲無理なく広がりを持てる。

インタビュー:
(何で知ったか)登竜門
(普段はなにを)武蔵野美術大学建築デザインの3年生の仲間達。
(応募の動機は)自分達がこうだったらいいなぁと思っていることを表現できると思ったから

 

 

 

【木材活用部門賞】

薪のハコ 
総得点数:134点
デザイン:杉浦哲馬(栃木県)

 

コンセプト:
材料としての木が建築の表層になる薪小屋とその中にある多目的スペース。窓山での体験活動や交流のベースとなる建物として設計。材料としてではない新たな木の魅力を表現できる可能性を探ってみた。

審査員評:
若杉▲デザイン、実現性、それと窓山とのマッチング、スケール感とともに新しさと懐かしさがある。小さいスケールから始めるというコンセプトにあっている。
南雲▲生活の道具である薪を、この風景にきちんと配列する可能性は感じる。構造はやや?
竹田▲薪を使う文化が導かれている。この作品を通じて、薪が新しい価値を生み出すのではないかと期待感がある。
木俣▲山村にあたりまえにある軒下にある薪の風景を、デザイン的に示している点が、興味深く感じました。多目的スペースといったになることで、人の交流拠点として活かされると、良いと思います。
持留▲これが実現したとして、確かに美しいかもしれないが、はたして、どう楽しいのか、わからない。また実用的という点からみて、この構造だと薪が乾かない。
石神▲伐り捨て間伐材の有効利用を評価。だれかが持ってこれるときに持ってきて、誰かが必要なときに必要な分だけ持っていく。助け合い。
加藤▲薪小屋の風景が良い。

インタビュー:
(何で知ったか)杉ダラHP
(もしかして…)ICS卒です。スギダラメンバー(裏スギ)です。

 

 

 

【特別賞(内田洋行賞)】

おこぜまつり 
総得点数:133点
デザイン:平井充・山口紗由・猪野俊幸(東京都)

 

コンセプト:
秋田杉の間伐材を利用して、全国のこどもたちとともに稲掛けをつくるワークショップの提案である。稲掛けは、マタギの伝統から山神に捧げるオコゼをモチーフとし、こどもたちには日本の伝統である稲作の文化の体験と窓山の魅力を知ってもらう。それらの行為を通して窓山に新しい風景をつくりだすことが目的である。 

審査員評:
若杉▲町づくりや開発には人と人をつなぐイベントはたいへん重要である。その点において唯一イベントにからめデザインを行っている点が評価できる。絵も良い。
南雲▲テーマ設定には、やや疑問を感じるが、オリジナリティー・表現力はgood
竹田▲間伐材と稲わらを、組み、燃やす。火は生命の交換、収穫の喜び、さまざまな文化を伝える提案となっている。一方で、大量の稲わらを燃やすのは、おしい。
木俣▲地域の文化的景観を木材利用を一帯的に発信できる点が興味深く感じました。多様な人が参加しながら使われる点が良いと思います。
持留▲この地域でこのようなお祭りをするか、という点で難があるが、借り地である窓山に、大勢の子供達が集う様子は楽しいし、良いのではないか。また、毎日のようにメディアに取り上げられることで、活性化の持続可能性という点でも効果的。
石神▲子供の遊具としてはいいのでは。間伐材の活用法にもつながる。
加藤▲火祭りが楽しい。

インタビュー:
(何で知ったか)登竜門
(普段はなにを)平井さんは工学院大学大学院(初田研)生。北秋田市の阿仁にマタギ文化の調査で訪れている。山口さんと猪野さんは藤沢にある旧近藤邸で芸術活動を展開している「藤沢アートワーク(http://www.fujisawa-artwork.com/)」
の仲間。

 

 

 

【特別賞(NPO緑の列島ネットワーク賞)】

縁側のある生活
総得点数:138点
デザイン:菅原温子(秋田県)

 

コンセプト:
秋田の二ツ井が誇る、秋田杉やゼオライトを有効に使った木造住宅。これから窓山が、人々の声が響くにぎやかな場になったとしても、春夏秋冬ながれる窓山時間を感じ取れる、縁側という腰掛けが中心になっている構造が特徴。窓山の景観を損なわず、コミュニティーの中心としても活用できる場を提案する。

審査員評:
若杉▲ねらい、小屋と小屋を結ぶ回廊、しつらえはすばらしい。ただ、集合体としての全体イメージやLand Scapeを付加すべきかも。DesignのDitailももう少しほしい。
南雲▲最小限住宅に対する考え方は理解できるが、窓山にとって…は、「?」がつく。
木俣▲地域らしい暮らしの縁側を舞台に、人と人との関わりが生まれ、保たれる点が興味深い。
持留▲実現可能性は高いが、「縁側」という定番のアイディアに寄り掛かっているように思えるのが少し残念。
石神▲縁側のある家に住みたいという願望は多くに人があると思う。受け入れられるのでは。一日寝っころがっていたい気分。何も考えずに。

加藤▲最も地域資源利用と実現性が高い。

インタビュー:
(じつは)スギダラ秋田支部のキャンペーンガール、温だら(ぬぐだら)でーす。

 

 

 

【次点作品】

「窓山の自然とともに」
総得点数:115点
デザイン:岡田貴博・原令・三沢圭介・山中貴裕・角田雄希・山田大介(愛知県)

コンセプト:
四季を感じる遊歩道

 

審査員評
若杉▲小さなしかけや、道筋の計画から再生していく様が感じられていい。ただ、それを行うためのデザインや手法に対しての考察をもう少しほしいところだ。
南雲▲それぞれの提案は好感が持てるが、窓山オリジナルかどうかは?
竹田▲市民にできる作家の提案。森林の中のアイディアがいくつか提案されている。
木俣▲自然の魅力を伝える際に、木材活用とセットにしてストーリー立てている点が興味深く感じました。さらに様々なバージョンがあると面白いかと思います。
持留▲親子連れが、楽しく遊ぶ姿が想像でき、時々訪れたくなる場所に窓山が変わるのが良いのでは。またこのような日常とは違う視点で自然に接するのもよい。
石神▲自然の中に溶け込む分、景観が少しくずれる心配。木にワイヤーを架けるのは少し難しいのでは。
加藤▲窓山の地形を活かせる。

   
 
 
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 勤務
http://www.amcac.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
   
   
   
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