連載

 

杉で仕掛ける/第7回・実践編 「海杉のイベント増幅器」

文/ 海野洋光

 

 
 

月刊杉も今月号で30号です。「継続は力なり」と申しますが、こんなすばらしい月刊誌が無料で読むことが出来るのはすごいことです。海杉の「杉で仕掛ける」もいよいよ、実践編ですね。今までは、「スギダラがなぜ?」と言う部分に焦点を当て、海杉なりに解説してのですが、今月号から実際にスギダラがどのようなことをしているのか、海杉なりの得意技の体験談をお話したいと思います。

日向での飲み会「トンちゃん編」
「海野さん!時間ある?今、トンちゃん!!」
いつだったか?南雲さんが「レンコン」「蓮根」と電話口で叫んでいました。
「蓮根買ってきて!」
「レ・ン・コ・ン??」早速、スーパーの野菜売り場へ。生の蓮根は、さすがになく、水煮の蓮根を買って八幡通りのトンちゃんへ。
市役所のワダラーさんが、本当に買ってきていると目を丸くしてたのが、印象深い。
南雲さんは、このレンコンを片手に、「新メニューに蓮根を入れて!」としつこく迫っていました。
ちなみにトンちゃんママは、海杉実家の2軒隣でうどん屋さんをしていたこともあり、幼少の頃からの知り合いでもあります。トンちゃんママは、南雲さんとその仲間たちが来るのを楽しみにしてくれています。南雲さんリクエストの「塩豚」という新メニューが加わっています。是非日向に来たときは、トンちゃんへ寄ってください。

日向の交通事情
さまざまな人たちが、この日向にやってきます。東京の方にとっては、日向市は、アクセスの悪い土地です。十数年前、宮崎県北(日向・延岡)からは、東京への日帰りが難しく、空港から日向・延岡まで2時間半から3時間は、かかっていました。往復で約6時間!これでは、滞在時間が取れません。延岡には旭化成という大会社の工場があります。当時は、東京出張を日帰りにするために延岡から宮崎空港までをヘリコプターで移動していました。そのヘリが日向市の牧山に墜落したのです。若い優秀なエンジニアを乗せての事故と聞いています。この事故がキッカケ(これだけではないのですが)で地方空港では珍しいJRの空港乗り入れ事業が加速しました。日向市−宮崎空港間がJRの高速運行によって特急で1時間になりました。しかも、宮崎駅から空港までバスやタクシーを使っていた私達にとって、空港へそのまま乗り込むことが出来ることは、画期的なことでした。
日向市は、なぜか、宿泊のベッド数が多いようです。人口の比率からすれば、大会社旭化成を抱える延岡市よりも多いのです。それは、日向市の抱える山と延岡市の抱える山の違いです。日向市は、入郷と呼ばれる山間地域を背にしています。これは、日向市駅が、入郷の玄関口であることを示しています。ところが、延岡市は、同じような山間地域を抱えていても、高千穂町という全国区の観光地を持っています。しかも、大分県、熊本県へと抜けられます。東京の友人の話ですが、家畜飼料を販売する商社マンの彼は、高千穂方面の農家を訪問しても延岡には戻らず、熊本泊まりで、鉄道が高速化し、空港乗り入れした今でも、入郷地域の場合には、日向市に戻らなければならないそうです。交通の便の悪さが、逆に日向市の価値を高めていた訳です。ちなみに飲み屋の軒数も人口からすると、日向市は、全国でもトップレベル。プロ野球の近鉄バッファローズが延岡から日向にキャンプ地を変更したのは、宿と飲み屋の数だと言う説もあります。(本当は、行縢おろしと呼ばれる寒い風のせい)

お酒に弱い海杉
海杉は、お酒に弱い。滅法弱い。ビールではじまり、ビールで終わります。宴会の席で寝ているのは、多分、海杉くらいです。そして、焼酎を飲みません。ほとんど、飲んだことがないのです。記憶で口をつけたことがあるのは、間違えて焼酎のお湯割を作ってもらった時と台風で帰れなり、建築家の武田光史氏に奨められれて、口をつけた「中々」という焼酎だけです。この「中々」は、「百年の孤独」で有名な黒木本店の麦焼酎で武田氏が黒木本店の尾鈴醸造所の設計をしていることを知っていましたので、断りきれずに口をつけました。本当に飲めないのです。

体験談 上崎プロジェクト
杉若丸、杉千代、小町、南雲さんと南郷の黒田君の山に杉を見に行きました。杉を見るだけならそのまま素通りしてしまうのだが、海杉は密かなプランを用意していました。南郷の帰りは、国道を通って帰った方が早い。しかし、あえて、山道の峠越えで遠回りをして、一軒の料理屋に案内しました。西郷村「まからん屋」です。「まからん屋」は、宮崎の超有名店で通なら誰でも知っているくらいの繁盛店です。大杉の視察は、上崎橋の親柱を捜す目的でしたが、人の記憶は、少々大きな杉を見たぐらいでは、消えてなくなるものです。印象強く残そうと思っても返って記憶として残りません。海杉の経験で一番的確に印象が残せるものは「食」だと思っています。

 

それでは「まからん屋」について杉千代さんに熱く語ってもらいます。

   
  2004年の12月10日、富高小学校の課外授業、第6回目を終えた翌日、延岡の上崎橋の親柱にするための杉材を物色するために、日向から少し西に行った南郷村まで行ったのですが、その道中で海野さんがホルモン定食を食べに連れて行ってくれました。
ホルモンには目が無いボクは、相当な期待を持っていたのですが、到着したところは、何の変哲も無い食堂で、特にホルモンを売りにしているという風情ではありませんでした。
ところが、そのホルモンたるや笑えるくらいうまくって、焼肉屋で食べるものとは一線を画していました。悪く言うと、腸の内壁の脂身が多く品の無い味なのですが、それがホルモン好きには耐えられない絶妙な味なんです。おまけに1人前680円くらいだったかなー。安い!!!
その強烈な記憶があったので、それ以来宮崎に行くとホルモン屋さんを行脚することになるわけです。宮崎の牛肉は有名ですが、それにしても宮崎にはホルモン専門にやってる店が多いですね。
数多くの店に行きましたが、その南郷村へ行く途中で寄ったドライブインのような店のホルモン定食に勝るものは未だにありません。(ち)
   
 
 
「まからん屋」に出会うきっかけとなった、杉材物色ツアーの様子
 
   
 

地元の人たちに説明する前に、自分たちが、イメージが出来るモノを
外部の人間が上崎橋プロジェクトに乗り込むに当たって、重要なポイントは、下準備です。上崎プロジェクトのキーポイントは、幻となった親柱の杉だったのです。(上崎の話は「かみさき物語」でどうぞ!かみさき物語(全9回)1)絵空事ではないきちんとしたモノを地元に人に仮の案として提案する。「そのくらいの杉なら上崎にもあるわい!」と住民の方が言ってくれるだけで、話がぐんと進むのです。参加する外部のメンバーも心に刻んでおかなければならない儀式が、あの南郷の大杉でした。そして、その印象を確かなものにする海杉の秘密兵器(イベント増幅器)が、「まからん屋」なのです。

イベント増幅器とは…
海杉は、今回のイベント増幅器を作るためには、不便な交通を逆手にどこでどんな食事をするかが、大きなポイントになります。通常は、すぐ郷土料理を思いつくのですが、この郷土料理が曲者です。ほとんどの地元の人は郷土料理を食べていないのです。まずくてもうまいと言わなければいけないゲストにとって押し付けは、厳禁です。必ず、自分が美味いと思うモノを奨めましょう。いや、『食』より「酒」だよ!!と言う方は、大勢います。海杉もはじめは、ノミニケーションが大切だと思っていましたが、違いました。海杉の場合、お酒を飲んだら寝てしまうのです。大切な話をしようと思っても、寝てしまうのでできません。「スギダラに会議はなし」と書きましたが、海杉は、杉談義の途中で寝ていては何もわからないのが本当の話です。

日向の交通便が悪いというデメリットを利用する、お酒に弱いという自分に合わせたイベント増幅器の製作する。仕掛けているでしょう。八幡通りのトンちゃんの話は、仕掛けが成功事例ですね。はじめは、当然、地元の人間が、お店を案内するのです。ゲストが、その土地に馴染みの店を見つけ、地元の人間を呼び出すようになれば、もうしめたものです。

   
   
   
   
   
 
●<うみの・ひろみつ>日向木の芽会
HN :日向木の魔界 海杉
   
 


 
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