特集 杉コレ in 都城

 
本当に、こりゃ〜スギェ〜杉コレクション作品制作奮闘記録
文/若松泰裕
 
 
 

 何故10作品も実物を制作するということにしたのだろう?

 9月10日の1次審査終了時に思った私の正直な気持ちです。「よし、やってやろう!」という気持ちは全然湧いてきませんでした。自分の経験と知識を活かして……とかいうレベルの話ではないと、実行委員の誰もが思っていたはずです。気弱な私たちは、審査会場で「その作品だけはやめてくれヨ」「その作品だけは選ばないで」「もし、この作品が選ばれたら、どうやって作るのだろう?」と思いながら、続々と絞り込まれてゆくのを黙って見ていました。「制作?」「そんなの関係ネェ〜」といった感じで、内藤先生や南雲さんは、いとも簡単にチョイスしていくではないですか。結果、最終的に残った作品10作品「マジかよ」です。控えめな私たちは、制作上の問題点とか一言も抗議せず、「有難うございました!」と会場を後にする審査員の方々を見送りました。

 1次審査終了後、選ばれた作品の応募者へは一応、一次通過作品の中にノミネートされたという報告をして、1週間程、制作方法について慎重に協議しました。出来るだけ応募されたままの形で実物化したいという思いもありましたが、作者へも妥協して頂かないと実現できない部分もあるようなので、双方合意の内容で制作に取り掛かりたかったからです。我々木青会メンバーは、殆どが木材屋です。材料は段取り出来ても制作加工となると、ノウハウは無いに等しいレベルです。そういう面を補ってもらえるようにと、以前から、県職員の外山さんが仕掛けてくれたワークショップで交流をもたせてもらった家具組合さんに期待を寄せていたのですが、制作を請負ってもらえたのは(クワハタさん制作の)「MC−1000」と「ぐるりん」の2作品だけ(特にMC−1000は家具屋さんでないと出来ませんでした)にとどまり、別の加工屋さんや大工さんを呼んでは模型を見せ、あ〜でもない、こ〜でもない、本当に頭を悩ませました。設計図面は無く、あるのは模型だけです。今思えば当たり前ですよね。テーマが「こりゃスギェ〜!」なんですから、簡単に出来るはずがないですよね。そんな中、弱音を吐く(選ばれた作品の除外を頼みました)我々に、南雲さんは一喝入れて下さいました。「それじゃ腰砕け実行委員会だ!」今でも忘れません、あの言葉。あの言葉が問題の都城気質に火を点けたのでしょう。「よし。よし。」沸々と湧いてきました。こりゃスギェ〜!の作ってやろうじゃねえか。

 作者と制作内容についての打ち合わせをしていく中で、色々妥協して頂かなければならない点がありました。内藤先生もおっしゃられた安全性が、まず第一に重要視された部分です。作品のスケールダウンや形状の変化、本当に色々お願い致しましたが、どの作品の作者の方も、快く承諾いただきました。作品を制作するためにはどうすればよいのか、作者の方々の非常に前向きな作品に対する熱い思いを感じさせられました。出来ない出来ないではなく、やるためにはどうすればよいのか。図面を描き直す方、模型を作り変える方、本当に皆さん真剣に取り組んでいただきました。今思えば、この作者の方々と連絡を取り合い、打ち合わせした中で、それぞれの作品に対する熱い思いに触れた事が、南雲さん一喝以上に制作に向けての原動力になったように思えます。

 制作方法、条件等の双方の合意が確認出来た作品からどんどん制作に取り掛かっていく中で、取り残されている作品がありました。そうです、「森の待合所」です。正直、一次審査時にこの模型を見た時は現実離れし過ぎていて、思わず鼻から息が出ましたもんね。おとぎ話みたいな世界で、ホントに「夢やな〜」って感じですよ。しかし、それが残っている訳ですよ。どんな気持ちの盛り上がりをもって臨んでも、ヤル気だけでは無理な事ってありますよね。制作案については、大径木で大きな角材を取り、くり抜ける程の立方体を作ろうかとか、ログハウス風に太鼓丸太を積み上げようかとか、45mm程の板を六角形にドーム状に積み上げていくか(参考−大西図面)とか、ハゲる程、頭を悩ませました。

 しかし作者(川村洋人氏)の思いには敵いませんでした。彼は、より模型に近い形状で作品を再現するため、作品を12段に横に輪切りにした状態の図面を書くというのです。早速FAXでもらった図面を見て私は感動しました。スゴイ! 作品を最小限のブロックでとらえていくのです。一見巨大レゴブロックの様ですが、座標まで記入されてあり、(参考−川村図面)これなら出来る。確信しました。いや完成させなければならない。そんな義務感まで湧いてきました。しかし、ここまで行き着くのに、一次審査から約1ヶ月近い時間を費やしてしまっていたのです。最終審査の「やまんかん祭り」まで、20日余り、限られた時間の中で、図面のように積層し、それを成形する事が出来るのか。不安と焦りだけがつのりました。そんな状況の中、積層作業は前畑建築さんに引き受けて頂き、応援の大工さんまで手配していただいて3人掛りで約10日、12段(1段のブロックが10段で120段)の積み上げを完了していただいたのです。あとは成形加工です。成形加工の手段としてチェーンソーしか思い浮かびませんでした。しかも、ハイレベルなアートマン……、「やまんかん祭り」でもお世話になることになっているチェーンソーアートジャパンさんにダメもとで相談して見ようと、連絡をしたところ、世界チャンピオンの城所さんから「面白いですね。是非やらせて下さい!」と快諾の電話をいただいたのです。経験の無い巨大な彫刻に城所さんもヤル気満々で都城入りしていただきました。

   


積み上げ作業1   積み上げ作業2
   


積み上げ作業3   積み上げ作業完成
   2日間という限られた時間で何処まで出来るか。実物大の馬を彫刻した写真も見てましたし、なんせ世界チャンピオンなのですから、気持ちは完全に大船に乗っていました。しかし、想定外にも材料を積層する時に使用したボンドの成分が研磨剤のような働きをしたことと、ボンドで接着した面が浮かないようにと打ったピンが切削に影響して、チェーンソーの刃が5分ももたず煙を出すのです。「これでは無理だ!」作業開始早々に現場は重苦しい雰囲気に包まれました。しかし悩んでいる時間は無い。急きょ2台の研磨機を手配し、研ぎながら削ることにしました。5分しかもたないのですから、研ぐ人も大変です。城所さんには削ることに専念して貰おうと、駆けつけた木青会の会員が交代で研ぎました。それと平行して城所さんはチェーンソーメーカーに頼んで、根伐りチェーンソーを手配していました。地中に埋もれた木の根を切るためのもので、石や砂ごと切るためかなりハードなものとのことでした。最悪の状況の中で、本当に色んな方々に尽力いただき、最善の策がなされたと思います。お陰さまで大方、形にすることが出来ました。これが最終審査日2日前です。後は表面を仕上げるだけ、ひたすらグラインダーで削りました。制作に加わりたいとウィークリーマンションを借りて、神奈川県から都城入りしていた作者の川村さんも連日連夜必死に削りました。嬉しかったのは、暗くなってから仕事を終えた木青会会員のメンバーが続々とグラインダー持参で集まって来てくれたことです。「森の待合所、苦戦してるらしいぜ」という情報を聞きつけて、担当に関係なく集まってくれたのです。
さすがに目が潤みましたね。 グラインダーの粉塵を、誰が誰だか分からなくなる程被ったあの時の皆の顔は一生忘れませんヨ。

 
  チェーンソーで造形する。腕力勝負。
   


何度繰り返したかわからない刃研ぎ   左から、作者の川村さん、チェーンソー世界チャンピオンの城所さん、私。
 
  ついに完成、集まってくれた仲間達と。
 
  会場設置作業
 

 会場へ設営に入ったのも前日の午後からと、最後になってしまいましたが、なんとか完成することが出来ました。本当にドタバタした「森の待合所」でしたが、あれは、ただの塊ではないのです。作者の川村さんをはじめ、制作に関わった人全ての思い、いや、この杉コレクションに関わった全ての人の情熱という魂の塊なのです。杉に対する思いの象徴ですね。この作品が、グランプリに輝いたということは、それが伝わる作品になったという事ではないでしょうか。

 10月19日の夜、会場に10作品全て設置出来た風景を見て、長かったこれまでの苦難は全て忘れました。こりゃスギェ〜! スギダラケの会場に感動です。鳥肌が立ちましたよ。10作品にして良かった。
言葉も理屈も要らない、来場してもらった方には、必ず伝わる。私だけではなく、誰もが感じたと思います。そして、杉コレの本質を理解することが出来たと思います。
最後はやりきる。それが都城気質です。本当に有難う仲間たち!(内藤先生風)



 
 

●<わかまつ・やすひろ>
都城地区木材青壮年会
宮崎県木材青壮年会連合会 平成19年度専務理事
ヤマワ木材株式会社 代表取締役
スギダラケ倶楽部 会員NO.566

 
   
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