連載

 

杉で仕掛ける/第12回・実践編 「日向市駅周辺の杉ダラ的鑑賞法2」 

文/ 海野洋光

 

 
 

連載「杉で仕掛ける」の一番手厳しい読者が、妻だ。先月号は、「まあまあ、良かった」とお褒めの言葉をいただいた。結構、「月刊杉」には、何度も書いているが、初めてこのような優しい言葉をかけてくれた。褒められることは、身内でもうれしいものだ。
WCTEのポスターセッションでは、海杉の子どもたちが、写っていた。本当に親バカである。そんなことでもうれしくなる。「幸せは勘違いから・・・」とスギダラ法人会員の川上氏は、言うがその通りである。

   
 

今回の連載シリーズ「スギダラ的鑑賞法」には、私の決めたルールがある。写真は載せない。参考文献などは、他のHPを見てもらう。そして、本当の核心となる解説は、実際に来ていただかなければ、分からない。日向市駅周辺の杉に関しては、設計士、デザイナー、担当者でも知らない海杉しか知らないことがたくさんある。ぜひ、日向に来てほしい。ちなみに日向に来ることを『来日』と書いている。

   


駅のホームには、大きなガラスケースにベンチが2基入っている。この杉のベンチは、どのようにして搬入したのだろうか? 必ず聞かれる。「大きなクレーンで吊るして入れた???」
答えは、簡単だ。海杉の従業員は、「こんなベンチを設計した人は誰だ!!」と怒鳴っていた。うちは、従業員の少ない零細企業だから・・・。本当に苦労ばかりかけて、ごめんなさい。工期が、迫っている現場だし、とにかく搬入は、大変だった。何とか設置したら、内藤設計事務所のK氏が、杉の色について海杉に耳打ちされた。「色が・・・・」

   
 

オビスギの特徴である「黒芯」が気になるようである。耐久性を求める土台ならよいけど、海杉も確かにベンチである家具で色が黒いのは、ちょっと気が引ける。実は、丸太で購入して何本かが、黒い色が出てしまったのだ。大きな杉で節の少ないもの、目の良いモノを選んで、製材前に何本か黒芯の材をあえてはずしていたのだが・・・。それでも、出てしまう。

   
 

木取りでこうなってしまった。「製作に1ヶ月もなかった」と言うのは中々、言い訳にはならない。まあ、いつもの海杉マジックを使って綺麗な杉のベンチができました。
ここまで話をして、木材のプロは、必ず質問をしてきます。「えっ!」「1ヶ月もない???」「丸太から???」
この大きさの杉が、丸太から割れないで製材できる??? 確かに割れていない。「教えてくれ!」と必ず言いますね。「企業秘密です」と冗談を言うと「そうだよね・・・」と簡単に諦めてくれます。生材が割れないで、背割りも入れていない? プロには、不思議なベンチなのです。もう1年になりますが・・・。海杉マジックは、いろいろなところに使っています。
是非、来日してください。
このベンチは、是非、座るだけでなく、夜、トライアルの駐車場あたりから見上げてほしい。
とても綺麗だ。初めてこの場所で見たとき、宝石箱に木製のベンチが入っているみたいでした。この駅は、夜も美しい。そうなんです。
日向市駅の夜を見ないで「日向市駅を見た」と言わないで下さい。日向に宿泊予定の方、出来れば一番近いホテルでしたら、必ず、「駅が綺麗に見える部屋を」とご予約ください。

エレベータもありますが、圧密の杉の手摺を触りながら、一階へ下ってほしい。
降りたら、広いスペースに出るだろう。そこの外壁周りには、なんと集成材の柱が、何本も立ててある。この柱は、ホームの屋根を支えている変形湾曲大断面集成材の使われなかった部材を意匠として使ってある。ホームの梁には触れることはできないが、ここでは、十分触ることが出来る。ペタペタ。触っていると杉の集成材の特徴を話さなければなりません。杉は、ヤング係数と呼ばれる指数が、ベイマツよりも低いのです(おっと、ここは専門家みたいな話になりそうですね)。特に宮崎の材は、ヤング係数の低い材が多く、とても横架材(梁)のようなものには、使えないというのが当時の常識でした。「そこを何とか!」「杉を!」と地元の人間は、食いついて建築家の内藤廣氏にお願いをしていたのです。

   
 

駅舎の工事が始まる前に内藤氏は、海杉に「はじめは、杉は、使いたくなかった」と話してくれました。日本でも珍しい集成材を使った作品を残している建築家でも「杉の集成」となると難しいことなのでしょう。海杉にもわかります。内藤氏の気持ちに変化が出てきたのは、そこの集成材の隙間から隣に見える煉瓦調タイル貼りの「農協会館」で行った都市景観シンポジウム(1999年)が、きっかけでした。海杉の所属する日向木の芽会が、演出担当でシンポジウムの舞台を作製し、ステージには、本物の杉丸太を置いて、森をつくり、大きな杉のテーブルもつくりました。シンポジウムでは、諸塚村の村長が絶叫に近い声で「先祖伝来の山をもう、守れない!」と叫んだ時、大きな拍手が起こったのを覚えています。

   
 

内藤氏は、ヤング係数の低い杉を使うためには、いくつもフィルターを用意しなければ、ならなかったとも話してくれました。この杉の駅舎を通じて杉の使い方が、内藤氏からいくつも提案されました。これを乗り越えた技術は、日向や宮崎の財産ですし、国産材の新しい道が開ける扉だと思っています。しかし、意匠や技術だけでは、どうにもならない状態が、今の日本の林業のジレンマなのです。
もっと近くで、杉の集成材を見てください。杉集成材の大きな特徴は、ヤング係数の低い材を真ん中に持ってきて、強度のある材で挟み込む方法をとっています。ラミナ材をバランスよく配置することによって一定の強度に保つことが出来ます。この方法ですと、材が無駄なく使用できます。品質も管理することが出来るのです。ラミナ材になった杉を見てもどれが強い材なのかわかりません(当たり前です)。

     
 

一階の天井を見上げてください。
乱じゃくに幅が同じで高さの違う杉材を取り付けています。この天井にも関わらせていただきました。いくつかパターンの違う天井の試作品を作って、日向市駅鉄道高架駅舎デザイン検討委員会に持ち込みました。2m角の試作の天井は、とても重く、委員会の会場へ運ぶのに8人がかりで階段を上ってきました(まさか! 一番重い試作品が採用されるなんて・・・)。でも木材屋にとっては、うれしい天井材です。一般材が意匠でたくさん使われているのですから。この天井は、玄関を出ても、続いています。この天井の裏には、市民が名前やメッセージを書いています。海杉の子どもたちの名前もどこかにあるはずです。

玄関をでると圧巻はキャノピーです。
おっとこれは、次号にしよう!

   
   
   
   
   
   
 
●<うみの・ひろみつ>日向木の芽会
HN :日向木の魔界 海杉
「杉コレクション2008」 実行委員長 http://www.miyazakikensanzai.com/mokuseikai/sugi_collection/
   
 


 
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