連載

 

杉で仕掛ける/第13回・実践編 「日向市駅周辺の杉ダラ的鑑賞法3」 

文/ 海野洋光

 

 
 
日向市駅舎内は、本当に杉だらけだが、外の空間も杉をこれでもかと使っている。
キャノピー(※参考:http://ja.wikipedia.org/wiki/キャノピー) は、圧巻だろう。見上げるとまず目に付くのが、杉の集製材を組み合わせた梁群だ。このキャノピーは、東側と西側の両サイドに取り付けられ、東が、約50m西が約100mに延びている。東の大きく伸びた((10m)梁が、38本小さい梁(7m)が26本で構成されている。 西側は、大梁が、50本。小梁が54本でとなっている。

隠れた技術、シアプレート

キャノピーについては、よく見ないとわからない特徴がある。東には見えないけれど、西側は良く分かる特徴に、シアプレートの穴だ。梁と梁が交差するところに小さな切れ目があるはずだ。(東側は隠してある)このシアプレートは、梁と梁のズレを防ぐために取り付けられた金物で東は、亜鉛鍍金板、西はステンレス板なのだ。シアプレートの穴も見せたいと言う配慮からステンレスに変更になった。このキャノピーには、特別な想いが、海杉にはある。平成19年にこの西側のキャノピーの組み立て工事を海杉の会社でさせていただいた。このシアプレートの施工は、かなりの技術を要した。10mから8mの部材に幅3mmの切れ目を入れ、それを組み立て時に合わせて金物を打ち込むと言う作業だが、角度が違うと全く入らないのだ。しかも、ステンレスは、腰が弱くて打ち込みづらかった。
一見なんでもない埋め木
そして、よく見て欲しい。ボルトを隠す穴が、丸い杉の木片で埋まっている。ここは、普通見過ごすところだが、板目の木片だ。
素人には、分からないだろうが、この埋め木http://www.tamak.jp/tmk/umeki/index.htm
は、価格にしたら立方1000万円はするだろう。(試作費用も含めて) この埋め木を作るためにさまざまな、試行錯誤をした。要するに大変だった。
作り方は、企業秘密ではなく、ここで公開しよう。
まず、板目の杉材を張り合わせて、角材にする。厚さ15mmの杉板(120×120)を100枚近く、重ねのだから・・・。
普通の丸い埋め木は、木口方向でしか作れない。年輪の方向だ。大工さんが、柱の死節を隠す時、梅の枝を切ってそのまま打ち込む。生き節に見える。
http://www6.ocn.ne.jp/~fusik/sagyou/index.htm
板目の板を張り合わせ、角材を作り、その角材をマルウッドの丸棒加工機にかけるのだ。通常の作り方は。轆轤(ロクロ)で削りだすのだが、3000個以上作らなければならない。
丸棒加工機なら、すぐに棒状の杉が出来ると考えたのだ。
しかし、そうは簡単にはいかない。どの丸棒加工場も「出来ない」と言ってきた。轆轤のを回して削りだす方法だと長さは、600mmが最長で、なかなか、上手くいかない。本当に職人の腕次第だ。長さが欲しい。ところが、丸棒加工機だと最低でも1500mmなければ、刃にとどかないらしい。今ある手持ちの技術は、田丸さんところの丸棒加工機しかない。「何とか、やってみる」と田丸さんに返事を頂いたものの、入れる度に「ボッキ!」と折れて、加工機をそのたびに停止しなければならない。何本折っただろう。通常の角材なら安いものだが、集成材よりも高い手の込んだ板状の集成角材だから・・・。
何とか上手くいく方法をと考え、砥ぎに出したばかりの新品同様の刃を加工機に取り付けたり、角を落として、6角形にしたり、ゆっくり回転させたり、高速で回転させたり、まあ、あらゆる手を使った。
田丸さんには「これって新しい埋め木の技術だよね。どこもやっていないから田丸さんのところで製品化したら」
まあいい加減なものである。だれもやっていないということは、売れないと言うこと、売ろうにも高すぎて誰も買わないと言うことに他ならない。高い技術を持つ技術者が、イコール儲かる商売人でないということは、十分承知の話である。田丸さんの会社のホームページに「埋め木あります」が出ていないことが何よりの証拠ではあるが、ここで、「板目の丸埋め木が欲しいなら、マルウッドに聞いてください」と宣伝しておこう!罪滅ぼしにもならない、かえって迷惑な仕事が舞い込むだけだろうか?

このキャノピーの埋め木を見た、プレカット工場の人は、「あっ」と驚くだろう。「こんなバカなことを本気でしている」と・・・。

キャノピーは、前述した通り、東側と西側では、違うのです。時期が違うのだから、同然だろうが、作った工場も全く違うのです。本当に残念なことなのですが、宮崎県の大断面集成材メーカーが、07年6月に無くなってしまったのです。このようなことが、全国各地で起こっているみたいです。素晴らしい技術を持っていても需要が減れば、どうしようもありません。しかし、この日向市駅の木部は、どうしても、宮崎県の技術で完成したいと言う想いがありました。ここまで多くに人が必死に頑張ってきたのに最後の最後で、他県のメーカーの仕事になってしまうのは・・・。

本当に忍びない・・・。

「オール宮崎の技術で日向市駅舎を完成させたい」そんな海杉の想いを同じように描いていた仲間がいたのです。ウッドエナジーの吉田社長とランバー宮崎の川上専務です。
集成材の製作は、ウッドエナジー協同組合 http://www.woodenergy.or.jp/info.htmが、加工をランバー宮崎協同組合 http://www.lumber-miyazaki.jp/
が、行い、木部は、何とか宮崎県内の事業社でできることがわかりました。恐れ多いことに、組み立ては、海野建設 http://www.miya-shoko.or.jp/togo/kaiin/umino/
の3社共同体制で臨みました。2社は木材関係では全国レベルの会社で海野建設鰍ニは、少々レベルは違いますが、ポイントとなる技術のシアプレートは、内藤設計事務所の集束材(シアプレート)試験を担当させていただき実績だけはあります。日向木の芽会の会長成崎さんも手伝っていただけるので鬼に金棒でした。

このキャノピーを見上げると「宮崎の技術でできた」と本当に自信を持って言えることが出来ます。日向市駅舎の「オール宮崎」は、最後の最後で心ある有志のお陰で成立しました。「この物件だけは、採算を度外視しても3社でやろう」と言ってくださったお二人に感謝します。日向に来たときは、必ず、このキャノピーを見て欲しいと願う海杉でした。

今回、原稿が遅れました。この話を出そうか出すまいか本当に迷いました。でも、モノを作るのは、全てが順調に行くことはなく、障害ばかりです。結果オーライではありますが、この想い(オール宮崎)は、案外、独りよがりなことのような気もするのです。でも、海杉が日向市駅舎を皆さんに案内する時に胸を張って説明が出来るのは、こんな小さな独りよがりが積み重なっていることを知ってもらった方が良いのでは、と思ったのです。

   
     
   
   
 
●<うみの・ひろみつ>日向木の芽会
HN :日向木の魔界 海杉
「杉コレクション2008」 実行委員長 http://www.miyazakikensanzai.com/mokuseikai/sugi_collection/
   
 


 
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