■ 杉を掛け算で仕掛ける
杉を掛け算で仕掛けるには、ポイントがあります。それは、はじめに大きな目標を掲げることです。何年越しの壮大な計画で結構です。富高小学校の「ふれあい富高小学校 課外授業」が始まるきっかけは、日向市駅周辺のまちづくりへの危機感からでした。新しい日向市駅舎は、素晴らしい建築物になるのは分かっていました。同時に周辺環境も、新しく生まれ変わるためには、まちづくりの主役である民間事業者の建物がポイントになることは、明白でした。でも、当時の日向市駅舎のプロジェクト関係者には、焦りがありました。それは、まちづくりの主役である民間事業者が、新しくできる日向市駅をイメージできていないということでした。デザインを伝えることは、非常に難しい作業です。どんなにりっぱな模型を作っても、実物に近い透視図を描いて上手く伝えようとしても、そのイメージの先にあるものまで想像してもらおうというのは、かなりの困難を極めた作業なのです。日向市駅舎よりも先行して次々と新しくできる民間の建物は、本筋である事業コンセプトが理解できていないものばかりになってしまいました。素人の海杉がみても、杉が使われることのない建物ばかりが出来上がっていきます。地元の駅周辺の民間事業者の人たちも、海杉の顔見知りの人たちばかりです。中心市街地の空洞化、重なる不況、郊外大型店舗の進出など二重苦、三重苦の中での新店舗の建築で苦労も並大抵ではなかったことを知っています。そのことを非難することは誰にもできなかったのです。誰もがジレンマを感じていた時期でした。
事業に閉塞感が漂うなか、「種まきをはじめよう」とプロジェクトメンバーから声が上がりました。今思えば、富高小学校の移動式夢空間は、「杉で仕掛ける」にふさわしい仕掛けでしたが、当時の海杉は、相撲で例えるならば、土俵の徳俵の上に足が離れる寸前のほとんど負けている体勢のときに「そうだ!四股をもっと踏まない」といっているようなものだと思っていました。しかし、結果は、大勝利でした。
プロジェクトの成功のポイントは、杉を媒体にして子どもたちに「自分たちのまちは、自分たちで…」という共通な認識を持ってもらえたこと。そして、妥協のない「本物」を作ることに徹していたことに尽きるような気がします。それを支える大人のスタッフが、いくつもいくつもネタを用意していました。「今日は来ない」と伝えておいて、屋台から飛び出してびっくりさせたり、給食を教室で一緒に食べたり、屋台に自分の名前を書いたり、どれもが小さなことですが、いくつもいくつも仕掛けていました。子ども達も負けずに、お礼に歌を贈ったり、サインをねだったり、いろいろ用意してくれました。
スギダラの活動でも小さな仕掛けに大人が結構喜んだりしています。楽しむ側のゲストが、いつの間にか楽しませるスタッフに替わっているのです。
あたりまえのことですが、掛ける数も多ければ多いほど、答えは大きくなります。注意点は、「1」では、いくら掛けても替わりません。「1+α」が大切です。富高小学校の「ふれあい富高小学校 課外授業」で海杉は、子どもたちから学ばせてもらいました。
子ども達から学んだ+αは、「感謝する心」でした。
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